31 瞳は輝きを帯びて リン
師匠の言葉を頭の中で反芻する。
(全身鋭く硬い鱗に覆われている泥鱗魚にもハルパーが効く場所がある。いったいどこなんだろう?)
泥鱗魚は私の後ろにいる師匠を警戒しているのか距離を保ったまま動こうとしない。
どうやら私は泥鱗魚の眼中にはいないようだ。
(私の方が格下で師匠の方が圧倒的に格上、だからそう思うのは当たり前のことで理解できる。しかし今戦っているのは私。その私を無視して師匠を見ているのはムカつく。……いいでしょう。いいでしょう。それなら……私しかその眼に入らないようにしましょう!)
足に先ほどよりも多く闘気を纏わせて泥の中を普段通りに動けるレベルまで強化すると、泥鱗魚に向けて走って距離を詰める。
泥鱗魚が口から吐く水属性ブレスを左右に動いて避けると、あと数歩で殴れる距離まで近づいた。
「【世界視の瞳】」
常時発動状態にしている視覚強化の出力を体内の魔素を消費して上昇させる。この状態にすると常に魔素を消費し続けて使える闘気の量が減るが同じミスをしないためにも気にしないことにする。
発動と同時に自分の金色の両目が僅かに赤色の光を帯びる。
強化された視覚で泥鱗魚の体をじっくりと観察する。そして筋肉やちょっとした予備動作から次の行動を予測する。
「尻尾!」
直後、泥鱗魚は体を一回転させて勢いよく尻尾を振った。私は姿勢を低くして尻尾回転をくぐり抜けると、泥鱗魚の足の間を通ってすれ違いざまに人でいう膝の裏をハルパーで斬りつけた。
「やった!斬れた!」
鋭く硬い鱗という鎧を全身に纏っていても、体を動かす関係上鎧がない部分がある。それが今斬った膝の裏だった。
(人間のような足をしていたからわかりやすかったな)
泥鱗魚は足を斬られて陸上で行動するのに体を支えられなくなり、胴体から泥に倒れ込んだ。すると、全身を大きく使ってジタバタし、少しずつ前へ前へと移動を始めた。
「水深の深い場所に逃げようとしてる?逃がさないよ!」
ハルパーを頭上に掲げるように振り上げると同時に泥鱗魚を飛び越すほどの高さまで跳躍し、そこから落下の力を利用しつつ泥鱗魚の両目に思いっきりハルパーを突き刺す!
目もまた鱗という鎧がない場所。ハルパーが深く刺さる。
GAAA!!と大きな叫び声をあげて私を振り払おうとがむしゃらに頭を振り回す泥鱗魚に、私はハルパーを全力で持ってしがみつく。
すると突然泥鱗魚が暴れるのを止めた。そして頭を体の下に持っていくようにして丸くなる。
「リン離れて!」
師匠の言葉が私の耳に届き、それと同時に理解した。
(師匠が言っていた今の私じゃ返り討ちに合う強力な攻撃をしようとしているんだ!)
私はハルパーから手を離すと師匠の方に跳んだ。
師匠は私の着地点に移動しており、私を片手で優しく受け止めるともう片方の手を泥鱗魚の方へ向けて結界を張った。
その直後、無数の鋭い鱗が結界に突き刺さっていた。
「これが忠告した技だね。全方向に全身の全ての鱗を撃ち出す技。強力だけど防げればその後はただの豆腐になる。というわけで終わらせて」
「え、し、ししょおおぉぉーー!!」
師匠は技の解説をすると私を泥鱗魚に向けて投げた。
私は泥鱗魚の頭上を通り過ぎる前に泥鱗魚に刺さったままのハルパーに手を伸ばしてどうにか掴むと泥鱗魚の頭の上に戻り、ハルパーを目から抜き振り上げると、鋏のようにハルパーを交差させて首を斬り落とした。
師匠が豆腐と言っていたように鱗という鎧がなければ簡単に斬ることができた。
『レベルが上がりました。』
『【世界視の瞳】のスキルレベルがLV1からLV2になりました。』
『複数のスキルのレベルが上昇しました。』
『複数のスキルを獲得しました。』
「っつ!!勝ちましたーー!!師匠!やりました!」
レベルアップを知らせるアナウンスが流れて勝ったことを確信すると師匠の元へ駆け寄る。
「うん。お疲れ様。強くなったね」
「はい!」
師匠に褒められるのはとても嬉しい。この時の私はきっとだらしない笑みを浮かべていた。
「無事倒せたことだし早速武器と防具の素材を解体して集めようか。今回は僕が解体するからリンは飛び散った鱗を集めてきて」
「わかりました!」
私は師匠に言われた通りに飛び散った鱗を回収しに付近を走り回った。
しばらくすると師匠から素材が全て集まったから戻って来てというチャットが届いた。すぐに戻ると泥鱗魚は綺麗に解体されていて、素材を師匠から受け取った。
「今日中に武器と防具の作成依頼をするところまでいきたいけど……どうにかいけそうかな?」
「作成依頼を出すということは生産系のプレイヤーに作ってもらうんですか?」
「そうだよ。僕の今の防具を作ってくれた人に依頼しようかなって考えてる。その人はトレントの村にいるからこれからまた移動するけど大丈夫?」
「大丈夫です!行きましょう!」
「じゃあ行くよ。はぐれないようにちゃんとついて来てね」
「はい!」
――――――
トレントの村
――――――
「ここが依頼する人のお店ですか」
「そうだよ。ほら入ろう」
師匠がログアウトする時間が近づいて来ていて急ぐ必要があり、森の中の最短ルートを突っ切るという湿地帯に来た時と同じ方法でトレントの村に向かい、道中でパルクールの技術が磨かれながら時間までに依頼するプレイヤーが経営しているお店に来ることができた。
お店に入るとさまざまな武器と防具が値札とともに並べてあり興味を惹かれた。
「リリー。チャットで話した武器と防具を依頼したい弟子を連れてきたよ。名前はリン」
「……あ、えっとリンです!よろしくお願いします!」
「……その子がね。わかった。私はリリー。あなたの武器と防具を作らせてもらう」
「それじゃあ、あとは頼むねリリー」
「うん。任せて。これからもご贔屓にしてね」
「え、師匠どこ行くんですか?」
店を出て行こうとする師匠を呼び止める。
「もうログアウトする時間だからこの村にある宿にだよ。ここまできたら僕はもうすることないからね。じゃ、また明日」
「は、はい。また明日」
師匠と別れるとリリーとの話に戻る。
「要望とかある?こんな見た目がいいとか。こういう機能が欲しいとか。ある程度までは応えられるよ」
「要望に答えてくれるんですか!?それならいくつかあるので聞いてください!」
その後、私は叶えて欲しい要望を実現できそうかリリーと真剣に話し合い、最終的に取引は成立した。
素材を提出すると完成した姿を想像してワクワクしながら店を出て師匠が言っていた宿に向かい、そしてログアウトした。
自分しか目に写らないようにすると言っているのにその目を潰すリンさんやべぇ。
ブクマと評価、よろしくおねがいします。




