プロローグ
よろしくお願いします。
「お届け物です」
「今行きます」
ドアを開けていつも配達をしてくれるお兄さんから中くらいのダンボールを受け取った。
「お疲れ様でした」
配達のお兄さんに挨拶をしてからリビングに戻り、ワクワクしながらガムテープを剥がしてダンボールの中身を取り出す。
「やっと届いた!RFO!」
Realistic Fantasy Online、通称RFO。「リアルでファンタジーな世界で戦え」というキャッチフレーズと共に発表されたVRMMORPGで、現実と遜色ないほどにリアルであり、最近のVRMMORPGに必ずある、血や傷口をポリゴンで表す描写設定の機能がなく、断面図や臓物が普通に見えるというぶっ飛んだ設定でしばらく話題になった制作運営がちょっとおかしい新作のVRゲームだ。
痛覚も現実と同じ痛みを再現することに成功したようで、現実と全く同じ痛みがプレイヤーを襲うとのこと。更にRFOは聖と魔の二つの陣営に分かれて戦い合う大規模なPv Pのゲームと運営が公表し、今までやってきたゲームの中で一番スリルが感じられそうと一部のプレイヤーがネットで騒ぎまくっていた。
今までのVRMMORPGとは一線をこすぶっ飛んだ設定から、明らかにやばいのに一度やってみたいという人が続出し、現在結構な人気を誇っているらしい。
「みんな刺激に飢えているんだね。まぁ他人から見れば僕も同じように見えると思うけどね」
自嘲気味に笑ってそう言った僕……灰空雪は刺激に飢えているからという理由でこのゲームを始めようと思ったわけでは決してない。制御することができなくなった憎悪や怒りといった感情の捌け口として放出するためにこのゲームを始めようと思ったのだ。
◇
こうなってしまったのは元を辿れば小学一年生の頃にまで遡るのだろう。あの日までは僕は普通だったと思う。両親が死んだあの日までは。
あの日は家族で出かけていた日だった。車内でどこへ行こうか、何を買おうか、そんなことを話していたと思う。信号が青に変わり走り出した僕たちの乗る車に、信号を無視し六十キロを余裕で超えていた速さで交差点に入ってきたトラックがぶつかった。トラックはぶつかったあとも走り続け、近くの建物に突っ込んだ。僕たちの車は建物とトラックに挟まれて両親は即死だった。僕は少し空いていた空間にいて奇跡的に助かった。まぁ見つかった時は危なかったらしいけど。
数日間病院のベッドで寝続け、起きてから僕に話を聴きに来た警察官に両親とトラックの運転手が死んだことを聞いた。これからどうやって生きていけばいいのだろうかと考えた。両親が生きていればいつかは元通りの日々をおくれたかもしれない。トラックの運転手が生きていれば両親を奪ったことに対する憎悪や怒りをぶつけて生きていけたかもしれない。だけど生き残ったのは僕だけだった。だからそれが出来ない。日々募っていく怒りや憎悪で狂いそうになった。
そんな僕を変えたのは桜という少女だった。
退院時、僕は母の方の親戚に引き取られた。僕を引き取った親戚には僕より一歳上の女の子がいた。それが桜だった。桜は引き取られてからずっと部屋に籠もりがちだった僕にずっと一緒にいてくれて、僕は桜と一緒にいる間に怒りや憎悪という感情を忘れていき、狂いかけていた僕は正常に戻っていった。
だけど僕は再び怒りと憎悪を抱えることになった。その日も家族で出かけていた日だった。目的地から少し離れた駐車場に車を止め、先を歩く義父と義母に桜の隣に並んでついていった。僕は十四歳になっても桜と常に一緒にいた。桜も僕と一緒にいてくれた。これからもずっと一緒にいたいと思っていたし、桜と一緒にいる時間がずっと続けばいいと思っていた。だけどそんな願いは一生叶わなくなった。
前から歩いて来た人が突然刃物を取り出すと義父と義母を刺し殺し、呆然とその光景を眺めていた僕に刃物を向け走って来た。そして刃物が僕の体を捉える直前、僕を庇うように前に出た桜が身代わりとして刺された。その瞬間はやけに時間の流れがゆっくりだった気がした。
犯人は桜を刺した後、倒れる桜の体を下から抱えた僕に刃物を振り下ろそうとした。だが、ちょうどこの辺りを歩いて巡回していた警察官二人が駆け付けて来たことにより犯人は逃亡し、僕は命拾いをした。
その後のことは記憶が曖昧だが、確か誰かが呼んだであろう救急車が来て病院に運ばれた。だけど、結局間に合わず義父、義母、桜は死んだ。そして犯人は警察官に取り押さえられそうになる直前に刃物で自分の首を刺して自殺したらしい。
家族が死んだことと犯人が自殺したことを聞かされた僕は、過去に両親が死んだ時と同じ感情が湧き上がってきて、自分が壊れてしまいそうなほどの怒りと憎悪を再び感じ、そして今度は狂ってしまった。
◇
その結果、時間の日から二年が経った今でも当時と変わらないほどの怒りと憎悪が僕の中で渦巻いている。人間はずっと強い感情を保っていられない。必ず時間と共に弱くなっていく。そのはずなのにずっと強い感情が僕の中に渦巻いているのは狂ってしまったからなのだろう。
そして、怒りや憎悪といった感情が再び僕に芽生えた日からずっと僕は自分の中に怒りや憎悪という感情を抑え込んでいた。これが少しでも外に漏れてしまうと、僕が感情のままに暴れ狂って人を殺してしまう気がしたからだ。まぁ、ある時実際に漏れちゃって殺しかけたことがあるが。
そして最近感情を抑え込むのが難しくなってきた。少しでも気を抜くと感情が漏れてしまって、その感情のままに暴れ狂ってしまう気がする。
そのため、それをどうにかするためにRFOを始めることにした。漏れそうになる怒りや憎悪をRFOの世界で放出すればいいのではと考えたからだ。RFOの世界ではNPCだろうがプレイヤーだろうが人を殺しても何の問題にもならない。むしろ運営が互いに殺し合うのを推奨しているところまである。
「じゃあ早速始めよ!」
昔に義父と義母に買ってもらった桜と色違いのVR機器にRFOのカセット差し込んでインストールを始める。インストールをしている間に自分の部屋にまで移動してコンセントとVR機器にいろいろなコードを繋いでベッドに寝転がる。そして、目の部分だけを隠す輪っかの形をしているVR機器を装着してRFOを起動した。
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