スイート・オール・ナイト
12月20日
「木村さん、三浦くん、ちょっといいかな?」
「はい、なんでしょうか? 課長。」
「どうされましたか? 課長。」
「24日・25日に仕事を頼みたいのだが…」
「「他の人に頼んでいただいてもよろしいでしょうか…?」」
「坂本くんと青山さんがかなり前から有休の申請をしていて…
かく言う私も既に予定が入っているんだ…
なんとか2人でやってはくれないだろうか… 頼む!」
「「わかりました……」」
12月24日
というわけでクリスマスイブなのに仕事になっちゃった。
せめて残業代をがっぽり稼いでやるぞー!
と、意気込んだはいいものの…
「この仕事量、絶対徹夜確定じゃん!」
「先輩… この量、徹夜しても終わるか怪しい量なのでは…?」
「三浦くん! そんなこと言わない! 大丈夫終わる終わる!」
「そうでしょうか…」
「そんなこと言ってたらほんとに終わんないよー! ほら手動かそう!」
「わかりました…」
木村先輩は、僕が入社したときの新人教育係だった。
先輩はいつも前向きでとてもかっこいい。
僕も将来あんな先輩になりたい。
先輩はいつも前向き、だと思ってたけど…
「三浦くーん、彼女とかいるのー?」
「いませんよ… っていうかいるわけないじゃないですか!
彼女いたら今日は有休取ってデートしてますよ!」
「だよねぇー」
「だよねーって言わないでくださいよ!傷付くじゃないですか!」
「あっ、先輩に向かって怒っちゃってすいません…」
「気にしないで、私が悪かったから…」
「木村先輩は彼氏はいらっしゃるんですか?」
「いないよー」
「ですよねぇー」
「ですよねーとか言わないでよね!」
「すいません、つい。」
「罰としてこの仕事が終わるまで敬語禁止ね!」
「えっ?」
「じゃあ決まりね?」
「先輩、そんなことより手動かしましょうよ。」
「はい。」
うん、朝から休憩なしでもう夕方の5時ですからね。
完全にテンションがおかしくなってますね、先輩。
「先輩、いったんご飯にしませんか?」
「そうだね、ご飯にしよっか。」
「自分はそこのコンビニ行きますけど、何か買ってきましょうか?」
「私は大丈夫だよ。ありがとう。」
「では少し出てきますね。」
「三浦くん、それって何サンド?」
「とんかつ&ハムカツサンドですよ。」
「うわぁ~ いいなぁ~ いくらだった?」
「税込298円でした。」
「いいなぁ~ 食べたいなぁ~」
「先輩もコンビニに行ってきたらいいじゃないですか。」
「5時過ぎたので10%OFFでしたよ、カツサンド。」
「じゃあ私もちょっと失礼してコンビニ行ってきま~す。」
大丈夫って言うから自分の分しか買ってこなかったんだけどなぁ
ニコニコして出ていった先輩、かわいいな…
ダメだダメだ何を考えてたんだ自分は!集中集中!
…にしても先輩、コンビニ行くだけのに遅いような気がするけど何してるんだろう?
「ごめんごめん、カツサンド買おうと思って行ったら他にも色々あって決めきれなくて。」
「それで何買ったんですか?」
「フルーツサンド。」
「それだけにしては袋がふくらみすぎじゃないですか?」
「気のせい気のせい。」
三浦くんは私が新人教育係を任された年の新入社員の中で1番真面目な子だった。
仕事の教えがいもあったし、生真面目に仕事をする姿を目にしたら、私も頑張らなくちゃって思った。
ほんとはもっとしっかりしないといけないんだよなぁ、私。
「三浦くん、大丈夫? いったん寝たら?」
「いえ、まだ大丈夫です。」
「無理はよくないよ、身体も細いし、いつもはご飯ちゃんと食べてる?」
「よくコンビニ弁当で済ますのであまり言えないですけど、子供を心配する母親みたいなセリフですね。」
「ほんと若いからって無理すると寿命縮むからね。身体には気を付けないとダメだよ。」
「はい、来年からは気をつけます。」
「Hey, Siri. 今何時?」
『2020年 12月24日 午後8時53分 です。』
「三浦くーん、もうすぐ9時だってー やっぱり徹夜になりそうだね。」
「そうですね… こうなる気はしてましたが…」
照明の大半が落とされ、私たちと警備員のおじさんしかいないビルに、
パソコンのキーボードを打つ音だけがやけに響く。
世間のリア充カップルたちは今頃イルミネーションでも見ているだろう。
クリスマスツリーの前で振られてしまえと、カップルたちへの呪いの言葉を心の中で並べたてながら、
