030 リヒト 3
急いだ甲斐もあり、なんとか安全部屋を見つける事が出来た。
ここなら魔物も入って来ない。
一気に気が抜けてしまいそうになる。
お嬢様もここが安全部屋と知ると、ロティルに荷物を渡して倒れるように眠ってしまった。
それをそっとロティルが支え、アイテムボックスの魔具から毛布を取り出し地面に敷き、その上に眠るお嬢様を寝かせた。
「やっとひと心地つけますね」
ロティルにしては珍しく、疲れた表情で呟く。
いつも表情まできっちりしているロティルだが、こういう表情もするんだなと感慨深くなる。
「そうですね。…お嬢様からは何を?」
大きな、見なれないものを渡されていた。
「そうでした。これは…何でしょう?」
変わった形状の袋に入っている。
袋の素材も見なれないものだ。
開け口らしきところの隙間に指を入れて、開くようで、すんなりと荷をほどくことが出来た。
よくできた袋の形状に驚いた。
そこから中身を出していくが、それでもなんだかさっぱり分からない。
荷の上に、丁寧な図解入りの薄い冊子状の紙束があった。
「紙がありますね。説明書でしょうか」
「そうみたいです。テントのようです。それから簡易お手洗いと、簡易浴室、簡易キッチンがあります」
「…それはなんとも豪華なものですね」
さすがお嬢様。としか言いようがない。
ロティルが軽々と荷を持っているあたり、それほど重くはないのだろう。
普通、騎士や兵士の遠征時に使用するテントは魔物や動物の皮を使用するのでそれなりの重さがあり、がさばる。
しかしこれはどういうことだろう。
ロティルがテントと思しきものの留め具を外すと、ばふっと勢いよくテントが開き、それこそあっという間にテントの形になってしまった。
「…すごいですね」
「そうですね…」
あまりの事に、僕たちはそうとしか言えなかった。
テントの素材も丈夫そうで、テント内も大人3人なら余裕で寝られそう。無理をすれば4人くらいは大丈夫そうだ。
「寝袋というものと、毛布も4組あります」
ロティルの持つ冊子を横から見させてもらい、冊子の図と実物の寝袋を確認する。
「寝袋…これですね。…ああ、これは今回の使用は避けましょう。安全部屋と言ってももしかしたら他の冒険者や探索者が来ないとも限りません。この中にすっぽり入ってしまうと万が一の時逃げ遅れてしまいます」
「そうですか。では開いた状態で敷布代わりに使わせてもらいましょう」
「そうですね。あとは…このお手洗いは助かりますが、浴室はどうなのでしょう? 【クリーン】の魔具もありますし…」
「浴室はやめておきましょう。今回は【クリーン】で済まさせてもらいましょう」
二人それぞれ自分に【クリーン】の魔法をかけ、ロティルがお嬢様にも【クリーン】をかけ、テント内にお嬢様を移動させてもらった。
それから二人で携帯食で食事をとり、先に寝る順番を決める。
「リヒト、お先にどうぞ。ここを抜けるまではリヒトが主導となっての行動となります。ここで一番神経をすり減らしていたのはリヒトです。マッピングもしていたようですし、お疲れでしょう」
「それをいうならロティルの方こそお嬢様を気遣いながらの移動と慣れない警戒で疲れたでしょう?」
「いえ。リヒトからどうぞ」
引かない口調で言われてしまった。
こうなると先に休むことを無理に勧めるのも変な誤解を生んでしまいそうなので、素直に従うことにした。
「…では、お言葉に甘えます」
「はい。おやすみなさい」
ロティルはテントの前で見張りをし、僕はテントの横に寝具を広げてそこに横になる。
いろいろありすぎて、横になってすぐに眠ってしまった。
4時間経った頃にロティルに起こされ、見張りを交代した。
ロティルもテント横で寝ようとしていたのでテント内のお嬢様の隣で休むように言った。
「お嬢様が起きた時に1人だと不安に思うかもしれない。隣にロティルがいた方が安心するだろう」
というと、すんなりテント内で休むことを決めたようだ。
4時間と言う時間だが、深く眠ってしまっていたせいか、充分に休めたと思う。
昨日精神的に全然余裕が無かった。
寝てすっきりした今なら昨日の自分の不甲斐なさが良くわかる。
護衛の僕がしっかりしないと、お嬢様やロティルを余計不安にさせてしまう。
その点、昨日のお嬢様には救われた。
高難易度のダンジョンだとお伝えしても、怯えるどころか前向きに考えていた。
それで僕もロティルも少し余計な緊張がとれた。
でもいつもならもう少しお嬢様を気遣えていたはずだ。
急いで移動したせいでお嬢様にはかなり負担があっただろう。
せっかくの強力な結界の魔具が生かし切れていなかった。
休み休みでも良かったはずだ。
たとえ途中でお嬢様が寝てしまっても、あの結界と魔剣があれば僕1人が魔物に対応して進めば良かったんだ。
偉そうなことを言ってしまって恥ずかしい。
結局僕は焦って周りが見えてなかったんだ。
今日は気をつけよう。
もっと力を抜いて、お嬢様が作った魔具や魔道具、魔剣の性能を活かそう。
考え事と反省をしているうちに4時間が過ぎていた。
そろそろロティルを起こそうと思ったが、この場合、どうすればいいんだろう。
テント越しに声をかけるとお嬢様が起きてしまう。
かといってそっとテントを開けて眠っているロティルをゆすり起こすのも違う気がする。
……。
どうすればいいんだ…!
ロティルの起こし方に悩んでいると、テントの中からごそごそと音がした。
ちょっとほっとしてしまう。
この気配はお嬢様だ。
そしてお嬢様がテントから出てきた。
朝の挨拶をしたが、ちょっとまだ寝ぼけているらしく、回りをキョロキョロと見渡して、ようやくここがダンジョンであることに思い出したご様子。
それから用足しに行かれた。
お嬢様がテントを出てすぐあたりにロティルが起きる気配がした。
よかった…。
僕がキャンプ道具を片付ける間にロティルが自分の身支度とお嬢様の朝の支度を終えてテントから出て、お嬢様が【アイテムボックス】から適当に出した朝食の準備をしてくれる。
その間に残りのテントをお嬢様の説明を聞きながらしまっていった。
朝食はお嬢様が「おべんと」と言っていたもので、3種類のサンドイッチとその隣に仕切りがあって、可愛らしいピックに刺さった肉団子や卵焼き、フルーツが入っていた。
お茶も屋敷にいる時と変わらないものをロティルが用意し淹れてくれた。
ダンジョン、なんだよな…。
食事のあとはちょっとしたミーティングをして本日の行動を話し合う。
そのとき少し話が脱線し、なぜかお嬢様が僕の分のテントも作ると言っていた。
僕だけテントの外で寝ていた事を気に病んだらしい。
護衛なら当たり前だし、騎士団の遠征では野宿も当たり前にあった。そういうのも説明したけど、お嬢様は既にテントをもう一つ作ることにしてしまった。
張り切っているご様子なので、ロティルと目配せし、お嬢様の気が済むようにしてもらうことにした。
新たなテント作成でお嬢様のお手を煩わせてしまわないように、できるなら今日中にダンジョンから脱出したい。




