4 ダンジョン攻略 第一層、二層
「これが目印の人工物かな?」
教えてもらった方向へ少し歩いていくと、廃村のような場所に着いた。
辺りを軽く探索してみると、苔が覆い尽くして濃い緑色の井戸や建材の石に大きなひび割れがあって今すぐに倒壊してもおかしくないような教会、原型がわからなくなるほどボロボロに朽ち果てている家屋などがあった。
そして、足元に気を付けて探索していると、
「あった。これがダンジョンの入り口か」
地下へ続く階段を見つけた。
「準備は出来ているし早速行ってみるか」
僕は【隠密】を発動させてからダンジョンへ潜っていった。
◇◇◇
「うぇっ、臭い」
階段を降りて第一層に着くと、そこはカビくささが充満している洞窟のような場所だった。
「松明を街で買っておけばよかった」
ダンジョン内は真っ暗で手元には明かりになるものがないため、しばらくその場で待機して目が暗闇になれてから進み始めた。
「ん、足音がする。おそらくモンスターかな」
匂いがあまり気にならなくなってきた頃、前方からコツコツと明らかに人ではないような足音が聞こえてきた。今いる場所は一本道なので接敵は避けられない。
その場で立ち止まって目を凝らし、近づいてくる足音の方を警戒して短刀を構える。
やがて足音の正体は姿を表した。
見た目は人の骨格標本、指の骨でがっちりと掴んでいるのは刃こぼれの激しい西洋の剣。現れたモンスターはアンデッドに分類されるスケルトンだった。
スケルトンが僕に気付き斬りかかってくる。
【隠密】はあくまで気配を隠して自分の存在を気付かれにくくするスキルであって、姿が透明になるわけではないので隠れるところがなかった一本道ではバレてしまった。
【闘気変換】で体内の魔素を闘気に変化させ【闘気纏】で両手に纏わせる。さらに新しいスキル【闘気操作】で自分が持つ武器などにも闘気を纏わせることができるようになったので、右手に持つ短刀にも闘気を纏わせる。
「―――――!!」
「はぁぁぁぁ!!」
勢いよく振り下ろされる剣の特に刃こぼれが激しいところを狙って短刀を振るう。その結果、スケルトンの刃こぼれの激しかった剣は半ばから折れ、更にスケルトンは体勢を仰け反らせた。
驚いているのかそれが通常なのかわからないが、カタカタと音が鳴るスケルトンの頭目掛けて闘気で強化された左手で握った拳で思いっきりぶん殴った。
拳はスケルトンの頭の真ん中を捉えると粉々に砕いた。直後、今まで動いていたスケルトンの体がバラバラになって崩れ落ちた。
「アンデッドだから倒し方が特別だったら困ったけど、スケルトンは頭蓋骨を砕けば倒せるみたいだね。というか頭蓋骨じゃなくても重要そうな骨を砕けば倒せるかな?」
短刀を腰に戻し骨を何本か拾ってから【隠密】を発動させて歩き出す。
その後、合計二十二体のスケルトンと接敵したが同じ様な方法で全部叩き潰した。
◇◇◇
いくつかの分かれ道を右手の法則で攻略していくと大きな部屋に辿り着いた。
最初はボス部屋かと思って警戒して入ったがボスがおらず、よくよく確認してみると下へ続く階段が中央にあるだけの部屋だった。
どうやらこの部屋は第二層へ移動する階段があるだけの場所で、モンスターが入ってこれないようになっていた。
なので、横になって休憩を取ることができた。
ダンジョン内は常にモンスターに襲われる可能性があり、最初のダンジョン攻略ということも合わさって緊張の糸が張り詰めた状態で歩き回っていた。
そのため、自分が思っていたよりもダンジョン攻略で疲労が溜まった。その疲労をここでの休憩で取ることができたのはちょうど良かった。
「ふー。よく休んだしそろそろ行くか。正直に言って行きたくないけど」
階段から僅かに漏れてくる強烈な腐臭に顔を顰める。
今いる第一層のカビくさい匂いよりも圧倒的に臭い。本当に進みたくないが進むしかない。
「流石にここまでリアルにしなくたって良かったのに」
愚痴を呟きながら鼻を押さえ階段を降りていく。
「防具にこの臭い付いたら最悪だな。もし付いたら防具買い替えよ『バキッ』っあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
