表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/47

028 リヒト 1

 


 コーネリー男爵家の三男として生を受けた僕は、10歳で騎士学校へ入り、12で卒業。

 そのまま騎士となることが出来た。


 騎士団の下っ端の下っ端から始まり、わずか一カ月で下っ端の下っ端を卒業し、下っ端になれた。

 小遣い欲しさだったけど、なんとか時間を見つけては事務方を手伝っていたのが功を奏したらしい。


 それからさらに2カ月が過ぎ、なんとか下っ端を脱せる見込みがついた頃だった。

 王国騎士団総長であるアレンジーク・ロキシス伯爵から「娘の護衛兼世話係になってほしい」と頼まれた。


 総長は王命のもと、近衛騎士団長と婚姻したと聞いている。

 それに伴い孤児院から養子を迎えることとなったそうだ。


 孤児院から、ということは市井の子だ。

 貴族家の三男として生まれた僕が、平民の子の面倒をみるのか。


 はじめはそんな事を思ったが、貴族家出身と言っても市井と変わりない暮らしをしていた。いっそ市井の子の方が裕福なんじゃないかと思えるほどの貧乏貴族家出身の僕が言えた事でもないかとすぐに考えを改めた。

 それにせっかく総長からわざわざ指名されての話だ。

 今後の出世の為にも平民上がりのお嬢様の面倒をみるのも良いかもしれない。


 それに給金も今以上に出るし、雑用からも解放される。

 総長からの直接的な稽古もつけてもらえるかもしれない。


 そんな下心のもと、総長の話を受けた。



 ××××××××××



 総長と近衛騎士団長が生活する屋敷に住む事になり、少ない荷物を持って引っ越を完了したその日に、同僚となるメイドを紹介された。

 同じ男爵家の令嬢で、フロンハイム家の次女とうかがった。

 感情の見えない礼義的な笑顔であいさつされた。

 仕事上、お互いを呼び捨てで呼び合うことを決め、仕事の割り振りもその日のうちに決めてしまう。


 ロティルは僕と同い年で、メイド教育の他、護衛術の訓練も受けていると言っていた。

 これから僕は従僕としての教育をひと月みっちりと受け、お嬢様の護衛兼世話係となる。


 僕とロティルにはそれぞれ3名ずつの使用人がサポートとして付く。

 全員年上のベテランだ。


 直接お嬢様のお世話をするのがお嬢様とより歳の近い僕とロティルになるのでこの様な形になった。

 サポートメンバーも僕たちをしっかり補助し、教え導く事を総長やこの屋敷の主であるレオンドール侯爵によく言い含められ、それ相応の給金ももらっているらしいので僕たちの下に付く事に否はないらしい。

 それに「年下の部下でありながら上司としての役目もある、やりがいある仕事だ」と面白がっていた。


 部下の使い方、頼み方、指示の仕方など、毎日覚える事がたくさんあった。

 騎士団で雑用をこなす方が何倍もマシだと思えるほど、お嬢様の護衛としての役目は大変だった。主に人への指示が。


 騎士家の令嬢となるお嬢様の護衛は、自宅やご両親とお出かけの際は護衛過多になりがちになるらしいので、僕は側仕えとしての仕事も兼任になる。


 お茶の用意や食事のサーブの仕方はなんとなく形にはなってきたと思う。

 けど、お嬢様の身の回りの雑貨などの用意を考えるのが大変だ。

 ロティル任せだけでは務まらないらしい。

 流行を知らなければならないし、女性との接し方も学ばなければならなかった。

 毎日がダメ出されの連続だった。


 週に一度、総長から直々に剣術の訓練を受けられることが、まさかたまの癒しになるとは思いもしなかった。


 それでもひと月後にはなんとか様になった…と思いたい。


 その夜、お嬢様をこのお屋敷にお迎えするのが明日になることを知らされた。



 ××××××××××



 お嬢様は思った以上に幼いお嬢様だった。

 3歳と聞いていたが、歩きはじめの赤子ではないかと思えるほど。

 とても可愛らしいお顔だが表情に乏しく、言葉数も少なく、そして──黒い髪に黒い瞳だった。

 実家の男爵家では然程気にはしていなかったが、他家では過剰なほど黒髪を嫌っていると聞いたことがある。


 それでもここでは喜ばしい事のようにお嬢様を迎え入れているようなので、お嬢様の髪や瞳の色は気にしない。

 下っ端の、さらに下っ端をしていた時期、市井ではわりとよく見かけたし。




 お嬢様は無口なお子様だが、周囲の言っている事は理解していた。

 理解しすぎるほど理解する。あの噂に名高い冷血なる守護騎士たるレオンドール侯爵が焦りを見せるほどにお嬢様の理解力がすごかった。


 3歳で貴族教育を終え、4歳で魔術学の概念を覆し、さらには流行をつくり財を得ている。それは今でも続いている。

 そして5歳で魔術の他に武術も極め、騎士団の団長格をまとめて倒すほどになっていた。武術を習い始めてたった数カ月で。

 それに魔具や魔道具も作り始め、毎日楽しげに忙しくしている。下にご兄弟ができてからさらに張り切っているご様子で、食の流行もおつくりになった。


 侯爵家に養女として迎え入れられるわけだな、と毎日感心しきりだ。


 しかし、レオンドール侯爵と総長も、お嬢様がここまでの才女だとは思ってなかったようだ。


 お嬢様の作品を我事のように嬉しそうにしてお嬢様をお褒めになるのだが、後日、毎回のようにそのお嬢様が作りあげたもので頭を痛めているご様子だった。


 あと、気付かないようにしていたけど、レオンドール侯爵と総長が日を追うごとに仲睦まじくなっている。

 お嬢様をお迎えして以降はとくにそれが顕著になっている。

 職場では険悪なんだけどな…何故だろう?


 それにロティルも変わったと思う。

 最近では表情が柔らかくなった気がする。自然な笑顔も見られるようになった。かわいい。



 ××××××××××



 お嬢様の初めての遠出。

 レオンドール侯爵と総長の里帰りがメインではあるが、我々従者に説明されたのはお嬢様方を自分たちの子として北から東方の貴族へ紹介してまわる名目もある、と。

 東方の貴族はともかく、北方の貴族にお嬢様方を紹介すると言うのは大丈夫なのだろうか。

 黒髪や双子に否定的な貴族がとくに多いと聞く。


 逆に東方は寛容だ。

 西と南は日和見貴族が多い。僕の出身もそちら側だ。



 北方貴族と接してもお嬢様は通常運転だった。

 弟妹様方はすっかりおびえてしまっていた。普通はこうだと思う。

 しかしお嬢様は意に反さないで買い物を楽しんでいた。


 そんな民芸品を大量に買って、何に使うんですか?

 レオンドール侯爵のご実家である伯爵家へのご挨拶以降は穀物や野菜にも興味を示され、爆買いするお嬢様。

 お店の商品にでもするのだろうかと、皆が思っているので誰もお嬢様の爆買いに口出ししない。興味程度に何に使うか聞くだけだ。

 聞いても「おいしいおかし」としか答えない。


 お嬢様は5歳になっても説明が下手だった。最近は学習されたのか、その「おいしいおかし」の絵もつけてくださるが、おいしさの見当もつかないので皆でお嬢様の絵を褒めるに至っている。


 北方を抜け、東の領地なるとこの旅に参加している皆の雰囲気も柔らかくなる。

 皆お嬢様方を心配していた。

 レオンドール侯爵家に仕えるものは皆お嬢様方を慈しんでいた。

 いい家だと思う。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