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Routes 3 -アデュラリア-  作者: ひまうさ
三章 女神の系統
33/59

33#よくある身の上話

「私が覚えている最初の記憶は、初めて系統診断(ルーティスト)を受けたところからです」

 旅を決めた日と同じように、目の前で光がパチンと爆ぜて、一気に明るくなった気がした。あの時の神官の姿はよく覚えていないけど、驚いた顔をしていたのは覚えてる。


「……失敗、だと……?」

 驚きに見開かれた目はその神官だけでなく、周囲の子どもたちも同じで。不安になった私が、私をここに連れてきた少年(当時の孤児たちのリーダーだった)を見上げると、彼がいち早くしゃがんで笑いかけてくれた。


「ああ、神官様はもうお疲れみたいだ。明日また出直してきますね」

 彼は神官に暇の挨拶すると、私を抱き上げ、足早に神殿を後にした。系統(ルーツ)が風の小妖精という彼が歩くと、周囲が飛ぶようにすぎるから、私は彼に抱いてもらって移動するのが好きだった。


「りーだぁ、きらきらっ」

「ああ、そうだな」

 薄い金髪が陽の光の具合で水色にも見える不思議な髪色で、瞳は濃い碧で、肌は傷が多くとも白く透き通っていて、きちんとした身なりをすれば妖精と本当に言われてしまうような少年がリーダーだった。彼の周囲はいつもキラキラとした光が溢れていて、そのせいで確かよく拐われていたと思う。……常に自力で帰るだけの実力者ではあったが。


 使う獲物は湾曲した青竜刀で、それを使って、踊り子の真似事をして孤児たちを養ってくれていたはずだ。


「……フェン、先に行って備えさせろ。チビが系統(ルーツ)不明になった。……騒ぐな、まだわかんね。でも、俺らは見張られてるから、先に撒いてく。チビ? 一人で帰れるわけねぇだろっ」

「フェーン? フェーン、いるぅ?」

「行けっ」

 一瞬リーダーの周囲で突風が吹き荒れ、私はそれを大はしゃぎで見ていた。


「チビ、ちょっち寄り道な? みんなに土産かってこうぜ」

「おみー?」

「そうだ。だから、しっかり捕まってろよ」

「あい!」

「いい子だ。……行くぞ」

 それから二人で露天を見て回り、新鮮な果物を待ち人から幾つか貰って帰った。いつも通る道じゃないのが嬉しくて、私はいつまでもはしゃいでた。


 ああ、なんでこの時のことはこんなにも鮮明に覚えているんだろう。何年経っても色褪せない思い出は、キラキラと輝いている。この後すぐに、何が起こるかも知らずに、ただ私はリーダーと一緒にいられることが嬉しくて楽しくて仕方なかったことだけはずっとずっと覚えている。


「アディ?」

 話の途中で空を見上げて黙りこんでしまった私に、フィッシャーが気遣わしげな声をかけてくる。ディは、心配そうに私を伺っている。私は誰に視線を向けるでなく、ぐるりと一同を見渡してから、ハーキマーさんに視線を戻した。


「最初の襲撃はその日の夜でした。私と同じかその前後ぐらいの子供だけが年上の孤児に隠されて、生き延びることが出来たんです。他は、皆、殺されました」

 思い出すことはいつも容易で、そしていつも怖い。リーダーたちがいなくなってから、しばらくは誰がまとめるでもなく過ごしていたけど、気がついたら私が孤児たちをまとめるようになっていた。


「それから何度か襲撃を受けたけど、幸い数人が自然の系統(ルーツ)を持っていたから、退けることができていたの。そう、私が八つの年までは全てが順調で、私たちはどんな大人が来たって負けないって思ってた」

 膝の上で震える拳を押さえつけて、私はハーキマーに不敵に笑ってみせた。


「ま、つまりは、喧嘩の仲裁ってのは慣れてるってこと。要は相手に躊躇させるネタを作ればいいんでしょ? それには孤児で系統(ルーツ)不明な私が一言それを口にすれば良い。ーーでしょ、フィッシャー?」

 真偽を問いただされても、系統(ルーツ)が判明しない限り、誰もそれを否定出来ない。そこに更に神官の言葉も加えればーー。


「俺は反対だ」

 フィッシャーが答えるより先に、ディが眉を顰め、強い決意の目で異議を申し立ててきた。


「……ディ」

「アディ、アンタは……女神の眷属じゃ、ねぇんだろ? それを言っちまったら、もう」

「ディ・ビアス」

 私は彼の言葉を遮り、一度目を閉じ、深呼吸してから笑いかけた。


「守ってくれるんでしょ?」

 ディはひどく困惑した表情で目線を泳がせ、少し俯いて頭を掻いた。


「当然だろうが……っ」

 やりきれなさで搾り出されたディの言葉に、少なからず私の胸も痛んだ。まだ、誰にも言っていないことがある。眷属でもない私が、何者、なのか。自分のことをただの孤児だと断言できるほど、愚かではない。そう思うのはとっくに諦めてる。


 私は覚悟を決めて、テーブルに並ぶ面々に順に目を向けた。


「じゃあ、細かいことを決めていきましょうか」

 そうして私がフィッシャーたちと相談しながら作戦を立てている間、ディはただじっと不安げに私を見つめていたのだけど、私は気づかないように目をそらし続けた。私達の様子を、ハーキマーさんは何故か苦笑しながら、眺めているようだった。






子供時代のアディの愛称が「ちび」なのではなく、リーダーにとって、守るべき子供は全員「ちび」という認識。

……実はアディとファラの繋がりに関係する人という設定を書きながら思いついた(今更。

イネスの孤児たちは過去は団結力があって、自活していたという強引設定。

年長者が金を稼いで、働けない子供を養ってやっているかんじ。

本当ならリーダーもそれなりのいい所で働けるけど、ちびどもを見るために残っていたという設定。

家は町外れの空屋敷……の地下を勝手に使用。


うん、リーダーの設定深めると面白そう。

まあ単に子アディに「りーだぁ」と呼ばせたかっただけですがね(キリッ

(2013/03/24)

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