53 死闘の終わり
「【色光流 青の海裂き】」
上から勢いよくまっすぐに振り下ろされる海をも裂く青色の一撃を右へ逸らすように紫炎で受け止める。
(くっ、重い!)
あまりの一撃の重さに地面にひびを入れて右足が沈んだ。地面から再び伸びてきた腐った手を触られる前に呪炎で燃やすと左手に闘気を纏い、屍鬼光の刀を持つ手を狙って拳を振った。
屍鬼光は後ろへ飛んで避けるとすぐさま刀を鞘に戻し抜刀術の構えを取る。
「【色光流 白光瞬閃】」
「っ!」
ドンっと地面を蹴る音がして土が舞った。ギリギリ視認できる速度で白い光を纏った屍鬼光が突っ込んでくる。
神速で振られる首への刀の一撃を紫炎で防ぐが、かなりの衝撃が腕を駆け抜けていき右手が痺れて紫炎が後ろへ飛んでいった。
続けて腹部に振られる刀をフェルリアが2本の短剣を重ねて受けるが完全に防ぎきれずに鳩尾のあたりに浅く傷を負った。
紫炎を回収するために後ろへ下がるが屍鬼光の容赦ない追撃がとんでくる。
「【色光流 黄の七凪】」
一歩踏み込んできた屍鬼光の黄色の七連撃が後ろへ下がる僕に迫る。
三連撃を身を捻ってどうにか回避し、続く四連撃をフェルリアが魔法で間に作った複数の岩の壁を利用して距離を取って避ける。
『主人様!』
「ありがとうフェルリア」
フェルリアが風魔法で持ってきてくれた紫炎を掴むと同時に屍鬼光が二撃で全ての岩の壁を砕いて飛び出し、残りの二撃を紫炎で弾く。
「【色光流 赤円転 連】」
赤色の光を纏った刀が弧を描くように振られる。
それを一歩下がって避けるが、屍鬼光が駒のように回り勢いを増して連続で斬りつけてくる。
『全く攻撃の隙がないね。攻撃は最大の防御とはよく言ったものだね』
「そんな……こと!……言ってる場合、じゃない!」
防戦一方で攻撃できるタイミングが全くない。
「というか……魔装の強化だけじゃ、きつくなってきた!」
赤円転による切り傷がどんどん増えていく。まだ浅い傷で済んでいるが、これ以上勢いを増していくと軽傷では済まなくなってくる。
「……闘気を本格的に使う。呪炎の操作は任せる」
『わかった』
魔装を使用している状態で闘気を大量に使うとフェルリアが魔法を使えなくなる。フェルリアの魔法に何度も助けられているから、これからの戦いに魔法のサポートが無くなるのは不安だが、これ以上は闘気の身体強化が無いと耐えられない。
「仕方ないか」
魔法が使えなくなる代わりに紫炎の呪炎の操作をフェルリアに任せ、全身に闘気を纏う。
闘気によって強化された身体能力で赤円転の対処に間に合うようになり、反撃のタイミングを伺う余裕ができてきた。
赤円転を防いでいると、フェルリアが呪炎を大量に生み出し、屍鬼光にぶつけ始めた。
屍鬼光は一旦下がると、フェルリアが飛ばす呪炎を次々と斬り消していく。
屍鬼光が最後の呪炎が斬り消したタイミングを狙って呪炎を纏った紫炎を向けて屍鬼光との距離を詰める。
屍鬼光は呪炎を斬り伏せた直後で刀での対応が僅かに遅れる。刀が斬り上げられる前に紫炎で地面に押さえ付ける。
「っ!」
屍鬼光の動きが止まった所に呪炎を纏った二本の短剣が挟み込むように振るわれるが、屍鬼光を斬る直前で止まる。地面から伸びた数多の腐った手がリボンの部分を掴んで押さえていた。
フェルリアがリボンにまで呪炎を纏わせ、数多の腐った手を燃やし尽くすが、その間に屍鬼光が刀から手を離し茶色の刀と緑色の刀を両手に呼び出した。
『地面と風に気を付けろ!』
頭の中でフェルリアの警鐘を鳴らす声が響く。
屍鬼光が茶色の刀を地面に突き刺すと局地的に地面が大きく揺れた。体勢が崩れ、屍鬼光が空いた手で押さえられなくなった刀を回収して下がると、緑色の刀を振った。
「っ!!」
