70 初心に戻って
先を飛んで進むノエルとその足に吊るされたゴンドラに乗っているソラとルナを視界の端に捉えて周りを警戒しながら空をかけて追いかける。
今のノエルは本来の蟲の姿に戻っている状態であり、巨大な蝶が北の方角へ一直線に飛んでいるという状態は人の目を集める。
下に視線を落としてみると、追いかけてきているプレイヤーがそれなりにいる。
「意外と頑張るね。すぐに諦めると思ったけどついてくる」
「そうね。諦めてくれるのならいいけど、ずっとついてくるならどこかで邪魔になるかもしれないし倒したいわね」
「私が斬ってきましょうか?」
「いえ、今はまだいいわ。もう少し進んだら雪原に入るからその後もついてこようとしたプレイヤーだけ倒しましょう。防寒装備を整えているプレイヤーは多くないと思うから大半が諦めるはずよ」
「わかった。それまでは魔獣以外は放置する」
前を向けば遠くの方が白くなっている。
「雪だあぁぁ!!」
「ちょっと!ノエル!?」
雪原が遠くに見えてきてテンションが上がったのか、ノエルの飛ぶスピードが上がった。
「置いてかれる前に急ごう」
「そうですね」
闘気を纏って身体能力を強化し、結界を蹴って進む距離を伸ばして追いかけると、景色が目まぐるしく変わっていく。
針葉樹が少しずつ減って緑の密度が小さくなり、一面白銀の雪原が近づいてくる。
「ルア。雪原に入ったら僕とリンでプレイヤーを倒すよ。雪原は糸をかけるものが少なそうだし先に進んでて」
「そうさせてもらうわ。二人とも大丈夫だとは思うけど普段と違う環境だから十分に気をつけるのよ」
「うん」「はい!」
そして雪原に入った。入った瞬間に冷たい風が頬を触れて流れていく。
「さて、どのくらい残っているかな」
作り出した結界の上で振り返り、リンと足を止めて下を見下ろす。
「右に六、左に六。うん。ちょうどいいね」
全員それぞれ統一されていない装備をしている。集団が僕たちを狙って追いかけてきたわけではなく、ある程度の力を持つ個人が偶然見かけて興味本位で付いてきたというところだろうか。
「リン、僕は右の方をやるから左は任せるよ」
「はい、師匠!!」
リンがハルパーを構えて飛び出した。
「じゃあ僕も行こうか」
結界を蹴りプレイヤー近くの雪へ勢いよく突っ込む。
「なんだ!攻めてき……っ!」
白いフードで舞い上がった雪に紛れながら紫炎を近くにいたプレイヤーの心臓目掛けて突き出した。
紫炎はあっさりとプレイヤーの心臓を貫き、呪炎が残った体を燃やし尽くした。
「そういえば最初は短刀と毒を使った暗殺で倒していくプレイスタイルを目指していたんだよな……初心に戻ってみようかな」
舞い上がった雪に紛れて一旦プレイヤーから距離を取るが、風魔法で雪が吹き飛ばされる。
「鬼!?……まさかセツノじゃないよな?」
質問には答えず、【闘気反応】を発動して広範囲の足元の雪に闘気を流すと、プレイヤーを囲んで渦を巻くように操作する。
「なんだ!?何が起こってる!?」
「とりあえず協力するぞ!このままだと全員さっきの鬼に殺される!」
雪の渦に囲まれたプレイヤーはそれぞれの獲物を構えて即興の連携で全方位を警戒している。
そんなプレイヤーたちを渦巻く雪の流れに乗りつつ姿を隠して観察する。
「即席の連携の割にはほとんど隙がないね。だけど……隙がないなら作ればいい」
地面に広がる雪を大きく波うたせる。全員がバランスを崩して片手をつく。そこから適当に選んだ一人の足元の雪を急速に隆起させて打ち上げる。
「何が起こっ!?」
雪の渦から飛び出して致命的な隙を晒したプレイヤーの心臓に背中側から紫炎を滑り込ませる。即死を確認して再び雪の渦に紛れる。
死体は地につくことなく、空中で呪炎によって燃え尽きた。
「「うわあぁぁ!!」」
恐怖にかられた二人のプレイヤーが雪の渦から逃げ出そうと武器を振り回しながら突っ込んだ。
「逃がさないよ」
雪の渦に飛び込んだプレイヤーの身体を雪で足を奪い全身を固める。
抵抗すらさせずに紫炎を心臓に突き刺して呪炎で燃やし尽くす。
「あと二人か」
雪の渦の外に出る。
「もういいか。雪に埋もれて眠れ」
闘気反応で渦にしていた雪を中心に向けて徐々に狭べていき、中にいた二人のプレイヤーを巻き込んで一本の雪柱へと固めた。
「寒いだろうし温かくしてあげるね」
雪柱を呪炎で包む。
「これでよし。……初心に戻った戦いは楽しかったし環境を利用したのも楽しかったな」
戦いを振り返ってそう考えた。
「そういえばリンは……」
リンが向かった方向を見ると、雪が溶けて蒸気が上がっていた。
「……リンの方も終わったみたいだね。それじゃあノエルを追いかけよう」
空を見渡して飛び続けているノエルの姿を見つけると、ノエルへ向かって宙に作り出した結界を蹴って跳んだ。
「置いてかれそう」




