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002 はじめての親

 


 しばらくすると、孤児院に奉仕活動する冒険者の顔触れが変わった。


 今回は錬金術師もいた。

 錬金術ギルドと言うところがあって、そこの所属ランクを上げるために来たとか。どこのギルドも冒険者と同じような仕組みでランク上げするみたいだね。


 お兄さんお姉さんに混ざって私も興味津々で錬金術師の話を聞く。

 色々為になることを教わった。

 結合と分離とかマジ役に立つッぽい錬金術。


 あと、薬師ギルドから薬師と言う人も来て、薬術を教えてくれたりした。

 下級ポーションの作り方とか傷薬の作り方とか、冒険者だけでなく、他でも使えそうなことも教えてくれた。


 材料も孤児院の裏庭に生えてる草で作れそうなやつばかり。

 ふんふん、なるほど。




 ・・・・・・・・・・




 3歳も3カ月ばかり過ぎた頃、それは突然やってきた。


「俺はこの子が良いと思う」


「女の子だぞ? 俺達できちんと育てられるか?」


「それを言ったら男の子だろうと同じだよ。それに女の子だったら我が家に来てもそれほど気追わずにいられるんじゃないかな?」


「それは…たしかに。俺達の子となると、周囲からの期待も出てくる。女の子ならそれほど期待もされないからまだ穏便に過ごせるか」


 キラキラのイケメンが二人。

 私の前に来て私を見ながら話している。


 え、私?


 イケメン二人について歩いていた孤児院の職員がちょっと狼狽している。

 わかるよ、わかる。

 だって私ってば不吉カラーだもんね。

 私でさえ里親候補から前向きな検討をされるなんて思ってなかったもん。


 私に対して前向きに検討する姿勢を見せているのは仕立てのいい服を着たイケメン二人。

 ムキっとしているけどシュッとしている。


 片方は金髪イケメンの優男風。

 もう片方は赤髪爽やか風イケメンだ。


 これまでの経験上、冒険者と言う雰囲気でもない。

 商人でもない。

 貴族だと思う。

 けど、今まで見た貴族とも違う。

 とにかくシュッとしている。

 バランス良く付いた筋肉が自然に正しい姿勢を保っている感じ。


 うん。

 どう見ても男同士ですね。


「失礼、この子と話をさせてもらっても良いだろうか」


 金髪優男風イケメンが職員に問いかける。

 問われた女性職員はイケメン威力に一瞬タジつく。


「え、ええ。それはもう。ええっと、黒髪のこの子は…」


「……」


 あ。

 そう言えば私、いつも黒髪の子と言われて名前とか呼ばれたことなかったな。


 そう考えるとちょっとアレだよね。

 待遇はそれほど悪くないと思ってたのは間違いだったのかな?


「あー、その、この子、ほとんどしゃべらなくて…珍しい髪色で目立つ子だったので、それなりに面倒は見ていたのですが、髪色で判断して名前は…」


「誰からも名付けてもらえなかった。…名前が無い、ということですか?」


 赤髪爽やかイケメンが少し目を細めて職員を見やる。

 ちょっと怒ってる感じ? いや、呆れているのかもしれない。


「そう、ですね。すみません。資料にも名前は無いようです。体調の事は他の子より細かく書かれているのですが…。あの、決してこの子をおろそかにしているわけではないのです」


 そう言って職員は私の資料と思しき書類をイケメン達に見せる。


 ふむ。

 この世界、紙類は充実しているのか。

 この貧乏な孤児院で扱えるくらいなので、比較的安価に手に入るのかもしれない。

 紙も未だ羊皮紙しかない世界と言うわけじゃなさそうだね。


 私の資料を手渡されたイケメン達がその資料を読み込んで行く。


「この…毎日いつの間にか倒れている、と言うのは…それもここ数カ月ほぼ毎日のようですが?」


「あっ、はい。体に異常は見られないのです。ずっと様子を見ている時は何事もなく一日を過ごすのですが、我々が目を離すと必ずいつの間にか倒れていまして。それでもこれだけの人数、子供がいるので毎日この子だけにつき添うわけにもいかず、今日まで来てしまいまして…」


「「………」」


 職員の話を聞いて黙る二人のイケメン。

 それぞれ何事かを考えている様子だ。


 それからしばらくして、金髪の方が私を見て私に話しかける。


「君、うちの子にならない?」


 どんなナンパの仕方だよ!


 心でツッコミはしたが、私はイケメン達を見上げるだけでウンともスンとも言わない。


「嫌かい?」


 今度は赤髪イケメンが困った顔で聞いてくる。

 それどんな感情?


「…あの、この子は…」


 と職員が言いかけたところで、私は軽く首を横に振った。

 この世界でも日本と同じように、首を横に振れば否定、縦に振れば肯定の意味だ。

 もしかしたら他国では違うのかもしれないけど、少なくともこの国は日本と同じだと思う。


「ウチの子になってくれるってこと?」


 男同士のカップルっぽいけど、それでも私の親候補なってくれると言うんだから断る理由はない。


 それにこの世界で私は前世よりも立場は低い。

 黒髪黒眼で病弱認定された上にしゃべらない。しかも名前もない。


 それでも引き取ってくれる気でいる人達だ。

 よっぽどのサイコパスじゃなければいい人に違いない。


 なので私は、今度は首を縦に振る。


 そのことで職員はイケメン達に対して申し訳なさそうにし、イケメン達はホッとした様子を見せていた。


 その後、最低3回は面会してから引き取る手順に沿って、彼らは彼らの休日のたびに私に会いに来てくれた。


 そして4度目に会いに来てくれたその日、彼らは私の親となった。




 ・・・・・・・・・・




 赤髪爽やか風イケメンに抱きかかえられ連れて来られたのはどこぞのお城かと言えるほど大きな建物だった。


「さぁ、ここが今日から君の家となる場所だよ。多少武骨で簡素な屋敷だけど、騎士の家らしく頑丈な造りはされているからね。多少お転婆しても大丈夫だよ」


 お茶目な感じで金髪優男風イケメンが、この城をそう紹介してくれた。


「小さな子にそんなこと言ってもわからないだろう。とにかく、今日から俺達が君の親だ。両親がどちらも男と言うことで多少不自由を掛けるかもしれないが、それでも俺達の娘となる君にはなんでもしてあげたいと思っている」


