024 野営という名のなにか
買い取りの間、他の農家の人からも「うちのも何か買い取ってもらえないか」と頼まれたので、買った。
米や豆じゃなく他の作物だったけど、品質は悪くなさそうだったので、良さそうなモノは全部買い取った。
全て税の余剰分だし、自分たちで食べる以外のモノだし、領都へ売りに行くより村にいながらにして安全に売れるし…で、ほとんどの家が売りたいものを持ってきた。
現金の前では黒髪とかどうでもいいらしい。
買い物はリヒトに任せ、私は野営の準備。
村の広場を借りられたというので、そこへ【アイテムボックス】から、2階建ての鉄筋コンクリート風の建物を出した。
建物は魔法で作ってスライム素材で固めたもの。きちんと強化ガラス風の窓も付いてるよ。建物をサクッと簡単に作った分、内装には力を入れた。
2階は両親の為にお風呂とトイレ付きの広い部屋をひとつ用意。あとは小さめの、同じく風呂トイレ付きの部屋を9つ。
ちなみにお風呂とトイレは別にしたのがちょっとしたこだわりです。
両親用の部屋以外、どの部屋にも4つベッドを用意してある。
そのうち一部屋は私と双子が使って、あとは旅に付いてきた人達で使ってもらう。
ベッドもポケットコイルマットレスを錬金術で再現して作った自信作。
屋敷の自室に簡易ベッドとしてプロトタイプを作ったけど、最高の出来だったよ。
1階は2階と同じ部屋を2部屋。それから厨房と食堂と倉庫、共用トイレと簡易シャワー室を作ったらそれで埋まってしまった。
お風呂もトイレも元世界の現代日本風のモノ。
こちらの世界では馴染みがないので、使い方を説明。
この世界、大都市では上水道と下水道がきちんと設備されているけど、小さな町や村では未だに井戸だし、壺式トイレだ。
大都市でもトイレは下水に繋がっていようとも様式は壺型なんだよね。足腰が強くなるからいいとは思うんだけど、やっぱりねえ。
お風呂も洗い場が無く、湯船の中で体や頭を洗われていたから元日本人としては微妙だったんだよ。
各部屋にはもちろんエアコン完備。各種アメニティーも充実!
厨房には貯蔵庫はもちろん、業務用冷蔵庫や冷凍庫、たくさんのコンロ、大容量のオーブンが2つ。広い調理スペースに流しも3つある。
コツコツ買い揃えた調理器具も充実してるし、食材も屋敷と変わらないものを用意してある。
けど残念なことに馬達を休ませる厩舎や馬車を置くスペースが無かったので、それは急いで簡易的なものを魔法で作ったよ。
今回両親は、旅の護衛に高ランク冒険者を2パーティー、8人雇っていた。
両親は領地が無いので私兵を持っておらず、かといって護衛も付けずに移動は出来ないので、こういう時は高ランクの冒険者に頼むというのが習わしらしい。高ランク冒険者は最低限の教養はあるからね。教養は冒険者ランクBに上がるのに必須っぽいし。
その冒険者達用の部屋が1つしか用意できなかった。
けど
「夜の見張りもありますから、交代で休める部屋があるだけ充分です」
と言ってくれたので助かった。
両親も家の人達も、建物の中がどうなっているのかこそ今日まで知らなかったけど、私が訓練場の片隅で、こういうモノを作って何やらしていたのを知っていたのでとくに驚くことなく建物内に入って行って、そこで初めて驚いていた。
けど、すぐに順応した。私がやることだからこういうこともあるよね、的な。
冒険者たちは建物を出した時点ですごく驚いていたし、一緒の建物で休めることにも驚いていた。
エリオットが許可したからね。
建物内の見学と使い方の説明が終わった後は各自荷物整理。私達はテーブルに着いてゆっくりお茶を飲んで落ち着く。
双子のメイドと私のメイドの3人で夕食の準備をし、両親の側仕えがリビングの体裁を整えている。
両親と私達が食事をとる席と、使用人や護衛が食事をとる席を分けて使うみたいだ。
そこまで考えないで適当に食堂作っちゃったけど、なるほど、こういう仕事もあるのか。
そろそろ夕飯が出来あがるかという頃、リヒトが買い物から戻ってきた。
買い物の詳細と、預けていたお金のおつりを渡された。
「そんなに買ってどうするんだ?」
心底不思議そうにするアレンジーク。
奇遇だね。私も今そう思っていたところだ。
「わからない。米だけ買う予定だった…」
「そうか。食べ物だ。無駄にだけはしないようにするんだぞ」
アレンジークは私の【アイテムボックス】の仕様を知っているけど、一応注意を促した感じか。
「まさかとは思うけど、あの雑穀もお菓子になったりするの?」
リヒトから私への報告、それから私とアレンジークの会話を聞いて苦笑いのエリオットが改めて私に聞いた。
「うん」
1回食べてみて、舌に合わなかったら合うまで品種改良を繰り返す。
魔法と錬金術があれば簡単に品種改良できちゃうからね!
