41 イブキ
「そういえばあなた様のお名前を聞いていませんでした。あなた様のお名前を教えていただけませんか?」
「セツノ。僕はセツノだよ」
「セツノ様ですか。これからよろしくお願いいたします、セツノ様」
「セツノでいいよ」
「いえ、セツノ様は我々の恩人で呼び捨てなどできません!」
「そうなんだ。まぁ好きなふうに呼んでくれて構わないよ」
少し慣れないけど好きなように呼ばせておこう。
「わかりました。それでは鬼の里まで案内します」
空に向けて伸びる大きな木の下からユカリを追いかけて歩き出す。しばらく歩いてからユカリは足を止めて振り返った。
「セツノ様、壊されてしまった結界を貼り直したいので少しだけ時間をもらってもよろしいですか?」
「いいよ」
「ありがとうございます」
ユカリは僕の返答を聞いた後、胸のあたりで手を組んで祈るような仕草をした後、一つのスキルを発動させた。
「【冥夜結界】」
スキルが発動すると、僕の数歩後ろから透明な膜のような結界が大きな木を中心にしてドーム状に発生した。
「終わりました」
「今張った結界ってどんな結界なの?」
鬼の里に向けて再び案内を再開したユカリの後を歩いて追いかけつつ聞いてみた。
「あの結界は冥夜結界というもので、この地に生息し始めた時の最初の猫又の長が編み出し、代々猫又の長に引き継がれてきた複数の効果を持つ特別な結界です」
ユカリは自慢げに冥夜結界のことを僕に話し始めた。
「一つ目の効果は猫又以外のモンスターの侵入防止です。先程結界を貼った場所が猫又の居住区域と狩猟区域の境界線で他のモンスターが居住区域に入れないようにしています。セツノ様が入れたのは結界の中にいた先代の長に呼ばれたからですね」
「かなり便利な結界だね」
「はい。我々がセツノ様が来るまでに全滅しなかったのは先代の長が張っていた冥夜結界のおかげです」
気分が上がったからかユカリの歩く速度が上がった。
「二つ目の効果は……って今いいところなんですが……」
ユカリが気分良く冥夜結界の続きを話し出そうとしたところで、周りの木に尻尾がやけに長い小型の猿型のモンスターが現れて僕とユカリを取り囲んだ。
「私に任せてください、セツノ様」
「じゃあお手並み拝見ということで」
(猫又の長のユカリはどのくらい強いんだろう?明らかに高難度な冥夜結界を簡単に使ったからかなりの実力はありそうだね)
「右に3体、左に4体」
ユカリが空手のような構えを取る。それと同時にユカリの両手の爪が鋭く伸び、周りに青い火の玉が3個浮かぶ。
「行きます」
ユカリが周りの青い火の玉一つを一番近くの猿のモンスターへ飛ばす。それと同時に猿のモンスターが逃げる方へ跳躍して鋭い爪で喉を掻き切った。
「おぉ!」
猫又は猫のモンスターなだけあって、瞬発力と跳躍力がかなり高かった。
ユカリは次の狙いを反対側の木の上から石を投げつけようとしている猿のモンスターに定めると、青い火の玉を一つ足元へ動かし爆発させた。
爆風がユカリの身体を押し、石を投げる前に猿のモンスターはユカリの爪で体を切り裂かれた。
そして木の枝に着地したユカリは振り返りざまに近くの木から飛びかかってきた猿のモンスターの頭を青い火の玉で撃ち抜き、青い火はすぐに全身に燃え広がって焼き殺した。
その様子を見た残りの猿のモンスターはユカリから急いで離れるようにして逃げていった。
「全滅させる手間が省けましたね。それでは進みましょうか」
僕のところは戻ってきたユカリはまた鬼の里へ向けて歩き始め、僕はユカリについていく。
今度は先程のモンスターの生態を教えてくれた。
ユカリ曰く、先程のモンスターは5から7体程度で群れを作って狩りをするらしく、性格は好戦的で格上の相手でも気にせずに襲いかかってくるらしい。
「そういえば好戦的と聞いていたのであんなに早く逃げたのは少し妙でしたね。多少の犠牲なら気にせず襲いかかってくると聞いていたのでもう少し戦闘が続くと思っていて意外でした」
「そうなんだ。……鬼の里へはあとどれくらいでつきそう?」
「このペースだとあと二十分くらいですね」
「かなり近いところまで来てるんだね。楽しみだn……」
ドォォン!!
「何!?」
「視界が……」
いきなり目の前にへし折られた木が突然飛んできて周りの土を舞い上がらせた。それによって一時的に視界が悪くなる。
【危機察知】が発動する。
「後ろか!」
ユカリの手を掴んで飛んできた木を飛び越える。するとほんの数秒前にいた場所に再び飛んできた木が着弾した。
移動するのがほんの少しでも遅れていたら直撃していただろう。
「フェルリア、吹き飛ばして」
『了解』
フェルリアが発動した風魔法で舞い上がった土が散らされ、視界がクリアになる。
「!?あれは……」
「大きいね」
クリアになった視界に映ったのは周りの木よりも一回り大きい巨大なゴリラ。そしてその体には先程のユカリとの戦闘で逃げた猿のモンスターがくっついていた。
どうやら逃げたわけではなく、進化した群れのボスを呼びに行っていたようだ。
「今度は僕がやるよ」
「支援します」
僕はフェルリアを抜いて巨大なゴリラへ向け、ユカリも爪を伸ばして構えを取った。
その時だった。
頭上を一つの影が通り過ぎた。と思ったら影は巨大なゴリラの顔面に直撃して巨大なゴリラを一撃でノックアウトした。
「柔いな」
仰向けに倒れた巨大なゴリラの顔の上で一人の鬼が立っていて、殴った拳を見ながらそう呟いた。
「しーしょぉーー!!」
後ろから聞き覚えのある声がして振り向くとこちらに走り寄ってくるリンの姿があった。
「無事でよかったです!師匠!」
「うん。リンも何事もなさそうでよかったよ」
「ほぉ、お前がもう一人の鬼神の器か」
再開したリンと話していると、巨大なゴリラを一撃でノックアウトした鬼が近付いてきて僕の全身を眺めてから話しかけてきた。
「鬼神の器?」
「あぁ、そうだ。自分の称号は見たか?書いてあっただろ?っと自己紹介をする。俺はイブキ。鬼の里の長をやっている鬼だ。お前の名前を聞いてもいいか?」
「セツノ」
「セツノか。早く戻って手合わせするぞ。俺は先に戻っている」
次の瞬間、イブキの姿がかき消えた。
「……速すぎでしょ」
僕は隣を見ると自分と同じく困惑した表情を浮かべたユカリと目があった。その様子をリンは見てくすりと笑っていた。
誤字修正指摘助かりました!ありがとうございます!
ブクマと評価、よろしくおねがいします。




