2 あなたたちは実験台です。
正面に広がる石造りの街並み。自分と同じようにキャラクターメイキングを終わらせたプレイヤーが転移してきては何人かに一人が歓声をあげる。
自分を含め数多のプレイヤーが降り立った最初の地はスタヴィルという名前の街。多くの魔族のNPCが住んでいてRFO内にある魔の陣営の街では三番目に大きい街と運営のPVで紹介されていた。
「さて、思いっきり楽しもう!」
僕はゆっくりと歩き出した。
◇◇◇
「まずはチュートリアルNPCを探さないとね」
ミニマップを頼りにスタヴィルを探索しながらチュートリアルNPCと呼ばれる存在を探す。一応RFOをやる前にもいくつかのVRMMORPGをプレイしてきているためチュートリアルをしなくても何をすればいいかはなんとなくわかるが、やはり今まで遊んできたゲームと違うシステムを理解したり、この世界の設定を知ったりするのにはチュートリアルを受けるのが一番だ。
「お?もしかしてあの人かな?」
転移してきた場所付近を探索していると大きな噴水がある広場にたどり着き、そこで自分と同じような初期装備に身を包んでいるプレイヤーに囲まれている一人のNPCがいた。十中八九あれがチュートリアルNPCだろう。見た目は四十代くらいのおじさんですね。
あ、ちょうど話していたプレイヤーがどこかに行った。早速話しかけてみよう。
「すいません」
「おや?あぁ君も世界の旅人かな。というと何か知りたいことがあるのかい?」
「あ、はい。そうです」
世界の旅人とはNPCからしたプレイヤーのことだ。この世界の住人からすると僕たちはこの世界の神様が他の世界から呼んだ旅人ということになっている、と運営が公式サイトに書いてあった。世界を旅する人。だから世界の旅人と呼ばれているのだろう。シンプルで良いと思った。
「それで何が聞きたいんだい?」
「主にこの世界のことを聞きたいですね。どんなことでも構いません」
「そうか。それなら少し長くなるがいいか?」
「もちろんです」
「じゃあそうだな。やはり話すなら最初はこの世界の神様のことからだろうな。この世界の神様は聖の陣営と魔の陣営の二つに分かれて争っているんだ。そして我々に加護を与えてくださり常に見守ってくださっているのが魔神ダリネア様を筆頭とした魔の陣営に属している神様たちなんだ。ここまで大丈夫か?」
「はい。大丈夫です」
「そうか。それなら続きを話すぞ。我々を常に守り助け導いてくれる魔神ダリネア様とこの世界の遥か昔の神話の時代から常に争い続けている神がいるんだ。それが聖神アリミラだ。魔神ダリネア様と聖神アリミラはこの世界でさまざまなものを司る神を巻き込んで魔と聖の二つの陣営を作り出すと神話の時代から今まで争い続けているんだ。そして、我々も魔の陣営の一員として聖の陣営に含まれる人間やエルフと言った一部の種族と太古の時代から争い続けているんだ」
「なるほど。長い説明ありがとうございました」
「おう。他に聞きたいことはあるか?」
「そうですねぇ、今は大丈夫です。聞きたいことができたらまた来ます」
「そうか。俺が教えられることならなんでも教えてやるからよ。いつでも聞きに来ていいぞ」
「はい。そうさせていただきます。情報ありがとうございました」
「情報は入手するだけじゃなくてちゃんと役立てないといけないからな。頑張れな、世界の旅人」
「はい。本当にありがとうございました」
チュートリアルNPCにお礼を告げて歩き出す。とりあえずレベル上げをしたいのでモンスターがいる街の外に出るためにも門の方に向かって歩く。
「暗殺者スタイルがどこまでモンスターにも通用するか検証してみないといけないしね」
門までの道中で最初の所持金を使い、回復用のポーション5本と投げナイフ5本を購入してから街の外へ繰り出していった。
◇◇◇
「僕はモンスターを討伐しに来たはずなんだけど……」
街の外は見晴らしの良い草原のようなフィールドだったが、いくら見渡してもモンスターの姿はない。それどころか動物の姿もない。唯一確認できるのは初期装備を身に纏ったプレイヤーくらいかな。そんなプレイヤーも不満を口にしながら街へ戻って行って、やがて僕だけになった。
「ここにいても実りはないし少し探索してから街に戻るか」
僕は草原の奥の方へ足を進める。途中で何かに使えそうな植物を見つけたら【鑑定】を使って確認した後、採取しておく。
「ん?戦闘音?」
だんだん木の密度が大きくなり森のようになってきたため、そろそろ戻ろうかなと考えた時、右の方の森になっているところから剣と剣がぶつかるような金属音がした。人の声も僅かに聴こえてくる。
