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036 お土産

 

 ロキシス子爵邸で目を覚まして3日目。

 暇を見て、ロキシスの街で双子と護衛と一緒にお店巡りをしても普通に買い物できたの!

 すごくない? 黒目黒髪幼女と双子の幼児幼女が!


 ちなみに双子はロキシス家で過ごすうちに人に慣れたようで、ロキシス子爵にめっちゃ懐いた。いとこになったアウリーゼちゃんとアロイスくんとももう仲良しだ。


 ロキシス子爵家もそうだけど、ロキシスの町の人もいい人たちだった。


 思い返してみればロキシス領に入ってからの買い物は黒髪の云々じゃなくて「お前子供のクセにこんなに大量に買い込んで大丈夫なんだろうな? 金銭的にも、保護者的にも」てな意味合いであんまり相手にされてなかったのかも。

 でもそのあとにメイドなロティルと見るからに騎士見習のリヒトが私の背後にいるのを見ていろいろ売ってくれたからいいんだけどね。


 他領では私の容姿にビビって話もしてくれない人が多かったよね。

 でもそのあとリヒト単独で買い物しまくってくれたからいいんだけどね。


 で、ここに来てふと思い出したんだ。

 買い物の目的がいつのまにかかわっていたことに。


 最初は「なんかいい食材ないかなー。あ、米発見! 小豆発見!」とかワクワクしてたんだけど、そのうちにどのくらい買い占められるかになっていった。


 おかげで私の【アイテムボックス】には謎なくらいたくさんの穀物や野菜が入っている。

 レオンドール侯爵家で消費するなら十年はいけそうだね。

 もっと欲しい野菜や果物があるからまだ足りないなと頭の片隅でぼんやり思う私ってなんかちょっとダメな感じのヤツかもしれない。


 なんでこんなことを急にふと思ったかって?

 それはね、街での買い物から帰った私に「買い物いくならじぃじ言ってくれたらなんでも買ってあげたのに!」と悔しげな表情でロキシス子爵言って、それからまたここにいる間はロキシス子爵がなんでも買ってくれるって言うからさ。

 双子は「ほしいものありません」「ほしいもの、わかりません」て言うし。子爵しょんぼりだよね。


 だから私は「魔物の素材が欲しい」って言ったら急に真顔になって、それからじわりと目に涙を浮かべ、顔をくしゃっとしてさ「町の中の事を気にしてそのように遠慮しておるのか! なんと優しい子! でもなあファルたん。ファルたんの父たちのおかげで余裕をもって復興出来ている。遠慮などしなくていい。もっとこの祖父にねだってくれ」とか言われて考えたんだ。


 でも、やっぱり考えた末に


「……魔物の、素材!」


 しか思いあたらなかった。

 欲しい物は買ったし、なんなら自作できる。

 むしろ今の私に足りないのは魔物の素材!

 先の人為的なスタンピードでフレッシュな素材が手に入る! そんな機会は私の今の年齢ではめったに無いことなんだよ!


「ファルたん……」


 悲しげにしょんぼりするロキシス子爵。

 これ以上、上手く説明できるような語彙を持ち合わせていない私はオロオロ。


「お義父様、別にファリエルは遠慮などしているわけではないのですよ?」


 私に女神が微笑んだ!

 アウリーゼちゃんとアロイスくんのママ!

 ロキシス子爵嫡男の奥さん! 次期ロキシス子爵夫人! オランジーヌ様!


 私たちは昼下がりのお茶会をしていた。

 メンバーはロキシス子爵、オランジーヌ様、私。

 あとはそれぞれの使用人が控えている。

 私の両親とオランジーヌ様の夫でアウリーゼちゃんとアロイスくんのパパ、アリオスト様は街の復興現場に行ってるよ。

双子とアウリーゼちゃん、アロイスくんはお昼寝中。


 ちなみにアリオスト様もめっちゃいいひとで、アレンジークをもっと落ち着かせて柔らかくした感じの大人なおじさまだった!