階段は上質な木の板で作られた螺旋階段で足を滑らせないように気を付けて降りていた。そして、そろそろ第二層の床が見えてくるかなという辺りで一歩踏み出そうとした時、一瞬僕の全体重を支えていた木の板が割れ、そのまま第二層の床まで落下した。
「うぇ、ぺっぺ。……痛い」
床に叩きつけられる少し前に短刀を壁に刺しながら落ちて、落下の勢いを少しでも殺したのが功を奏したのか、体感の落下距離が長かった割には軽症で済んだ。
「下の方の板は腐っていたのか。上の方が大丈夫だったから油断してた」
上の方の板はクリーム色をしていたのに、僕の周りに転がっている木片はほとんど全てが黒色だ。
ぱっぱと装備を軽くはたいて立ち上がると、途中で手を離してしまって壁に刺さったままの短刀を回収し、辺りに散らばった投げナイフを拾い上げて装備し直した。
その時、強烈な腐臭がもっと濃くなった。
自分の視界の端に変なアイコンがつき、それを調べると吐き気というデバフだった。それを確認したのと同時に何やら酸っぱいものが込み上げてくるのを感じた。
僕はアイテムポケットから一本回復用のポーションを取り出すと、それを一気に口に流し込んでダンジョン内で吐瀉物をばら撒くということを回避した。
「ちょっとやばい状況になってるね」
強烈な腐臭が流れてくる方を見た時、そこにはアンデッドで最も有名だと言ってもいいだろう、腐った体を左右にゆらゆら揺らして近寄ってくる七体のゾンビの姿があった。
「この臭いの元凶はお前らか。死ね。【闘気変換】【闘気纏】」
精製した闘気を両足と短刀に纏わせる。
「もう一度死ねぇぇ!」
一足で一番近いゾンビとの距離を詰めて短刀を一閃、頭が宙を舞う。
「わ!近づくな、よ!」
ゾンビは頭を失っても動き、両腕を伸ばしてきたので左足で蹴り飛ばして一旦距離を取る。
「首を斬るだけじゃだめか。倒すなら頭を潰すか体を潰すか、かな。」
もう一度一足でゾンビの体に距離を詰め、短刀で首から股までを斬って真っ二つに裂いた。体が腐っているだけあって簡単に両断できた。
「体だけじゃだめか。それだとやっぱ頭かな。」
じたばたと床の上をのたうち回る頭とバラバラの体を一旦無視して、次に近いゾンビへと向かう。
二体目のゾンビも同じように距離を詰めると一閃、今度は宙を舞う頭に向けて短刀で突きを繰り出す。
短刀は頭を貫き、次の瞬間にゾンビの体は倒れて動かなくなった。
「頭を潰せば倒せるのか。それなら、」
ゾンビは早く動けない。闘気で強化している状態なら、首を斬って体に攻撃される前に離れるということが余裕でできる。それほどまでに動きが遅い。
「ほい。ほい。ほい。ほい。ほい。っと」
先に残りのゾンビの首を全て斬ってしまった。そしてUターンして頭一つ一つに短刀を刺していく。
残った体は、頭を失ったことで僕がどこにいるのかわからないようで、ただ首を斬られた辺りを彷徨っているだけだった。
そのため、妨害されることなく処理することができた。
「ふぅ、これで終わり。……おぇっ。」
再び込み上げてきそうになる。
僕は闘気を足に纏わせたまま全力ダッシュしてその場からとにかく離れる。途中で何体かのゾンビとすれ違ったが、そんなの無視して走り抜け、とにかく次の層へ向かう階段がある部屋を探す。
強烈な腐臭の元凶がゾンビなら、モンスターが入ってこれない階段のある部屋は臭いがしないんじゃないかと考えたからだ。
さっきの層では二層から流れてきた腐臭はしたがカビくさい匂いはしなかった。とにかく、階段の部屋に入れば強烈な腐臭は大丈夫、そう考えて走った。
そしてどのくらい無我夢中に走り続けて部屋に辿り着いたのか、気付いたら階段のある部屋にいた。
その部屋の中は期待していた通り、強烈な腐臭はなかった。
ここは天国か?部屋に入った時、そんなことまで考えた。
「二度とここには来ない」
座り込んだ僕はそう呟いた。
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