「考えられる可能性としては仲間割れか複数のパーティーによるトラブルとかかな。まぁ、少し気になるし様子を見に行ってみるか」
僕は【隠密】を発動させて、音を頼りに戦闘が行われている場所へと向かう。
音へ近づいていくにつれて金属音が少なくなって人の声がよく聴こえてくるようになった。
「お、いたいた。それにしてもこれはどういう状況なんだろう」
木の影に隠れて様子を伺う。
四人のプレイヤーを取り囲む十二人のプレイヤー。四人のプレイヤーは装備がボロボロで至る所から血を流している。一方で十二人のプレイヤーの方は怪我が少ない。数が多いし上手く連携しながら戦ったのだろう。
「ただの仲間割れだったらそのまま帰ったんだけど、これじゃあ帰れないね」
僕は短刀を抜いて、十二人のプレイヤーの中で一番強そうでリーダーであろう人に狙いを定める。
「どうしてこんなところに聖の陣営のプレイヤーがいるんだ?」
聖の陣営の最初の街と魔の陣営の最初の街スタヴィルには結構な距離がある。それこそ昨日のサービス開始からスタヴィルに向かっても今ここにいるのは不可能なほどの距離が。
「でも今はそんなことどうでもいいか。敵なら殺すだけ」
モンスターがいなくてレベルを上げられなかったが、こいつらを殺してレベルを上げれば問題ない。
「僕のプレイスタイルの実験台になってもらおう」
僕は聖の陣営のプレイヤーの後ろに生えている木の影まで【隠密】を利用してバレずに移動すると、飛び出してリーダー格のプレイヤーの心臓に短刀を突き刺す。刺したらすぐに抜いて今度は首に向けて短刀を振り首を刎ねた。このゲームはリアルを追求しているので急所を攻撃すると即死することがある。今のは心臓を刺した時点で殺せていたけど、念の為一応首を刎ねた。心臓をやられても十秒は生きられるとどこかで聞いたことがあったので本当に念のためです。わざわざオーバーキルをしたわけではない。マナー的にもあまり良くないし
「「「「!?!?!?」」」」
その場にいた僕以外のプレイヤーの顔が驚愕に染まった。僕はそんなことを気にせずに呆然として動かない他の聖の陣営のプレイヤーの心臓に短刀を突き刺すもしくは首を刎ねていく。
リーダー格のプレイヤーの近くにいた二人を殺したところでようやく他の聖の陣営のプレイヤーは動き始めた。
「う、うわああぁぁぁ!」
叫び声をあげて左の方から斬りかかってくるプレイヤーを視認すると、剣を振り下ろされるよりも早く距離を詰めて心臓に短刀を差し込みました。そして短刀を抜くのと同時に後ろへ振るい、斬りかかってきていたプレイヤーの剣を弾く。勢いよく振ったのと、鬼人族の人間より高い基礎ステータスのおかげで弾くことができた。
「【闘気変換】【闘気纏】」
【闘気変換】と【闘気纏】は鬼人族が最初から使うことができる種族専用スキルで、【闘気変換】で体内の魔素という物質を闘気というものに変化させ、【闘気纏】で変換した闘気を手や足に纏わせて身体能力を強化して戦うスキルだ。
「行くよ」
剣を弾かれてバランスを崩し、尻餅を付いているプレイヤー
の胸部を闘気を纏った右足で踏みつける。バキバキバキという嫌な音がして骨が折れたのがわかった。踏みつけられたプレイヤーはあまりの痛さからか気絶した。
「ばいばい」
気絶したプレイヤーの喉に短刀を突き刺す。
「くそっ、仲間をよくも!」
「戦う時は冷静でいないと簡単に死んじゃうよ」
剣をがむしゃらに振り回すプレイヤーが背後から近づいてくる。僕は振り返って相手を確認すると、短刀で剣を全て弾き、隙ができたところで首を左手で掴んだ。そして左手に闘気をまとわせ、そのまま首の骨をへし折る。
「お、簡単に折れた!闘気で結構強化されるんだね」
さすが種族専用スキルといったところかな。強力だし戦闘以外にも使えそうなスキルだ。
「ん?」
闘気の応用について考えていると、残ったプレイヤーから畏怖の視線が向けられていることに気づいた。
「僕はいいけどまだ戦う?」
「と、投降します。」
残ったプレイヤーのうちの誰かがそう言って武器を捨てた。それにつられて他のプレイヤーも武器を捨てた。
「じゃあちゃんと質問に答えてね。そしたら痛いことはしないから」
「は、はい」
「いい返事だね」
そうして僕は聖の陣営のプレイヤーに質問をし始めた。
長くなってしまったので、中途半端かもしれないですが一旦ここで切ります。続きは書き終われば明日出ます。
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