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009 魔術式と魔具

 


 私は【付与魔法】という何かに魔法効果を付与できる魔法も使える。

 魔術式を使っての魔道具作りはそれと似ていたけど全然違うものだった。

 威力も効果も段違いに良いものだった。

 魔法陣と呼ばれる魔法で魔術式を書き込む作業があるんだけど、その魔法陣に魔術式を書き込むことによって細かく効果を指定する事も出来た。


 魔法陣と魔術式は基本的構造以外、内容は人それぞれらしく、私の魔法陣に浮かぶ魔術言語と呼ばれる物は何故か日本語の学習ドリルみたいなものだった。


 はじめに大雑把な属性の魔法陣を組みたてると、穴埋め問題みたいな文字の羅列が浮かび上がる。

 でてくる文字は人それぞれらしいけど、私のは日本語だった。


 なので術を行使している人以外この魔法陣は扱えない。


「よし、魔法陣は難なく起動できたみたいだね。案の定ってやつ。普通ここまで出来るようになるには何年もかかるんだけどね。うん。知ってたよチクショー」


 先生は私の物覚えの良さにとても喜んでいるご様子で何より。


 あとは魔法陣言語に沿って書き込んだり組み替えていけば目的の効果を持った魔法陣を完成させることが出来る。


 そのまま魔法陣を魔法として発揮する事も出来るし、媒体に落とし込んで、その媒体に魔力を流すだけで、魔法陣の効果を発揮させることも出来ると言うことだった。


 さらに使いやすい道具に組み込めば魔道具として使うことも出来る、と。


「なるほど」


「…ねぇ、まさかこの説明だけでわかったとか言わないよね? ね? 俺の10年だよ? ねぇ? ファルさん? 授業始めてまだ小一時間だよ?ねぇ?」


 先生がぷるぷると打ち震えている。

 尿意ですか? トイレはあっちですよ。


 とりあえず、あったら便利の代表格【浄化】の魔法を誰でも効率よく使えるようにしてみよう。


 大人の親指の腹サイズのドッグタグ風に作った、魔力を流しやすいで定評があるミスリル板に、漢字ドリル(仮)を書き込んでさらに詳細を書き込んで効果を指定した魔法陣を落とし込む。


 するとミスリル板の中にシュルシュルと流れていき、最後にはとぷんと魔法陣が入って行った。

 成功、でいいんだよね? これで使えるようになったってことかな。


 付与魔法は、そのものに付与して効果を発揮するけど、魔法式を組みこんで魔具にするのは使い勝手が全然違う。


 たとえばこのミスリルの板に【浄化】の魔法を【付与魔法】で付与するのなら、このミスリルの板は浄化の魔法によって汚れ一つなく、たとえ泥に浸け入れてもずっと綺麗なままのミスリル板になる。


 けど【浄化魔法】の魔法陣の媒体としてのミスリル板は、その板に魔力を込め、発動するだけで使用者の意識するものに【浄化魔法】を掛けることが出来る。


 魔力がある人が誰でも扱えちゃう、ある意味恐ろしい物になるわけなんだよね。


 でも強力な魔法であればある程魔術式は組み立て困難な物になって行く。

 必要魔力に応じて魔法陣の層が厚くなるという落とし穴があるからね。


 それを完成させようと躍起になればなるほどマッドなサイエンティスト化しちゃうか変な言い分での世界征服系の怪しい集団になっちゃうかってやつらしいけど。


 私の魔法陣で言えば分厚い漢字ドリルと算数ドリルの攻略が必要になるっぽい。

 でもそこまでして強力な魔法を閉じ込めることはない。

 私が欲しいのは便利な魔法が手軽に使えるもの。


 たとえばロティルが私の髪を乾かすのに、ドライヤーが使えたら便利だなー、とか、錬金術や薬術の実験で、少量何か煮込む時にわざわざかまどで煮炊きするんじゃなくて卓上コンロだったら便利なのになーとか。


