61 獣との対面
「よし。やることやった」
学校から帰宅し、やらなければならない家事を全て終わらせたところで時間を確認する。
「約束の時間まではまだある。少し早めにログインして移動しておくか」
自分の部屋で充電していたVR機器を装着してベッドに寝転がると、RFOにログインした。
――――――
前回ログアウトしたエイラにある宿の一室のベッドの上で目を覚ます。
「確か集合場所はスタヴィルの大きな噴水の広場だったっけ」
最初に転移する場所は二人ともスタヴィルにすると言っていたから、僕とノエルとルアはスタヴィルまで移動する必要がある。
「あれ?メールが来てる」
ノエルとルアと一緒にスタヴィルまで向かうことになっているため、二人がログインしてくるのを部屋で待っていると、差出人不明のメールが一件届いているのに気付いた。
「差出人が運営じゃない。というか不明って。そもそも運営以外からメール来るんだ」
差出人が不明な点を疑問に思いつつも、届いていたメールを開く。
「!?」
メールを開いた瞬間、急に周りが暗くなり唐突に身体が落ちていく。
「【闘気結界】……って使えない!?」
闘気結界で足場を作り出そうとしたがスキルが発動せず、そのまま落ちていく。
「もしこのまま落下していきなり地面に叩きつけられようものなら余裕で死ぬね。どうしよう」
紐なしバンジーの気分を味わいつつどうにかできないかと考えていると、真っ暗だった周りの景色が次々にさまざまな生物の骨がうず高く積み上がった景色へと書き換えられていく。
「わっ!」
そして急に落下が止まったかと思うと、数多の骨の上に僕は立っていた。
落ちていたはずなのにいきなりどこかに立っているという経験は新鮮な感覚で、内臓が揺さぶられたように気がしてわずかな吐き気に襲われた。
「うぅー。落ち着いた」
込み上げてきたものにどうにか耐えて落ち着くとあたりを見渡した。
四方八方どこを見ても骨が山積みになっている光景が広がっている。
『おい』
「!?」
突然上から声が聞こえたかと思うと、目の前に大きな狼が降ってきた。
『宿主。腹が減った。何か食わせろ』
「え?いきなり何?というか何なの?」
ぼたぼたと口から唾液を零し続けている目の前の狼に問いかける。
『俺は宿主が持つユニークスキルの人格だ』
「……【餓えたる獣】に宿っている人格ってこと?」
『そうだ。今俺は腹が減っている。何か食わせろ』
「何か食わせろって……何が食べたいの?」
『この前の蜥蜴……じゃなくてもいい。ネームドモンスターだったか?そいつらの素材を食わせろ』
「はぁ??」
餓えたる獣の人格と言った狼はとんでもないことを言った。
『早く食わせろ』
「今は持ってない。そもそもネームドモンスターってそう簡単に会えるわけじゃないし、強いから倒すのが大変で常に素材を持ってるわけがないでしょ」
『……ないなら仕方ない。スキルでいい。そうだな……【毒作成】を食わせてもらう』
「はぁ??」
またもやとんでもないことを言った。
『それじゃあいただくぞ』
狼の口の前に紫色の輝きを放つ結晶が現れる。
「っ!ちょっと待って!」
狼は僕の静止を聞かずに結晶を飲み込み、バキバキと音を立てて噛み砕いた。
直後、アナウンスが流れた。
《【毒作成】が【餓えたる獣】に統合されました》
《【毒作成】が消失しました》
「はっ!?ちょっとほんとに何してんの?!」
『宿主が最近使ってなかったスキルを食った。何の問題もないだろう?』
「あるよ!作り置きしてた毒をウォーレアの時にかなり使って減らしたから、近いうちにまた作り置きしておこうと思ってたのに!」
『それなら俺が宿主に頼まれた毒を作る。それでいいだろ?』
「……作れるの?」
『さっきアナウンスが統合したと言ってただろ?【毒作成】はただ俺に食われて消失したわけではない。俺が食ったことで統合されて一つになっただけだ。つまり俺が毒を作れるようになった。それに自分で作りたければ、もう一度獲得すればいいだけだろ?』
「……確かに」
目の前の狼はスキルを食べたからか、満足そうにして丸くなって座った。
『よし。満足したしそろそろ宿主を元の世界へ送り返す。じゃあな』
狼がそう言うと、周りの景色がドロドロに溶け始めて真っ暗になっていく。そして再び自分の身体がどこかに向けて落下していく。
「またこの感じ!何がしたかったんだよ!」
周りの景色がドロドロに溶けていくのに合わせて、同じように溶けていく狼に向けて叫ぶ。
『ただ餓えていただけだ。……宿主。もう少し俺を使え。使って何か食わせろ。満たされない』
狼は最後にそう言って溶けて暗闇に消えた。そして僕は気付いたら宿のベッドの上に戻っていた。
「……あの狼は何だったんだよ」
僕はベッドから起き上がるとボソッと呟いた。
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