突如突風が吹き、右肩から左脇腹まで大きく斬られた。闘気で威力が下がっていなければ真っ二つになっていたのが容易に想像できる威力だった。
「やってくれたね」
「そちらこそ」
ある程度の距離を空けて三度向かい合う僕と屍鬼光。僕は全身至る所に切り傷が、屍鬼光は両足を呪炎に燃やされていた。
『アンデッドには火葬が似合うね』
「ナイスフェルリア」
周りを見渡すと地面の至る所で呪炎が燃えていて、数多の墓が呪炎に飲み込まれていた。
どうやら屍鬼光が僕とのやりとりに気を取られているうちにフェルリアが呪炎でフィールドを燃やしていて、屍鬼光が下がった時にフィールドを燃やしている呪炎を踏んだようだ。
「厄介な火ね。消せないなんて」
屍鬼光から人の肉が焼ける強烈で独特な臭いがしてきて、あまりの臭いに思わず顔を顰める。
「普通の火よりも燃えるのが早い。長くは持たなそうね」
「自分の身体が燃えているのに冷静だね」
「焦った所で状況は良くならないのよ」
屍鬼光が刀を鞘に戻す。
「足が使えなくなる前にお前を殺す」
「やれるものならね」
「やれる」
屍鬼光の両手に白色の刀と黒色の刀が現れる。
屍鬼光は両手に持った二本の刀を身体の前で交差させると、白色の刀を振り上げて黒色の刀に勢いよく打ち付けた。
「一体何を……」
『主人様!』
フェルリアが魔装を解除すると人型となって僕の前に立った。直後、屍鬼光の行動の意味がわかった。
屍鬼光が持っていた黒色の刀と白色の刀が混ざり合い、灰色の莫大なエネルギーの塊になる。
「混……沌……!!」
黒色の刀は魔素、白色の刀は聖素だったようだ。その二つが互いを打ち消し合う前に混ぜ合わされることで混沌が生まれた。
灰色の澱んだ閃光が僕を包み込む直前、僕の前に立ち塞がるように立ったフェルリアが防御魔法を発動させた。
「【絶対防御】!!」
魔法を使わない僕でも一目でわかるほどの世界最高峰の防御魔法だった。混沌が発生させる破壊の本流を捌いていく。
「フェルリア!」
「大丈夫!あと5秒で終わる!それと同時に魔法を解くから倒して!」
「わかった」
大丈夫とは言っているがフェルリアの発動させている防御魔法には亀裂が少しずつ入っていっており、そこから僅かに流れ込んできた混沌がフェルリアにダメージを与えていく。
フェルリアは苦しそうな表情をしていて、腕や顔にどんどん傷が出来ていく。そこから血が流れることはなく、ただ傷口が広がっていくようにフェルリアの身体がひび割れていく。
「主人様!」
「ありがとう、フェルリア!!」
フェルリアが混沌を捌ききり、防御魔法が消えると同時に屍鬼光に向けて走り出す。
「やっぱり倒しきれなかったか。でもこれで終わり!【色光流奥義 七色征現斬】」
紫炎を逆刃持ちをして右下から左上へ振る僕に合わせて待ち構えていた屍鬼光は右上から左下へ奥義を放つ。
屍鬼光の奥義と僕の紫炎がぶつかり合い……紫炎が吹き飛んだ。両手で持って振り下ろした刀と片手で斬り上げた短刀、刀の方が勝つのは当然の結果だった。
すぐさま返しの刀が僕の首目掛けて振られるのを空いた右腕で刀身に肘を落とす。刀身に垂直でないため、肘の半分が削ぎ落とされるような形になったが刀の狙いをずらしスピードを落とすことに成功した。
「!?」
「僕の勝ちだね」
それ以上刀が僕を斬ることはなかった。
屍鬼光が刀を落とし自分の胸を見る。
呪炎を纏った左手の手袋から出た鉤爪が屍鬼光の胸の中心を貫いていた。
「さようなら」
胸の中心から一気に呪炎が屍鬼光の全身を覆い、すぐに燃やし尽くした。
屍鬼光が死んだことで世界魔法が解け、呪炎がそこら中燃えている墓場の景色が崩れていく。
僕とフェルリアは重傷のダメージを負いながらもどうにか元の世界へ戻ってきた。
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