38 帰宅
帰り道で言ったんだよ。
転移魔法で一瞬で帰れるよ、って。
でも両親ともにそれではダメだって。
自分達と同等かそれ以上の貴族の領地なら最悪それでもいいかもしれない。そのあとでなんらかのフォローすれば。
でも自分達より低い爵位の貴族の領地でそれをすると、その貴族は高位貴族から無視されたとか、通る価値もない領土とか思われちゃうんだって。
全く通る予定もない領地持ち貴族のやっかみもあるんだろうけど、そんな変な貴族のプライドとかが後々変なことになりかねないから日程が遅れても道が塞がれていたとかない限りは必ず予定した道順を通らなきゃならないみたい。
それに今回ロキシス子爵領で起きた魔物事件で揚げ足を取る貴族が必ずいるから、それもあって転移魔法にたよることはできないんだって。
貴族めんどくさい。
そのおかげもあって、王都の館についた頃にはその館がいろいろ踏み荒らされたあとでしたね。
家のなかは荒らされ、何故か庭の花壇も土をほっくりかえされてて。
そんな状態でも私たちが旅に出ている間、館の維持をしてくれていた使用人たちが荒らされた日から今日までコツコツ片付けくれた状態なんだって。
各部屋の陶器はマストの如く破壊し、布類もビリビリと。絨毯や寝具まで切り裂かれ、厨房や貯蔵庫の小麦粉や豆類の袋の中身全部ぶち撒かれたりでとんでもなかったみたい。
物をわざわざ壊したり、食べ物を粗末にしたり。
うん。普通にゆるすまじ。
犯人は指示した人から末端まで見つけ出して呪ってやる。地味なやつ。呪われてるって気付かないタイプの。
口内炎が出やすくなる呪いとか、毎回うっかり深爪してしまう呪いとか、人と会うと必ず鼻がムズムズする呪いとか、お酒飲んだらついつい何でもしゃべっちゃう呪いとか。
「まあ、とられて困るってものは置いてないけどね。ああ、でも思い入れがあった装備品や服がなくなってるのは悔しいかな」
私が呪いについて考えているとき、さらっと現場検証みたいなことをしている両親たち。
「報告あったし、ある程度予想はしてたがここまでやるかよ。あ、でも付き合いで無理矢理買わされた絵が破かれてるのはいい仕事してくれたな」
なんかポジティブ!
「申し訳ございません。私がもっとうまく立ち回れていましたら……」
居残って館の管理をしてくれた執事のひとり。
どう立ち回ったとしても相手はこうしたと思うよ。
何かを探しているみたいに破壊して散らかした感じだものね。
「そうしていたらお前は生きてなかっただろうな。これでよかった」
おおっ、それもあった!
よかったよ! 死人がでなくて!
きっと両親は死人がでないように指示出ししたんだ。さすがだ。
「しかし、金庫の中のものとそれに……お嬢様のアトリエのものはすべて徴収されてしまいました」
徴収……近衛騎士団長と王国騎士団総長が揃って予定した日付にきちんと帰ってこなかった。そのぶん王と国家が脅かされた、とか変な理由がまかり通ってしまった結果がこれ。
私は思うよ。
だったら国家の防衛に大きく関わる二人を結婚させんな。
二人同時の長期休暇を許可すんな。
騎士団所属の貴族に限り遠方から駆けつける場合は通り道の領主への挨拶パスしてオッケーにしろ、ってね。たぶんあとから冷静になればもっと思うことは出てくるだろうけどさ。
そもそもあの王女様の父である王様がこんな行い許すだろうか?
だとしたらこの状況になんらかの思惑が?
犯人の炙り出しとは聞いたけど、これ程のことをして許されるのはどんな人なんだろう?
こんなことされて、事前情報があったってのもあるかもしれないけど、両親も呆れはしているものの落ち着いてるし。
でもなんだかさっき聞き捨てならない言葉が。
「金庫の中はそれほどのものは入ってなかったと思うけど?」
「あー、もしかして有り金全部持ってかれたとか? 使用人の給金とか入ってたはずだが」
「はい、すべてでございます」
「それはなんとも。もしかして登録ギルドに預けてあったお金も持っていかれたか口座凍結かな?」
「ま、どっちにしろ見せ金だ。必要なカネや財産は手持ちにある。心配ない」
「そうだけど、やっぱり陛下から賜った俺達の家を好き勝手にされたのは気に入らない」
場を和ませるようにしているアレンジーク。
けどエリオットは周囲の温度が下がったと錯覚できるくらいには静かに怒っている。
そんなエリオットをなだめるアレンジークなんだけど……はいはい。
この状況でさえ瞬時に甘い空気漂わせるのやめてほしいです。
さっきまで本気で申し訳無さそうにしていた使用人たちもスンって気持ちを切り替えてキビキビとしたお仕事モードとなって両親を見ないようにしている。
プロだね。
私も早くそのスキル身に付けたい。
ってそんなこと思ってる場合じゃなかった!
両親も居残り組だった執事たちものんきにしてる場合じゃないよ!
ここのみんなの命が無事で怪我もなく居られてよかったけども!
でもそれとは別にヤバイことになった。
「たいへん……」
自分でも血の気が引いてるのがわかる。
「……ファル?」
「どうした?」
「王都で爆発、起きなかった?」
居残り組の使用人に訊く。
「え、ええ。つい先日魔道具研究棟で大きな爆発事故がありました。よくご存知で」
「家に踏み込まれたあと?」
「そう言えばそうですね。……もしやお嬢様……」
「うん。私の魔道具の安全装置が起動した」
「壊されちゃった、じゃないよね? そんな爆発起こるようなもの地下で作ってたの!? その装置絶対安全じゃないよね?」
「もしくは爆発させなきゃならないものを作ったか、か?」
「違う。けど違わない」
「どうゆうこと?」
「普通に外部からまるごと破壊すればそれで普通に壊れる」
「うん?」
「普通に?」
「仕組みを知ろうと分解・解体するなら、正しい手順をふまなければ安全装置が起動、爆発して魔道具の原型とどめない程度には木っ端微塵になるようにしてあった」
「ず、ずいぶん凄い仕掛けをつくったんだね。安全での概念をもう少し教えておくべきだったかな……」
両親にドン引きされた。
「先生が防犯の為にもそうしなさいって」
アレクシス先生は言っていた。
万が一盗まれたときのことも考えておきなよ、と。
盗んで安全な所に持ち帰ってしめしめとしているところで絶望を与えろということですよね!
「いや、あいつもそこまでのことは言ってないとおもうぞ。魔道具の起動に必要な魔法陣が確認する前に消えたり、必要な仕組みが砂になって消えてしまうとか、そんな程度の意味での防犯と言ったのではないか?」
「っ!」
盲点!
無断で人の手に渡るくらいなら爆破! という固定観念しかなかった……!
ちょっとした行き違いはあったけど、爆発の件は問い合わせがあったらお答えする、問い合わせがないならそっとしとくことになった。
屋敷のお片付けはそのまま使用人におまかせして両親は帰還の報告やその他諸々の報告、説明をしたりされたりするためにお城へいった。




