035 ロキシス子爵家
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「ファルたんもしおるんもしあらたんもいいこでちゅねえ。と~っても可愛いでしゅねえ」
アレンジークの父で、現在お世話になっている館の主であるロキシス子爵。
大柄でがっしりした体格に、きっちりデザインされ整えられた髭が厳めしい面構えを強調している。
……黙っていれば威厳ある貴族家当主なんだろうけど、私たち子供と接する様はふにゃふにゃ笑顔の好好爺。
といっても、全然若く見えるんだけどね。40後半くらい? 貴族だから結婚は早いだろうね。うちの両親が遅すぎていたようだ。
「親父、やめてくれ。見てるこっちが恥ずかしい」
そんな好好爺と化しているロキシス子爵を、ロキシス伯爵であるアレンジークがげんなりと眺めている。
いや、眺めてる場合じゃないから。
助けてよダディー。
ロキシス子爵は朝食を食べ終え、まったりと家族団欒していた私たちを見つけ、私たち姉弟妹を三人まとめて抱き上げ、現在メロメロ状態と化している。
さっきから私たちはロキシス子爵にほっぺにチュッチュされたり、ほっぺに頬擦りされたり欲しいものや、食べたいものを聞かれまくったりしている。
「ふんっ、なんとでも言え! こんな可愛らしい外孫を無責任に甘やかせる機会、一時も逃せるものか! 俺はずっと孫を可愛がりたかった! しかし、うちの孫を可愛がるのは教育に悪いとさせてくれなんだ」
奥方にも、それから嫡男夫婦にも威厳ある祖父として振る舞うように言われているらしい。
「だからってうちの子を必要以上に甘やかすのやめてくれ。あとやっぱり気持ち悪い。」
「何を言うか! めったに会えない外孫だぞ? 今甘やか……可愛がらないでいつ可愛がる? 今だよなあ? そーでちゅよねー、ふぁ~るた~ん、し~おる~ん、しあらた~ん」
キリッとした顔でアレンジークに抗議し、次の瞬間にはメロメロ顔で私たちの名前を呼ぶロキシス子爵。
息子から気持ち悪いと言われたことはスルーするようだ。
私は戸惑いしかない。
双子はちょっとだけ楽しいようで、嬉しそうにしているけど、私は気をぬくとしょっぱい顔になりそうなのを無表情で堪えている。
エリオットはロキシス親子と私たちをまとめて微笑まし気に穏やかな眼差しで眺めている。
ここに私を助けてくれそうな大人はいないらしい。
その後しばらく私たちはロキシス子爵の猫っかわいがりにあったが、ロキシス子爵家の執事がロキシス子爵を仕事に戻るよう促しに来てくれたことで解放された。
ここの執事も優秀であると私は確信した。
「おじいちゃんまたちょっとお仕事行かなきゃいけないけど、夕食にはみんなと一緒出来るように急いでお仕事片付けて来るからね! 夕飯はおじいちゃんと一緒ちまちょーねー」
言いながら私たちを下ろし、順番にわしわしわしと頭を撫でられた。
頭がもげそうになることはなかったけど、かわりに髪が、もじゃもじゃになった。
嵐のようなロキシス子爵と別れ、我々子供は1部屋にまとめられメイドたちに見守られながら遊ぶ。
両親はロキシス子爵の仕事の手伝いに行った。
魔物被害で混乱している街でも王都の騎士団長という肩書きの二人がいることで安心感をあられたようで、今は落ち着いて復興にあたっているらしい。
魔物被害の原因究明も進んでいるようで、近衛騎士団長と王国騎士団総長の肩書きも伊達じゃないね。
大人たちが忙しなく過ごすなか、我々子ども組はその数を増やしてまったりですよ。
「まあ! ではファリエルは王城に行ったことがあるのね!」
「うん。騎士団と模擬戦した」
「ん? 王女様にお茶に誘われたのではなかったのか?」
ロキシス子爵の内孫のアウリーゼちゃん(8)とアロイスくん(6)も一緒にさ。
人見知りの双子にかわり、お姉さんな私が率先してコミュニケーションとっちゃってるよ!
「騎士の娘の嗜みとして模擬戦は必須らしい」
アウリーゼちゃんはアルカイックなスマイルをくれたけど、アロイスくんは大人びた呆れ顔で
「ファリエル。お前それ、騙されてないか?」
冷静に分析してくれた。
おう、マジかよ。
模擬戦、王都暮らしの淑女の嗜みじゃなかったのかよ。
私がよほど驚いた顔をしていたのだろう。
アウリーゼちゃんとアロイスくんは子どもながらに慰めてくれた。
ええこたちや……。
そうなのだよ。
生粋の貴族の子で、私たちの出自も理解した上できちんと従兄弟として接してくれる、めちゃくちゃいい子達なんだよ!
