023 米との出会い
エリオットたちがレオンドール伯爵に挨拶へ行く間、私は領都へ買い物に出かけた。
双子は大人のいざこざを耳にしてメンタルに響いたみたいで、馬車の中でおとなしくしている。
買い物へ誘っても、黙って首を横に振るだけだった。
やっと最近笑顔になったと思ったのに、旅の間にだいぶ退化したかも。
私になにかフォロー出来れば良いんだけど、今のところ素敵なフォローの仕方が思いつかない。
無力なお姉ちゃんでごめんな。
私もちょっとしょんぼりした気持ちになる。
いや、私はなに言われたところでなんとも思わないけどね?
「あの、お嬢様」
気づかわし気にロティルが私に声を掛ける。
「なに」
「…いえ、なにも」
「…元孤児で黒髪で黒眼は変えようがない。周囲に受け入れられないのも仕方ない。でもそれは皆同じ」
「え?」
「誰にでも好かれる人はいない。伯爵だってリオに嫌われている」
「あ…。ふふ、ああ、笑ってしまっては不敬ですね。内緒にしてくださいますか?」
ロティルの表情も和らいだ。
黙っていたリヒトも同様。
二人は口数が多い方じゃないけど、私の心配をしてくれているの、知ってるよ。
いつもありがとう。
・・・・・・・・・・
いくつかの商店をめぐり、それでも物足りなくて、小規模の市を覗いてみると、それはあった。
「…OH‥米!!!!!」
「ひぇっ…黒髪っ!?」
あ、しまった。
売り手を驚かせてしまった。
「これ、私に売ってほしい」
本格的な商売人と言うわけでなく、農家の直販みたいな感じだったので、そう言って声を掛けた。
商売人なら黙って商売してくれるけど、こういう一般人は感情優先なので売ってくれない人が多い、と言うのをこの旅で私は知った。
悲しいけど、でも私はラッキーなことに、侯爵家で養われ、さらには優秀な従者まで付けてもらっちゃってるからね!
私に出来ない事はロティルかリヒトがだいたいしてくれるのさ!
今回も売ってくれなそうだったらロティルに交渉をお願いするんだー。
「ふ、ふん。黒髪が家畜の餌に使うカネがあるってのか?」
都会は気にしない人も多いみたいだったけど、田舎だと黒髪って毛嫌いされることもこの旅で知れた。
「ある。売ってもらえるだけ買う」
「そっ!? そ、そうか、ここにはないが、村に戻ればそれなりにあるぞ。本当に買うのか…買えるのか?」
この世界で黒髪の立場は弱いからなー。
黒髪=孤児=貧乏なので。
信じてもらえないなら仕方ない。
リヒトの手を掴んで私の横に並んでもらう。
「騎士様が出してくれる」
リヒトも慣れたもので、頷いてくれる。
実際リヒトが出すわけじゃないけど、こうでも言わないと普通の人は信じてくれないんだよね。
それにしても米、家畜の餌なのかー。
見たところもみ殻が付いたままで、玄米にすらなっていない。「村に行けば」とか言ってたから、一緒に村へ行けば種もみ含めてもっと買えるのはいいかも。
売り場にあった米は全部買った。
米俵20こ分。
これがどのくらいの量入っているのかはわからないけど、ワイン樽より一回り小さいくらいだった。結構入っていてほしいな。
持ち運びも【アイテムボックス】にとぷん、と入れてしまえばそれで終わり。
売り子のおじさんが物凄く驚いていた。
村の場所を聞いたけど、なんとも都合よく、この領都の東側にある小さな村だという。
アレンジークの実家に行く途中に寄っても問題なさそう。
売るものを売って帰り支度するおじさんに、あとで村に行くので、米を用意してもらえるように頼んで、伯爵の城前に戻った。
戻ると1分も待つことなくエリオットたちが城から出て来た。
ナイスタイミングだね。
ただ、何事もなかったような顔をしているけど、二人の気配がピリついているので何かあったんだろうなというのは察してしまった。
でもここはあえて気付かないふりをする。
子供は子供らしく振る舞おう。
私にできるかは謎だけど。
