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007 伯爵令嬢にふさわしい服?

 


「ファル、この間シャンプーを譲ってくれたお礼にって、王妃様からとても上質な布を下賜されたよ」


 そう言ってエリオットは私に、数種類の反物を見せてくれた。

 色とりどりだ。


「こんなに…結構奮発して下さったのではないか?」


 たくさんの布類にアレンジークも驚いている。


「そうみたいだね。シャンプーやトリートメント、ボディークリームのおかげで髪質や肌が改善されたととてもお喜びになっていたよ。それに王家にだけは商店に売ったレシピじゃなくてファルの手製で香りもその日の気分で換えられるように数種類献上しているからね。金貨の他にもこうして布までいただけたよ」


「と言うことはそれでファルの服を仕立てると」


「そういうことだね。いい機会だし、仕立屋を呼んでファルに似合うドレスや服を作ろう。ファルをこの家に迎えるにあたってそれなりの数の服やドレスを用意したけど、ファル本人に合わせたモノじゃないからね」


「確かに。年格好を伝えて急遽作らせたものだからな。ファルの雰囲気に合わないものも何点かあったな」


 という両親の会話のもと、次の両親二人の休みの日に仕立屋を屋敷に呼んで私の服を作ってもらうことになった。

 ちなみにその仕立て屋は、レオンドール侯爵家御用達の仕立屋で、主に貴族紳士服専門だと言う話なんですけどー…。



 ・・・・・・・・・・



 ひと月くらいかかってやっと両親の休みが合い、仕立屋を屋敷に呼んだ。


 仕立屋は私の髪色に一瞬息を飲んだがそれだけで、後は淡々と仕事を進める感じだった。


 私の見た目は髪と目が黒いと言うだけで、自分で言うのもなんだけど悪くないと思うんだ。

 何度か鏡で見たけど、結構な美幼女だと思う。


 ただし、基本無表情でぼんやりした目つきではあるけど。

 ぱっちりおめめは目が乾いて仕方ないのでここぞと言う時以外は省エネモードの半眼さ。


 高さ30センチの丸いお立ち台に立たせられ、仕立屋のアシスタントのお姉さんに布をあてられ、あーでもないこーでもないと意見が飛ぶ。


「俺は最新のデザインは取り入れてほしいと思っているかな」


「うーん。シックで無難な昔からのデザインも数着はあった方がいいんじゃないか?」


「では最新の物を2着、オーソドックスなタイプの物を2着ではどうでしょう?」


「その辺が落とし所かな。あぁ、後それぞれのタイプで1着ずつドレスも頼むよ」


「畏まりました」


 色は決まったらしく、後はデザイン。

 そこからが長かったし、あまり可愛いものではなかった。


「ファルはどんなのがいいと思う?こういうのが着たい、とかある?」


 私のなんともいえない残念に思う表情にエリオットが気付いたっぽい。


 イケメンは気配りができる。

 流石近衛騎士様だな。


「かわいいのがいー」


「そっか。ファルは可愛いのがいいのか」


「女の子だな。でも可愛いより綺麗な感じの方がいいんじゃないか?いくつか宝石を縫いつけよう。ファルの髪色ならルビーなんかが似合うんじゃないか?」


「だったら真珠も似合うと思うけど」


「確かに」


 はい、そこで娘を盾に甘い雰囲気出さないように。

 仕立屋さん達が見てますからね!


「ろって」


 私はまだロティルをきちんと発音で言ない。

 よって、ロティルをロッテと呼んでいる。


 ちなみにリヒトのことも発音できないのでリヒトの事はリトと呼んでいる。


 あとエリオットの事はリオ、アレンジークの事はジーク呼びしてる。


「はい、お嬢様」


「のーと」


「はい。ただいまお持ちいたします」


 私とロティルのやり取りを聞いて、リヒトが急いで私の部屋までノートを取りに行く。

 私の護衛だけど、今は私の親であり、彼の上司でもある騎士がいるので雑用に走っている。


 ノートとは私がはじめてお買い物に行った時に買った紙束を紐で綴られた帳面の事。

 紙束とも帳面とも言いづらいのでノート呼びしていたら、家では私の帳面はノートという呼び方として定着した。


 で、そのノートには着てみたい服のデザインが描いてある。

 仕立屋が来るとわかってから、もしかして好きなデザイン選べるかも…! と、下心アリで興奮気味のテンションのまま描いたものだ。

 後で冷静になって描いた物もあるのできっと大丈夫なはずだ。


 大量のシャンプー作成が私の手から離れた為にまた暇になり、その暇に事かいてこの間の初めてのお買いもの時に買った染料を調合して出来た、なんちゃって水彩絵の具できちんと着色もしてある。