誰にでも等しく時間は流れてゆく。
「Hey, Siri. 今何時?」
『2020年 12月25日 午前0時25分 です。』
「あーもうムリやってられないわー」
「先輩、急にどうしたんですか!?」
「よし!飲むぞ!」
「えっ? まだ仕事残ってますよね?」
「休憩だよ、休憩。」
「お酒なんか買ってましたっけ?」
「コンビニに行ったときに買っておいたんだよ。」
「三浦くんも一緒に飲もう!」
「いえ、僕は遠慮しておきます。」
「あぁー やっぱりビールは美味いよ!」
「1本だけにしておいてくださいね。」
「三浦くんも飲もうよー」
「いえ…」
「柿ピーとポテチもあるよ!」
「ちょっとだけですよ…」
「こんな夜はお酒でも飲まないとやってられませんよねー先輩?」
「ちょっとだけとか言ってたのにもう2本目じゃん、素直じゃないなぁー三浦くん?」
「そう言う先輩も、休憩だとか言いながらもう1時間も飲んでるじゃないですかぁー」
「坂本くんと青山さん、あそこ付き合ってるって知ってた?」
「いえ、知りませんでした。」
「私たちに仕事押し付けて絶対デートしてるよ。」
「許せませんね!」
「でしょでしょー?」
「課長、予定があるとか言ってましたけど、どうせ娘さんにクリスマスプレゼント渡すだけでしょうね。」
「課長の娘さんっていくつだっけー?」
「中2だったはずですよ。」
「えー!知らなかったなぁー」
「お父さんのと一緒に洗濯しないで!とか言われるお年頃でしょうねー。」
「嫌われてしまえ!」
「そーだそーだ!」
「年末に徹夜で残業とかブラック企業だ!」
「会社辞めてやろうか!」
結局2人ともお酒飲んで気炎を上げたのであった。
「ヘイSiri~、今何時?」
『2020年 12月25日 午前2時ちょうど です。 』
「もう2時だって~早いねぇ~」
「先輩…もう飲めないですよ…」
三浦くん、寝ちゃったなぁ。
二日酔いにならないといいけど。
一瞬だけ私も寝たい… おやすみ…
2人が寝落ちている間に夜は更けて、
窓のブラインドの隙き間から光が差し込んでいる。
あ~~~よく寝た!
三浦くんは…まだ寝てるね。
寝顔かわいいから写真撮っちゃおっと。
「Hey, Siri. 今何時?」
『2020年 12月25日 午前7時13分 です。』
「え゛?」
「三浦くん!起きて起きて!」
「そんなに血相変えて、どうしたんですかぁ?」
「朝だよ!朝! ヤバい寝すぎた!」
「なぁ~に~!?」
「やっちまったなぁ~!」
「「って笑ってる場合じゃない!!!」」
ひとしきり笑ったあと、男も女も黙って仕事に励むこと3時間…
「はぁ~終わったぁ~!」
「よっしゃー!」
「終わったね、三浦くん。」
「終わりましたね、木村先輩。」
「よし、帰ろう!」
「はい!帰りましょう!」
「三浦くんの家ってどこなの?」
「わりと近いですけど…」
「どこらへん?」
「あそこのイオンの裏手のアパートですけど… なんでですか?」
「私の家もそっちの方角だから送っていくよ!」
「いやいや、大丈夫ですよ! ちょっと飲み過ぎましたけど。」
「後輩の面倒みるのも先輩の仕事だから、ね?」
「さすがにそこまでしなくも大丈夫ですよ…」
「いいからいいから!」
「先輩、まだ酔ってませんか?」
「木村先輩、もう目の前だからここまでで大丈夫ですよ。」
「今日は本当にお疲れ様、三浦くん。」
「お疲れ様でした、先輩。」
「あ、そうだ! 最後に1ついい?」
「なんでしょうか?」
「三浦くんって1人暮らしでしょ?」
「そうですけど…」
「じゃあ31日は空いてるよね!」
「ええ、まぁ…」
「31日は、私の家に蕎麦食べに来てね!」
「どういうことですか?」
「そのままの意味だけど?」
「いやいやいやいや、なんで大みそかの日に僕が先輩の家に行って蕎麦食べるんですか?」
「私も1人暮らしだから大丈夫だよ。」
「そういうことじゃないんですが。」
「じゃあ何も問題ないね。」
「問題しかないですけど。」
「私も帰って寝るから、三浦くんもしっかり休んでね。 お疲れ様!」
「先輩もしっかり寝てくださいね。 お疲れ様でした! ってやっぱりどういうことですか!?」
私はお酒飲めないので、かなり怪しいところがあります。すいません。
1つ仕上げて今年を終えたいとふと思いたったので書きました。
お読みいただきありがとうございました。