「う?」


「見てくださいませ。ファリエルを。思い出してくださいませ、シオル、シアラ……それにレオンドール侯爵にロキシス伯爵の衣装や装飾品を。子供たちはまだしもその両親である卿たちの髪や肌の艶。ここにはない、洗練されたものがきっとたくさん使われていますのよ? それにレオンドール侯爵家の土産に菓子がありました」


「菓子? そんなものあったか?」


「んんっ、ええ……まあ」


 お菓子に反応するロキシス子爵に、オランジーヌ様は軽く咳払いして目をそらした。

 どちらもおちゃめさんだ。


 お土産にはお菓子の他にシャンプーセットやボディークリームも入ってるからね。

 奥様方は既に使ってるっぽい。キラッキラのトゥルントゥルンだ。


「そ、それはそれとして、それも驚くほど大変美味でした。その様なものが手に入る環境にあるのなら、こちらで下位互換の様なもの持たされても嬉しくないでしょう?」


「ふむ……まあ、それもそう……なのか?」


「きっとそうです。それに王都では物流こそ多岐にありますが、既に加工済みの素材がほとんどではないでしょうか? ですので、ファリエルは心から魔物の素材が欲しいと言っていると思いますよ」


 言い感じに話が落ち着いた!

 オランジーヌ様ナイス!


「魔物の皮! 骨! 乾いてないスライム素材! 他、破棄予定素材!」


 せっかくのオランジーヌ様からの援護、たたみかけるぜ!


「ぬ? 破棄予定素材? そんなもの、何に使う?」


「練習」


 キリッとしたどや顔で言いきってやったぜ!


 しかしロキシス子爵はますますわからないという風な表情を浮かべ、せっかく援護してくれたオランジーヌ様までハテナ顔をしている。


 うん。困った!


「あの……」


 失礼します。と会話に入ってくれたのは我らがロティル。

 説明してくれたよ。

 私が普段何をしていて、何故魔物の素材を欲するのかを。

 さすがロティル。大好き!

 あとで、ぎゅーってしよ。


「なるほど……我が外孫は才女であったか!」


「まあ! あのシャンプーやクリーム、お菓子もファリエルが作ったの!? 噂では王族が愛用し、王都で流行していて入手困難と言われているから、てっきりエリオット卿かアレンジークの伝手で入手できたのかと……」


 ロキシス子爵は嬉しそうに喜んでくれて、オランジーヌ様は口元を押さえてびっくりしている。

 でもそれからオランジーヌ様が席をたち、私の前まで来たかと思うと腰を屈めてきゅっと柔らかく抱きしめてくれた。


 なんだこの急展開!?

 めっちゃほめてくれるのかな?

 よーしよしよし! よくやった! 的な?


 でもそれとは違う雰囲気なような……?


「ファリエル。あなたがロキシスの家系に来てくれて良かったわ。才能を発揮してくれるのも、嬉しく思うの。でもね、あまり無理はしないで。髪や目のことで負い目を感じて無理してない? 必要以上に頑張ってない? そんなに頑張らなくてもあなたの両親や私たちロキシスの者は既に家族なのよ」


 少し体を離し、じっと目を合わせるオランジーヌ様。

 その目には涙が滲んでいる。


 また捨てられないように無理して必死に自分の価値を高め、大人たちに媚びているように見えちゃったかな。


 半分は趣味ですけどね!

 残りの半分の半分は皆が喜んでくれるから。

 もう半分の方がやっぱ「できますよ」感を出して自分に価値があるように見せた卑しい気持ちかも。


 卑しい気持ちを言い当てられた。

 恥ずかしい。

 でも正面切って受け入れてくれた。

 こんなにカッコいい女性がこの世の中にいたんだ。


「うぐっ……」


 なんていっていいか言葉につまり、なんだか涙が出てしまった。

 何でだろ?


 そんな私をオランジーヌ様はまたそっと抱きしめてくれた。



 それからしばらくして私の涙がひっこんで、オランジーヌ様が席にもどり、メイドに熱いお茶に取り替えてもらうとき。


「まあそれはそれ、これはこれとして、ファリエル。何かいいものが作れた際は当家にも融通してくださいませね」


 と言ってウインクかましてくれたオランジーヌ様は大人の女性というよりは茶目っ気たっぷりな美少女のようだった。


 そんな長男の嫁を見たロキシス子爵がちょっと呆れ顔だったのを見た私は、なんだかおかしくて笑ってしまった。

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