「ノートってファルがいつも持ってるあの紙束を紐で綴ったものか。もしかしてそれに何か書いてたの?着てみたいドレスとか、使ってみたい素材とか?」


「うん。ひとつだけでも、いい?」


「もちろんだ。あまりに奇抜なものは作れないが、侯爵家の令嬢としてふさわしいものであれば好きなだけ良いぞ」


 なんだそのハードル!

 ふさわしいかふさわしくないかで言ったら正直ふさわしくはなさそうだ。


 なんたって前世で着たくても着られなかった、趣味に走りまくったゴスロリ風や甘ロリ風のデザインだからね!


 急いで私のノートを持って来てくれたリヒトに礼を言って、早速目当てのページをパラパラとめくる。

 いい感じの落書き帳と化しているノートを、大人たちが興味津々で覗き込んでいる。


「これ」


 無難で大人しめなデザインを選んだ私は決してチキンではない。

 空気を読んでみたのだ。

 だって私ってば仮にも侯爵家相当の伯爵令嬢ですもの。

 なるべくふさわしかろう物を選んださ。わからないけども。


「こここ…こ、これは…」


 控え目に選んだデザインだったが、それまでもパラパラと流れるページを、目を見開いて驚き、ガン見していた仕立屋だったが、私が指し示すページをみてさらに、さも度肝を抜かれたかのごとくめっちゃ見てる。


「すごい、良く描けているね」


「ファルには絵の才能もあったか」


 いえ。才能ではないですね。

 前世の未練ですね。

 こういうデザインがあると知った時には私は既にその様な格好が似合わない年齢になっていた。

 顔も大人っぽかったのでなおさらだ。


 でも今の私は完全なる幼女!

 将来的にはまだどうなるかわからないが、この幼い顔や体形ならこのデザインを着てもおかしくないはず!


 というある種の執念ですね。はい。

 前世で出来なかった事をここで果たすと言うかなんというか。


「才能? 才能…これが、才能だと言うのですか…才能とはなんと素晴らしいものでしょう。なんと美しいデザイン、なんと斬新で革新的なデザインなのでしょう!あぁ、あの、お嬢様。先ほどのページのデザインもじっくりと拝見してもよろしいでしょうか?」


「うん」


 私が許可すると、物凄く感嘆めいたため息を漏らしつつブツブツと独り言を言い、興奮気味に声を漏らしながら、私から預かったノートのページをめくる仕立屋。


「ああ、このデザインにはこの様な応用も…こちらのこれは…まさか紳士服!? 紳士服にもこの様なデザインが…! こちらは靴…なるほど。服に合わせた帽子や靴、小物なども。ああ、まさかこんな日がくるとは」


 四十くらいの慇懃な男性だと思ったけど、最初のイメージは見る影もなく大興奮していらっしゃる。

 なんならちょっと情緒不安定気味に見える。


「失礼ながらお嬢様、このデザイン、全て私に作らせていただけないでしょうか。もちろん指定分以外のお代はいただきません。デザイン代もお支払いいたします。どうかなにとぞッ!」


 何度も頭を下げられた。


 今までにない態度をとる仕立屋に、ずっと御用達ているエリオットがちょっと引いている。

 アレンジークも苦笑いだ。


 私はなんか作ってくれそうで、自分の前世知識のデザインの服も着れることになりそうなことにホッとしたので頷いた。


 後はお金や利権の話になるだったらそれは大人たちでやっとくれ。


 その後、デザインの他に、水彩絵の具風の染料も何故か売ることになり、私はまた大金を手に入れたのだった。

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