 それにコレだったら【アイテムボックス】を再現できる。


 侯爵家のお嬢様になって、手に入る物が色々増えてくると、【アイテムボックス】ってマジ便利な事に気付いた今日この頃。

 私でさえ便利に思うんだから、他の人だって欲しいよね、【アイテムボックス】。


 と言うわけで早速【アイテムボックス】の魔具を作ろうとしたら、とんでもない層の魔法陣が出て来た。

 一瞬びっくりしたけど、対策が無いこともない事に気付いたら結構簡単に容量指定の【アイテムボックス】の魔具が出来たので成功っちゃ成功した。


「え、ファルちゃん? 今の何? いま信じられないくらいの物凄い層の魔法陣出たよね!? その後一瞬で層が減って、それから物凄い勢いで何か書いて指定してたけど、何?なにしたの!? 危ない物じゃないよね!? あの層とか戦略級の大魔法じゃないとなかなか出ない層数だよ!? 大丈夫なんだよね!?」


「うん。【アイテムボックス】。層を減らして容量書き変えた。この部屋くらいの容量にした」


「ぶふぉっ…ふえぇぇ? あ、【アイテムボックス】ぅぅぅ!? ウソだよね!? 冗談だよね? あれ、ちょっと待って、その理論から行くと、もしかして付与魔法使ってマジックバッグ作れちゃったりするのかな? まさかだよね? ンなわけないよね?」


「人は信じたいものしか信じられない。先生が信じられないならそれでいい」


「ちょ、5歳児が何言ってるの!? いや、言うこともそうだけどやることもヤバいよね!? ダメだこれ! 上に報告しないと国が滅びる…!」


「先生。『信じられない』、『ウソ』で『冗談』だと思っているのに上に報告したら先生の頭がおかしくなったと思われるからやめた方がいい」


 それではあまりにも先生が可哀想じゃないか。


「ん? ちょっとまって、自分の事より俺の事心配してる!? 俺が誰かに報告したら自分が大変なことになっちゃうとか思わないの!?」


「こどもだからよくわからない」


「今更それ言うの!? ある意味子供の言うことじゃない気がするけど!?」


「気にしたら負け、だよ?」


「何の勝負? ねえ、これ何の勝負!? …ハッ!? なんかうやむやにされそうになってる!?」


 チッ。

 気付いたか。


 まあ、別に偉い人に報告されたって別にいい。

 せっかく私を引き取ってくれた両親には悪いけど、最悪監禁や強要されたら国外に逃げようと思う。


 元世界知識を活用して【転移魔法】も使えるようになっているので、目視で転移を繰り返して行けば逃げ切れるだろうし。

 それに【召喚魔法】で翼のある大きな魔物を召喚して空から逃げることも出来そうだし。


 いやー、元世界の知識サマサマだね。

 何よりこの世界の魔法が想像力の賜物であることが喜ばしい。


 なんとか1人でも生きていけそうな気がするよね!


 …せっかく家族が出来たのに。

 こんな私にも両親が出来たのに。

 なんて思わなくもないけど、仕方ないね。


 ふと、ぽんぽん、やさしく触れるように頭をなでられた。

 見上げればアレクシス先生が困ったような笑顔で私を見ていた。


 それからしゃがんで私に目線を合わせ


「んな思い詰めたような顔しないでよ。絶対悪い様にはしないから。それにファルを困らせたり悲しませたりしたら俺はアレンやエリオット様に殴り殺されるか切り刻まれて殺されるかしちゃうんだから。ね? 絶対大丈夫なようにするから」


 なんてどうとらえればいいか良くわかんないことを言った。


 頼りになるのかならないのかマジ微妙。

 この人たぶんモテようとして全くモテないタイプだわー。




 その後、一応彼の上司やその他上の人に報告、私の両親も含めての会議を行ったらしいのだが、とくに私が何か言われることもなかった。


 それどころか【浄化魔法】の魔具の発注が城からきて、ちょっとした商売になった。

 ついでに温風が出る魔道具の試作品も発注品と一緒に送ったらそれもまたなかなかの数を発注してもらえたのでいい稼ぎになった。



 ・・・・・・・・・・



 本当に穏便に報告してくれたアレクシス先生へのお礼も兼ねて、私は頑張って膨大な魔法陣の層ドリルを攻略し、先生がまくしたてていた戦略級とまでは行かないけど、怪我や病気に効果のある大規模回復魔法【癒しの慈雨】が使えるようになる魔具を進呈した。



 が、後日。そのせいでまたちょっとした騒ぎになったみたいだけど、私に害が無かったので気にしない。

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