双子の人見知りも慣れるまで少しずつ声をかけつつそっとしてくれるという絶妙な取り回しもしてくれる、めっちゃすごい子たちなんだよ!
~アウリーゼ・ロキシス~
アレンジークおじさまが帰って来ると聞いて、楽しみだったわ。
めったに会えないおじさまだったし、一族の誉れとしてお父様やお爺様がいつも自慢気にはなしているもの。
弟のアロイスは赤ちゃんだったから覚えてないけど、わたしは少しだけ覚えているわ。
とても優しいおじさまだった。それにとてもかっこいいのよ。
若くして騎士団の総長になったのもすごいわよね。
そんな一族の自慢のアレンジークおじさまが、伴侶と引き取った子どもと一緒に帰ってくる。
その伴侶は王家の護衛を務める近衛騎士団の団長。
引き取った子供は孤児と双子。
初めてその事を聞いたときはびっくりしたけど、それはすぐに興味にかわったの。
すごいわ! いつも王様の近くにいる人がおじさまの伴侶! 市井出身のいとこ! 同じ顔をした子たち!
不思議な人たちがうちにくるのよ! おじさまの家族として!
楽しみ以外のなにものでもなかった。
お父様もお母様も弟も、もちろんお爺様も、おじさまが家族を連れて帰ってくるのをとても楽しみにしていたのよ。
なのに、あんなことになるなんて。
おじさまたちがあと半日で街につくと知らせが来て、そのあとすぐに街の門のすぐ外に魔物の群れが押し寄せてきたって報告があって、騎士や兵が出て、わたしたちは館からでないようにって言われて、周囲のピリピリした雰囲気に気圧されて言われるままに館のなかで過ごしたわ。
わたしと弟はお母様の部屋で過ごしていたのだけれど、外の報告はこまめにお母様にも上がってきたの。
そんな状況の中で、1日が過ぎて、2日が過ぎ……刻々と上がってくる情報の中で、おじさまの長女である市井出身のいとこが大きな魔物にさらわれたって。
その大きな魔物は街の門を壊したり、上空から街を襲ったりしてるって。
まわりの大人たちの顔色でわかったわ。
もうダメなんだって。
何がどうだめなのかはわからないけど、死ぬかもしれないって思ったの。
でもね、
「きっと大丈夫だと思うの。おじさまは騎士団の総長で、そのおじさまの伴侶のかたは近衛騎士団長よ? この国で一番強いひとと、護ることに一番長けたひとがいるんだもの。そしてそんなお二人の長女として教育された子は魔物なんかに負けないわ!」
子供の強がりだって思われたと思うの。
でもいい。
わたしが言葉に出したことで、さっきまで大人たちの雰囲気に泣きそうになっていたアロイスにいつもの生意気さが戻り始めたもの。
お母様もメイドたちも、おじさまの強さを思い出したようで、焦りが減った感じにみえるもの。
3日目の早朝におじさまの双子の子供とおじさまのところの使用人が屋敷に避難してきたの。同じ顔の可愛らしい子達。王都育ちの子だけあって、見た目も服装も挨拶も洗練されたものだったわ。
けれど挨拶が終わって館で休むように言われた双子はすぐに館から飛び出そうとするの。
「ねえさまがまものにさらわれたの」
「ねえさまをおさがしするの」
護衛に引き戻され、泣きながら長女を探しに出ようとする双子に、私たちも周囲の大人たちも心を痛めたわ。
そんな時間が何日か過ぎ、やっと魔物が引いた、町も大丈夫、おじさまたちのおかげで被害は最小限に押さえられたと報告をきいてやっと安心できたの。
そして思った通りというか、おじさまの長女は自力で戻ってきたって聞いたときは、やっぱり! と思ったと同時にすごいと思ったし、憧れを感じたわ。
そしてご対面……はすぐには叶わなかったわ。
おじさまの長女、ファリエルはよほど疲れていたようで、眠ったまま館に到着。
ファリエルを抱えたその人がおじさまの伴侶である近衛騎士団長のエリオット・レオンドール侯爵。
美しいとはこういう人のことを言うのね……と思いかけたとき、レオンドール侯爵の腕の中で眠る黒髪の幼子が目に入る。
寝顔でわかるほど美しい子! 子供なのに美しいの!
わたしにとっての衝撃的な出会いを果たした次の日、わたしは学んだわ。
対外的な淑女教育も完璧で見た目の美しさを覆すほどの残念さって、世の中にはあるのね。
でも可愛いは正義ってこういうことなんだわ!




