8 魔法を越えて
数多の魔法の輝きが僕の視界を埋める。
「死になさい」
そして全ての魔法が僕に狙いを定め撃ち込まれる。
僕が考えた作戦は簡単。
放たれる魔法に残り全ての闘気を使って耐える。耐えたら【隠密】を発動させて一撃必殺のカウンターを撃ち込む。
これだけ。
僕は覚悟を決めた。
残り僅かな体内の魔素を全て闘気に変換すると、左手に全て纏わせて魔法に向ける。
そして闘気と魔法がぶつかり合う!
闘気と魔法が打ち消し合い消えてゆく。
圧倒的な魔法の物量の前に闘気が一瞬で尽きると、魔法の嵐が僕を襲った。
炎の槍が手を貫き焼いた。雷の矢が腕を裂き麻痺させた。水球が左半身を濡らし氷の獣が噛み付き身体の半分が凍りついた。岩塊が横から腕にぶつかり骨を砕いた。
数多の暴力が僕を襲った。だけど耐え切った。
片目でフェルリアを捕捉する。
「予想通り生き残ったようね。でも闘気は尽きたでしょ?これが本命の魔法よ!」
「!?」
フェルリアが片手を振り上げると、真上に直径十メートルほどの隕石が出現した。
「星の終わり」
フェルリアが手を振り下ろす動作と同時に隕石が落下を始める。
「これで終わりよ」
隕石が眼前にまで迫る。
「そろそろか。【魔素解放】っ!」
その言葉とともに鬼の角が青い光を放ち、角に溜められていた魔素が解放された。
鬼の角は常に膨大な魔素を溜め込んでいる。その魔素を解放し使うスキルが【魔素解放】だ。
解放された膨大な魔素を全て闘気に変換し、全身に纏わせる。
全身に纏わせても尚有り余るほどの闘気が半身を覆っていた氷を砕き、右手で繰り出した拳と共に星の終わりを粉々に破壊した。
その際に発生した衝撃波が砕けた細かい隕石のかけらを舞い上がらせ、砂埃を発生させる。
「【隠密】。……まずはお前から」
【隠密】を発動させると、砂埃の中から杖を持ったホムンクルスを強襲し、首に短刀を刺して機能停止をさせる。続けて隣にいた斧のホムンクルスの首を刎ねる。
「おっと」
異変に気付いた剣のホムンクルスが剣を振るう。
「今の僕ならお前達に遅れなんてとらないんだよ!」
身を低くして横振りの剣を避けると、短刀で心臓部を突き刺した。だらりと腕や頭が垂れて機能停止した。
「そんなもの当たるわけないだろ!」
背後からの矢を撃ち落としながら弓のホムンクルスに距離を詰める。そして短刀を二度振った。
弓のホムンクルスの腕と頭が同時に落ちた。
「あとは……お前だけだ!フェルリアァァァ!」
「!?」
フェルリアに向かって跳躍し短刀を振るう……が避けられる。
「落ちなさい!」
「聞くか!そんな魔法!」
フェルリアが距離を詰められ苦し紛れに放った魔法は全身を覆う闘気によって無効化される。
「お前が落ちろ!」
かかと落としがフェルリアを捉える。フェルリアは両腕を交差させガードの構えをとった。
ベキベキベキという鈍い嫌な音が響いた。
「ゴホッ!」
下を見れば両腕がおかしな方向に曲がったフェルリアが床に叩きつけられている。
「ゲホッゲホッ、ッツ!」
落下の勢いを利用して短刀をフェルリアの左肩に突き刺した。
「アハハ!」
フェルリアにのしかかる。魔法を発動させようとしたため、何回か顔を殴り付けた。
「ねぇねぇ見てよこの左腕。フェルリアの魔法でこんなんになっちゃった!アハハ!」
「……」
僕の左腕は現在炭化したように真っ黒で動かそうとしても全く動かない。ただ腕が繋がっているだけ。そんな感じだ。
「こんな大怪我でさ!左腕全く動かないんだけどさ!ポーション掛けたらほら!完全には治らなかったけど少し動くようになった!」
「……」
ポーションを一本取り出して左腕に掛けると僅かに炭化したような部分が元に治り、多少腕が動くようになった。
「これで、これでこれでこれで、フェルリアを絞め殺せるよ!」
「!?」
僕はフェルリアの首に両手を添える。
「フェルリアが僕を殺そうとした時さ、わざわざ魔法で殺そうとしてくれたでしょ?だから僕も短刀で斬り殺すとかしないでさ、鬼の力を使って絞め殺してあげようかなって思って。こんな風にね!」
「うっ、あぁぁ、く、る、し……」
「アハハ!いい声で鳴くね!もっと聴きたい!」
僕は数秒間首を絞めては緩めるを何度も何度も繰り返した。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も
やがて、
「…………」
「ねぇ、何か反応はないの?ずっと変わらないからそろそろ飽きてきちゃった」
「…………」
とても弱いが呼吸はまだある。
フェルリアの顔を見ると涙でぐちゃぐちゃになっていて、虚ろな目がどこかを向いている。
「んーー、そろそろトドメを刺してあげるか。もう遊べなさそうだし」
フェルリアの首に手を添える。
「楽しかったよ。じゃあね、フェルリア」
フェルリアにさよならをして、僕はありったけの力で首を絞めた。
ゴキッという音がして、フェルリアとの戦いは終わった。
◇◇◇
『アナウンス:プレイヤー名セツノがダンジョン死有の地の真ボス、フェルリアを討伐しました』
『フェルリア討伐報酬として古き魔法使いの魂(武器)を獲得しました』
『レベルが上がりました。』
『新たなスキルを複数個獲得しました』
『複数のスキルレベルが上昇しました』
『称号:真のダンジョン攻略者を獲得しました』
◇◇◇
「あー疲れた。ドロップ品とか新しいスキルとかは明日に後回しにして今日は街に戻って宿に泊まったらログアウトしよう」
現れた魔法陣の上に乗ってダンジョンの外に転移する。
「それにしても初日からとても楽しかったなぁ。後半は感情を発散できてとても良かったし」
【隠密】を発動させて街に向かって歩き出す。
「次はどんなことができるかな?」
途中からだんだんおかしくなっていく主人公。
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