私に気付いた二人は表情を緩める。
「なにかいいものでも買えたのか? 表情がそう言っている」
どうやら私は二人を心配しつつも米を発見した嬉しさが顔に出ていたらしい。
子供らしく振る舞うとか言ってて充分私は子供だったみたい。
良かったよチクショー。
「うん! 途中、寄ってほしい村がある。追加で買う」
「ははは、そうか。いいぞ」
アレンジーク、なんだか変にご機嫌に振舞っているけど、逆に察すると余程のこと言われたっぽいな。
私が気にしてもしょうがないか。
きっと子供には知られたくないし、子供に言えないような事言われたんだろうし。その子供が黒髪と双子なら余計か。
「じゃあすぐ出発しようか」
伯爵家のお見送りは、使用人が数人程度。
伯爵自らが息子であり、侯爵のお見送りをすることはないらしい。
息子じゃなかったら大問題だよね。
馬車に乗って、少ししてからやっとエリオットが話しかけて来た。
「ファルは何を買いに村へ行くの?」
「これ」
【アイテムボックス】から見本となる脱穀前の米を出してエリオットに見せる。
「あぁ、コレか。家畜の飼料として育てているものだね。貧しい村ではこれを食べたりもするって聞いたけど、まさかファル…」
食べるの?
みたいな顔で聞いてくるので、食べますけど? みたいな顔して
「うん」
と応えると、エリオットもアレンジークも苦笑い。
双子はチラリとこちらを見るけど、特に興味を示さない。
おうおう、君ら野生の双子化してないかい?
まあ、それだけ大人たちの悪意に晒されたら、そうなるのも仕方ないか。
エリオットたちも、そんな双子を痛ましそうに見ているけど、こりゃ家に帰って他人の言葉の届かないところじゃないとフォローは出来ないと思うよ。経験上さ。
・・・・・・・・・・
村に着いた。
時間は夕方少し前なので、今日はここに泊まることになる。
この村には宿泊施設は無いので、やっと私が作った野営道具の出番だね!
両親には私が準備するから何もしないでと言って、私は早速あのおじさんの所へ行った。
村の中を少しウロウロしただけですぐおじさんを見つけられた。
黒髪が目立つのですぐに騒ぎになり、おじさんが急いで出て来た感じだね。
いやー、お騒がせしてすみませんねえ。
「本当にきたのか」
「うん」
「…ついてこい」
言われた通り、おじさんのあとに付いて行くと、すっごい数の米俵。それにこれ見よがしにこれも買えと言わんばかりの、刈りたての稲藁もあった。乾かしている最中だったのかもね。
お? ちょっと待ってよ…まさかアレは…!
「全部買う」
「そ、そうか」
「できればあっちのも欲しい」
おじさんの畑らしきもので見つけちゃったモノも買えないか交渉。
「まだ青いぞ」
「うん。あれを枝ごと欲しい」
「はあ。わかったよ」
交渉成立。
私は枝豆を手に入れた!
ひゃっほう!
と、不意に他の畑を見れば、あるじゃないの、あるじゃないの!
「あれも欲しい!」
「…あれはウチのじゃない。が、あいつんちもカネに困ってるだろうからな。交渉して来てやる」
と言っておじさんは少し離れたお隣さんに話をつけに言ってくれた。
その後、村人数人で私の欲しいものを用意してくれた。
隣のおじさんからは小豆と白いんげん豆を買っちゃったよ!
やったね!
いやー、大漁大漁。
ニマニマしながら村人たちの作業を見守っていると、村長と野営場所の交渉をして来たアレンジークが私の所へやってきた。
「嬉しそうだな、ファル」
「うん。新しいお菓子と料理が出来る」
「どう見ても家畜の餌だろう? 白いんげんぐらいはスープに入っているだろうが」
アレンジークもそんな感想か。
これはお菓子を作るにも難しいか? 「家畜の餌を食べさせたのか!?」的なクレームがきたり。けど、商品名次第でクレーム対策すればいいか。ダメなら個人で楽しむ。
【アイテムボックス】に入れとけばずっと腐らないで持っていられるし、今の私に後悔はない!




