6 ボス戦
「【闘気変換】【闘気纏】」
僕は闘気を両手両足に纏わせリビングゴーレムに向けて走り出す。
というかいちいちリビングゴーレムって長いからゴーレムでいいか。
突っ込んでくる僕を確認したゴーレムが右手の大剣をゆっくりと振り上げた。
そして大剣の間合いに僕が入った途端、想像以上の速さで振り下ろされた。
「!?…あ、危なかった。」
姿勢を低くして避けると更に間合いを詰めて両足の間をくぐり抜ける。その際に短剣で人でいう太腿の部分を斬りつけたが硬く、薄く斬っただけに終わった。
くぐり抜けたらすぐに折り返し、ゴーレムの足を踏み台にして上に飛び後頭部に短刀を振るう。
「!?」
短刀が後頭部を捉える直前、ゴーレムの頭が半回転し顔の部分に埋め込まれている赤い宝石が放つ輝きが僕の視界を埋め尽くした。
「っ!」
【危機察知】がガンガンに反応する。
短刀を振るうのを強引に止めて後ろに重心を移動させ、ゴーレムの体を蹴った反動を利用して距離を取る。
赤いエネルギー弾が宝石から放たれ、僕の頭のすぐ目の前を通って行った。
「!?」
空中で一回転して着地すると、弧を描くように右に走り出す。
ゴーレムは頭を僕を追いかけるように動かしてきて、僕のすぐ真後ろに赤いエネルギー弾が着弾する。
「うっ!」
僕の動く先を予測されて大剣が振り下ろされた。
僕は咄嗟に身体を捻ることで致命傷は避けられたが、エネルギー弾に気を取られていたのもあって脇腹を少し深く斬られた。
「痛ったいなぁ!」
傷口が熱い。傷口に左手を当てると真っ赤に染まった。早くポーションを使わないとまずそうだ。
しかし、ゴーレムの攻撃はこれだけではないようで、次の攻撃をどうにか対処しないとポーションで回復はできないだろう。
ゴーレムの体からギギギという音がして頭と同じように回転をすると、勢いが乗った大剣が僕に撃ち込まれた。
僕は大剣に短刀を合わせてガードをして……ボス部屋の壁に叩きつけられた。
意識が飛びそうになるほどの衝撃が全身を駆け巡った。
「生きてる?……生きてる」
自問自答してまだ生きてることを確認する。生きてるならやることは一つ。
ゆっくりと起き上がる。壁を見ると小さなクレーターができている。鬼の高い身体能力による体の頑丈さが無ければミンチになっていたかもしれない。
ポーションを二本取り出すと一本は斬られた脇腹にかけ、もう一本は普通に飲み込んだ。ポーションの効果はすぐに現れた。傷口が治り始めて痛みが引いていく。
「仕切り直そう」
近くに転がっている短刀を拾い上げると腰に戻し、両手で強く拳を握る。その拳に新しく精製した闘気を纏わせる。
「反撃させてもらうよ」
最初と同じようにゴーレムに向かって走り出す。
ゴーレムも最初とまったく同じ動きで右手の大剣を振り上げる。
そして僕が大剣の間合いに入り、大剣が振り下ろされる。
僕は右に飛んで回避すると距離を詰める。
ゴーレムはもう一本の大剣を横薙ぎに振って僕を近づけまいとするが、大剣の腹の部分を下へ殴りつけて軌道を下へと逸らすことでこれも回避する。
「ここまで近づければあとはこっちのもの」
最後の一歩を思いっきり踏み込み跳躍する。ゴーレムの胸のあたりまで飛ぶと一発拳を撃ち込んだ。
ドンッと重い音がしてゴーレムの硬い体にヒビが入った。
「効いてる!やっぱり硬いものは斬よりも打の方か。」
続いてもう一発を同じ場所へ撃ち込んだ。ヒビが広がり、ゴーレムの上半身がノックバックで多少のけぞった。
すると、ゴーレムの頭の部分の宝石が赤い光を放ち始めた。これはエネルギー弾を放つ予備動作のようなものだ。
「それは撃たせないよ!」
