80 リスタート
真っ黒になっていた視界に再び光が差し始める。激痛はいつのまにか消えていた。
「ん」
背中にしっかりとしたものの感覚。どうやら木に寄りかかっている姿勢でリスポーンしたらしい。ゆっくりと目を開けると太陽の白い光が眩しくて右手を伸ばし遮った。
「ここは……雪原の前の針葉樹林か」
白色ばかり見ていたせいで、久しぶりの他の色がやけに綺麗に見える。
「っ、あっ、あっ……」
慌てて今の自分の身体を確かめる。
一度離れた下半身はしっかりと存在していた。腰に装備していた紫炎とフェルリアもしっかりと存在感を放っていて、失くしていなくてよかったと一安心した。
「ふぅ……死んじゃった」
脱力して木に寄りかかったまま、数分前のことを思い出す。
「あれは完璧な奇襲だったな」
飛び出してきた大量のトビウオ型のモンスターが僕の視界を埋め尽くしたタイミングの強力な一撃。
僕に一切攻撃を悟らせず、一撃で殺しきった文句の付け所がない完璧な奇襲。
やられたのには油断していたのもあるとは思う。数が多くて厄介だとは思ったが普通に倒せると思ってモンスターの対応に回った。
勝てるという確信があったからこそ、致命的な油断に繋がった。
「……いや油断していなくても同じ結果だったな」
ネームドモンスターが攻撃してくる可能性を頭に入れてなかった。というかなかった。ただ単にモンスターが吹雪から出て襲ってきたと思っていたから、意識外の一撃にしてやられた。攻撃に気付けなかったから防御は不可能だった。
死角から一撃必殺を叩き込む強さを自分の身をもって再確認した。
「……もしかしたら吹雪の中のモンスターを操る力を持っているのかな」
雪原でモンスターがいたのは吹雪の中だけだった。モンスターは吹雪の中を住処にしていて、吹雪に飲み込まれたプレイヤーを凄まじい数の暴力で襲う生態をしていると考えられる。
そんな生態をしているモンスターが自ら吹雪の中から出てくるとは思えない。だがネームドが使役したならわかる。
「あの攻撃はタイミングが良すぎると思うし」
装備についた土を払って立ち上がる。
「考えることが多いな。どうやったら勝てるかな。明らかなのは一人じゃ無理。それにまだまだ未知数なところ多いし」
発見されたばかりのダンジョンをみんなで攻略するという本来の目的の前にとんでもない壁が立ちはだかったと思う。
「とりあえずみんなと合流しよう。近くにいるだろうし」
【気配察知】で周囲を探る。すると少し離れたところに四つの反応と近づいてくる一つの反応を察知した。
「近づいて来るのは多分リンかな。ちょうどいいタイミングだね」
タンッという軽い音が定期的に聞こえる。リンが闘気結界を蹴って宙を移動している音だろう。
僕の存在に気づいたのか進行方向が少し変わって音がこっちへやってきた。
「!?な、なんでこんなところに師匠いるんですか!!」
「やっぱりリンだ。いいタイミング」
僕の目の前に綺麗に着地したリンは僕に問い詰めてくる。
「え、えっと、師匠って雪原に残って調査してましたよね?なんで私より先に戻ってきてるんですか?」
「死んじゃった」
「えっ、ええぇぇぇええ!!??」
耳をつんざく叫び声が針葉樹林に響いた。
「まぁ、落ち着いてよ」
「落ち着けませんよ!師匠が死ぬなんて何があったんですか!?そもそも師匠って死ぬんですか!?」
「死ぬよ。普通にプレイヤーだし」
「師匠って殺しても死なない鬼じゃないんですか?」
「僕のことをなんだと思ってるの……」
「合流したら何があったから話すから」と言って、いろいろと問い詰めてくるリンを制止し、ひとまず四つの反応がある方へ一緒に移動を始める。
どうやって説明しようかと考えながら僕は宙を駆けた。