がんばるよ!
でも頑張るまでもなく、米を見た感じでは日本で食べていたお米とそう変わらない気がする。
話を聞く限りではもち米みたいなのもあるらしく、ここでは作ってないけど、東に行けばあるかもしれないって事だったから、アレンジークの実家がある町には期待してるんだよねー。
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翌朝、早めに村を出発し、また馬車旅。
両親や使用人たち、それから冒険者にも野営用の建物の使用感は上々だった。
とりあえず、家のトイレとお風呂は帰ってから野営用の建物と同じ物にリフォームする流れになるぐらいには。
「宿に泊るよりファルの野営具を使った方が快適だけど、貴族位を持つ者として移動する先々でお金を落とさなければならないというのが不自由なところだね」
「今まではそうも思わなかったのだがな。知ってしまうと不自由に思えてくる」
そんな何気ない会話をしながら視線でイチャついてる両親を視界の端に入れつつ、車窓から変わり映えのしない景色を眺めた。
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数日かけていくつかの領地を通り、アレンジークの実家があるロキシス領に入った。
その間に通過した村や町でも私は調子に乗って買い物をしまくった。
貧乏性な為、作物は現地で買った方が安いと知るや否や買いに走った。
両親は呆れた様子で私を見ていたけど、他領でお金を落とすと言う意味では間違ってないのでとくに窘められるような事は言われない。
双子はあれから少し、私から拙いながらも助言をしたらちょっとずつ落ち着いてきて、家族や慣れた使用人相手なら普通にしていられるようになっていた。
それについてはほっとした。もっとうまく助言できればいいんだけど、マジの4歳児とガワだけ5歳児とでは割り切れるものがちがうからなー。
これからの双子と私の成長に期待だね。
夕方。
もうすぐ本日の宿がある町に着くかと言う頃だった。
馬車が止まる。
「何があった」
護衛の冒険者の様子を察したアレンジークが声を掛ける。
すぐに騎馬で馬車の外で護衛をしていたリヒトがやってきて報告。
「魔物のようです。魔物の群れが町門付近におしかけている模様。町兵や冒険者がその対応をしているようです。如何なさいますか」
「俺と冒険者たちで出よう。エリオットはここを頼む」
「承知しました。護衛の冒険者たちに伝えてきます」
「了解。気をつけて」
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ピリリとした雰囲気。
大人たちが忙しそうにアレンジークの指示に従う。
その間、ポツポツとこちらにも情報が入る。
まず入ってきたのは、スタンピードと呼ばれる魔物の大襲来ではなさそうだ、と言うのでまずは最悪の状況ではないということ。
そしてもうしばらくしてから入った情報によると、どこかの貴族が魔物を引き寄せる香を纏ったが為にこの状況に陥ったらしいという、なんとも頭痛がする情報だった。
後半の情報が入る前に、アレンジークは急いで鎧を着込み、馬を駆り、冒険者とともに魔物の群れへと突き進んだ。
「ジーク…」
知らず、自分の口から不安げな声が漏れた。
「アレンジークなら大丈夫。何の問題もないよ。むしろ魔物討伐が終わったあとが大変だろうね」
確かに王国騎士団総長なら何の問題もなさそうだけども、それでもなんだかソワソワハラハラしてしまう。
そして貴族絡みだと討伐後も何かありそうで面倒そう。
あと魔物寄せの香とかどのくらい作用が続くのか、範囲はどのくらいかによってこれで魔物の襲来は終わりなのか、それともまだ続くのはわからないという不安がよぎる。
もう辺りは暗くなり始めている。
すぐに討伐が終わろうとも町門の前で戦闘が行われていたんだからたぶんしばらくは街に入れそうもないか。
エリオットも同じ考えらしく、しばらく町門方面へ視線を向けてから野営の準備をするように周囲に言い渡していた。