「ふっ、はは、それこそこんな小さな子には分からないさっ、くっくっくっ。あ、そうだ。俺はエリオットだよ。よろしくね」


「む。俺はアレンジークだ。お前は…そうだな。考えようによっては俺達が自分の子に名づけることが出来ると思えば、この子に名が無かったのはある意味良かったのかもしれないな…」


「そうだね。ははは、そう考えると、なんか幸せだね」


 見つめ合う二人。

 ちょっとここで甘い雰囲気出さないでほしいんですけど!?


 とりあえず、金髪がエリオット、赤髪がアレンジークね。

 わかったわかった。


「ん、ん。旦那様方、お嬢様が風邪をひいてしまいますよ。早く室内へお入りください」


 私の親となる男たちの甘い空気をぶったぎってくれた救世主は、50代くらいの紳士だった。


 も、もしかして…これが噂に聞く執事と言うやつか!?

 それにお嬢様って私の事!?


 や…ば、テンションあがって来たわー。



 ・・・・・・・・・・



 午前中に引き取られ、午後には名前をつけてもらった。


 ファリエル。


 エリオット・レオンドール侯爵とアレンジーク・ロキシス伯爵の娘、ファリエル・レオンドール=ロキシスとなった。


 まずはアレンジーク寄りの家格の子となる。

 しかし状況に応じて家名を逆転させるようなことも言っていた。


 え、私、ホントに貴族の令嬢になったんですけど!?

 マジか!


 名付けについてあーだこーだ二人が話している合間に聞こえた話によると、エリオットは近衛騎士でアレンジークが王国騎士だと言うことがわかった。

 それぞれが爵位持ちでありながら同性婚に至ったっぽい。

 しかも王命で。


 何故そうなった!?

 罰ゲームか何か!?


 それにしても王命の割には二人の関係はギスギスしたものではなく、とても自然なものだ。

 なんなら空気甘いし?


 爵位持ちと言うことで周囲からの反対はあったようだが、結局王命には逆らえないので2年前、王命に従い婚姻に至った。

 そのせいで私が周囲から何か心ない事を言われないかと二人はちょっと心配している。

 でも貴族でそれなりの給金をもらう立場にある二人がずっと子供を引き取らないわけにはいかないからねー。


 あと王命が下っているにも関わらず、諦めきれない周囲の貴族が、二人が結婚してなお未だ貴族令嬢を押し付けようとしてくるのでそれにも辟易しているとかも愚痴っている。

 そしてまたそこから始まる甘い雰囲気。


 え、二人とも王命と言う名の罰ゲームで結婚した仲ですよね!?

 こんなに空気甘くして…順応高くない!?

 2年の間に一体なにが!?


 しかし空気を甘くする度に執事が私を視線で見やりつつ咳払いし、話を私の名付けと言う本題に向き直させていた。

 ありがとう、救世主。


 まぁ、なんにしても二人は我が子となる私に名前をつけることが出来て幸せそうだった。

 そして私を大事にしてくれそうだった。


 なんなら過保護なくらいに。



 ・・・・・・・・・・



「さあ、ファル。今日からここが君の部屋だ。そしてそこにいるのが君の護衛とメイドだよ。護衛がリヒト、メイドがロティルだ」


 ファルと言うのは私の事。

 ファリエルだからファルと愛称がついた。


 家の中ではエリオットに抱き抱えられながら私の部屋だと言うところまで来た。


 室内は孤児院の食堂並みに広く、女性らしい家具が取りそろえられ、コーディネートされていた。


 気分だけはお嬢様だね。


 まさか今朝まで孤児だった私をここまでお嬢様扱いしてくれるとは思わなかった。


 噂では「孤児を引き取った」という実績だけで、本当の子供としては扱ってもらえないって聞いてたし。

 それでも下働きの子と変わらないくらいの生活が出来るらしいから、孤児院にいるよりはいい食生活ができるって噂だった。


 それがここに来て広い部屋と高級家具、それから護衛にメイドまで付いてるんだからびっくり。


 上級貴族となるとやはり世間体と言うモノがあるのだろうか?

 それにしてもここまでとは。


 世間に対して「孤児にここまでしてやってますよ」アピール?


 あ、やば。

 物凄い待遇のあまり、ここに来て卑屈になって来た。


 孤児院であった時からさっきまで、この人達はやさしそうで大事にしてくれそうとか思ってたのに、いざそれっぽいことが目の前で繰り広げられると怖くなる。


 騙されてるんじゃないかって思ってしまうのは私がひねくれているからだろうか。


「リヒト、ロティル。この子はファリエル。今日から俺達の娘となる。どこに出しても恥ずかしくない、侯爵家の息女として育てる。そのつもりで接するように」


「ああ、でも無理な事はさせないようにね。体も弱いみたいだから、体調管理をしっかりしてあげて。教育は貴族の子としてしっかりするって意味だからね」


「「承知しました」」


 アレンジークとエリオットの言葉に、しっかりと返事をするリヒトとロティルだった。



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