7 古き魔法使いvs鬼
「ねぇ君、私の実験材料になってくれない?」
「断る」
「そっかぁ、残念。……じゃあ実力行使だね」
フェルリアが僕に右手を向ける。その手に急速に青色の光が集まり、発射された。
「!魔法か」
「水弾」
闘気を纏わせた左手を前に出して水弾を受け止める。
闘気を纏った手に水弾がぶつかると小さな爆発を起こし、僕の身体を吹き飛ばした。
「っ!」
ダメージはほとんどないが衝撃で吹き飛ばされて距離を取らされた。しかし、その際にフェルリアに【鑑定】を使うことができた。
――――――
ネームドボスモンスター
種族:エンシェントリッチ
名前:フェルリア
LV:45
――――――
「最初のダンジョンになんてやつがいるんだよ!」
僕の現在のレベルはゴーレムを倒して少し上がったとはいえ32。フェルリアとは10以上のレベル差がある。
「私としては降参してくれると嬉しいなぁ。実験材料は傷が少ない方がいいからね」
「断る」
「わがままだねぇ。それじゃあ魔法をたくさん味合わせてあげる」
直後、前から水弾が三発飛んできた。それを右に走って避けて短刀を抜く。
「水蛇、岩壁」
突如として自分を挟み込むかのような形で岩の壁が出現する。逃げ道を封じられた。
足を止めた僕に水で形作られた蛇が次々と襲いかかってくる。さらに水弾とは違って追尾能力があるみたいだ。
「気になることがあるし検証してみるか」
短刀に闘気を纏わせて水蛇を斬り払う。
すると、水蛇は形を保てなくなって崩壊した。短刀を見てみると、纏わせていた闘気が減っている。
「やっぱりそうか。魔法と闘気は互いに打ち消し合ってる」
追撃の水蛇を短刀に闘気を纏わせないで斬るとすぐに元通りになって噛み付こうとしたきた。しかし闘気を纏わせて斬った途端、水蛇の形は崩壊した。
これで闘気と魔法が打ち消し合っているのが確定した。
「これだから鬼は嫌いなのよ。魔法を使えない癖に魔法を否定する」
フェルリアは僅かに顔を歪ませてそう言った。
「鬼と戦ったことがあるの?」
「ええ。鬼は優秀な実験材料なのよ。だから今まで何度も戦ってきたわ。その度君のような闘気使いに困らされたわね。私のような攻撃手段が魔法だけの純粋な魔法使いには天敵だもの」
フェルリアからしたら僕のような闘気を使う鬼が天敵のようだ。それなら……
「でも今は違う」
「?」
「何百年も生きているのよ?君のような闘気使いの対策なんてとっくの昔にしているわ」
フェルリアはそう言って何らかの魔法で空中に浮かび上がると、部屋の四隅に積み重なっている道具の山から魔法でフェルリアと同じ大きさの棺桶のようなものを四つ取り出した。
「起きなさい」
四つの棺桶のようなものがゆっくりと開き、中からフェルリアと瓜二つの存在がそれぞれ剣、弓、斧、杖を持って出てきた。
「これは?」
「この子達は私の魂を分けて作り出した戦闘特化のホムンクルスよ」
「なるほど。魔法が効かないのなら物理でって感じか」
「そういうことよ。それよりも私とそんなに呑気に話してて大丈夫かしら?」
「!?」
剣を持ったホムンクルスと両刃の斧を持ったホムンクルスが肉薄して来ていた。
「くっ!」
短刀で剣を弾き、斧を防ぐ。しかし、左下からの斧の重たい一撃で空中に打ち上げられる。
「馬鹿力にも程があるだろ。このっ!」
弓のホムンクルスが放った矢とフェルリアの水弾を闘気を纏わせた短刀で対処すると、助走つきの跳躍で接近して来ていた剣のホムンクルスを蹴り落とす。
「斧のホムンクルスはどこだ?……着地点かっ!」
的確に飛んでくる矢を弾きつつ後ろを一瞬見ると、着地点で斧を構えて力を溜めている斧のホムンクルスがいた。
僕は空中で身体を強引に捻って斧のホムンクルスと向き合うと、左手に闘気を纏わせて薙ぎ払うように振られる斧を上から殴り付けて地面に落とす。
斧の上に着地すると無防備なホムンクルスの顔面に飛び膝蹴りを撃ち込んだ。
確実に何か硬いものを壊したような感触があった。
「やったか?」
すぐさま振り返ると、接近して来た剣のホムンクルスの突きを回避……しきれずに頬にかすり傷できたが、腹パンで吹き飛ばして距離をとった。
その際に剣のホムンクルスが斧のホムンクルスの体を回収していった。
すると今まで傍観していた杖のホムンクルスが動いた。
杖のホムンクルスが杖を三回ほど振ると、頭が変な方向に折れ曲がっていた斧のホムンクルスの頭が元通りになり、剣のホムンクルスの体を緑色の光が包み込んだ。
「嘘、でしょ」
「いい表情をするわね。最高よ」
杖のホムンクルスの役割は回復だったようだ。
どうにかして先に杖のホムンクルスを倒さないとフェルリアを倒すどころか四体のホムンクルスすら倒せない。
「君はもうすぐ私に敗北する」
「僕は負けない」
「いいえ、負けるのよ。だって君、もう体内の魔素のほとんどは残ってないでしょ?」
「…………」
僕の反応を見てフェルリアは微笑む。
「体内の魔素が尽きれば闘気を精製できない。闘気がないなら魔法を防げない。そうなれば君は私の魔法の弾幕の前に沈むの」
「…………」
「最後の忠告よ。私に降参しなさい。そうしたら最後は楽に殺してあげるわよ」
「断る」
「……折角の私の慈悲を無駄にするのね。まあいいわ。それなら最後は私の魔法で終わらせてあげる。」
「ホムンクルスよ、私を守りなさい」
フェルリアはホムンクルスに自分を守るように命じると、魔法の準備を始めた。
明らかにやばいやつだ。フェルリアを妨害して魔法の発動を止めないとまずい。だけど四体のホムンクルスが立ち塞がる。
闘気はもうほとんど使えない。
「詰んだかな。いや、諦めたらだめだ。まだ勝機はあるはず」
ホムンクルスは守れと命じられているからか僕に攻撃しようとはしてこない。
この最後に与えられた時間で考える。どうすればフェルリアに勝てるのかを。
「……一か八か。やってみるか。」
フェルリアの魔法の準備が終わる直前にフェルリアに勝つ作戦と呼べないような作戦が思いついた。
「覚悟を決めよう」
「これで終わりよ」
フェルリアの周りに百を超えるほどの数多の魔法が展開される。さまざまな属性、さまざまな形の全ての魔法が僕に狙いを定めている。
「死になさい」
全ての魔法が僕に撃ち込まれる。
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