のけぞった体を蹴って更に上に跳躍し裏拳でゴーレムの頭を殴り付けた。溜まっていたエネルギーは明後日の方向へと飛んでいった。
それだけでは終わらせない。
バレーのレシーブをするときのように両手を組み合わせると、それを思いっきり頭に叩き付けた。
バキィという音がしてゴーレムの頭の部分が潰れ、その衝撃が胸の部分のヒビに伝わって体を砕く。
「これがゴーレムの核かな」
体が割れたところから大きな紅色の宝石が見えた。おそらくこれがゴーレムの核のはず。
僕は【隠密】を発動させてゴーレムの後ろに回り込む。
先程潰した頭が敵を探知する力を持っていたようで、潰したことによって探知されないため【隠密】を使うことができた。
そして、
「これで終わり!」
僕の拳がゴーレムの核を砕いた。
◇◇◇
『アナウンス:プレイヤー名セツノがダンジョン死有の地を初攻略しました。』
『ダンジョン初攻略報酬としてSP10を獲得しました。』
『レベルが上がりました。』
『新たなスキルを複数個獲得しました。』
『複数のスキルレベルが上昇しました。』
『称号:ダンジョン攻略者を獲得しました。』
◇◇◇
「一人でもどうにか攻略できたーー。」
ゴーレムのドロップ品を拾ってアイテムポーチに詰め込むと、僕は大の字になって床に寝転がった。
「凄い疲れたけど楽しかった。」
そんな感想が自然と口から溢れた。その後は何も喋らず、ただゴーレムとの戦いを思い出していた。
しばらくしてから起き上がると、最初にはなかった魔法陣があることに気付いた。おそらくダンジョンの入り口まで戻る帰還用魔法陣だろう。
「じゃあ帰るか。……ん?」
魔法陣の上に乗って帰ろうとした時、ふと目に入ったこの部屋の壁の模様の一部に何か違和感のようなものがあった。
「ここの模様だけ少しずれてるのかな?」
違和感がある模様の辺りの壁をペタペタと触ってみて、何があるのかを調べてみる。
「特にないみたい?ただのミスかな?」
そう思いつつも壁を触って調べていると、
「ガコッ」
「え!?」
適当に触った場所が凹み、壁に人が余裕で通れるような隠し通路が現れた。
「続きがあったの!?でもダンジョンは攻略したはず。それだと隠し要素?かな?」
運営のミスで、このダンジョンを作成中だった時に没になったものがそのまま残っているが一番可能性としてはありえそうだが、隠し要素というのもあり得ない話ではない。
「行ってみるか。」
結局好奇心に負け、隠し通路を進んでみることにした。
隠し通路はとても暗く長かった。それでも進み続けていると前方から暗闇に光が差し込んで来た。
僕は光がある隠し通路の奥へ進んだ。進んでしまった。
隠し通路の先はボス部屋よりも更に広い空間で、さまざまな道具がそこらじゅうに散らばっていた。埃などは被っていなくて、むしろ生活感があるように感じる。
「久しぶりのお客さんね。これはこれは、歓迎しないと。」
「!?」
突如、自分の真後ろから女性の声がした。
慌てて振り返ると、そこには空の色のような薄い青色の瞳を持ち、胸のあたりまで伸びている濃い青色の髪をわずかに揺らしている十六歳くらいの少女の外見をした存在がいた。
急いで僕は距離を取る。【危機察知】がゴーレムの時よりも激しく反応する。
「いい反応をするわね」
「……何者ですか?」
「私はこの空間で何百年も生き続けている不死の魔法使い、エンシェントリッチのフェルリアよ」
「ねぇ君、私の実験材料になってくれない?」
フェルリアといった化け物は、僕に笑いかけてそう言った。
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