表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/7

束の間の安息

 自動車部部長との決闘の直後、残念異世界アシハラに行って帰って来た俺達は、当然の事とはいえ理事長の呼び出しを食らい、事情説明をする羽目に陥った。

 だいたいお分かりだと思うが、これは事情説明という名目で行われる、実質的な叱責である。当然だろう、衆人環視の中、生徒が忽然と謎の失踪をしてしまったのだから。それもその生徒というのが、学園名物の優等生の皮を被った(羊の皮を被った)問題児()達であり、ロクでもないマッチポンプを疑われるのは当然と言えよう。ましてや理事長は主犯の実の祖父ときている、言い逃れなど出来る筈も無いのは火を見るより明らかである。そんな訳で、ほとぼりが冷めるまで、彼女達はおとなしく生徒会活動に勤しんでいた。恐らくはまた何か良からぬ事を企んでいるのだろうが、表面上とはいえ平穏無事なのは何にせよ良いことである。おかげで俺は今、目前に控えた学校行事、クラス対抗校内球技大会に向けての練習試合に参加して、久方ぶりの解放感を満喫していた。


 今回の球技大会、俺が参加しているのはサッカーで、ポジションはゴールキーパーだ。


 鋭く蹴り込まれたシュートに反応してボールをキャッチして、俺はピッチを見回した。そしてボールをピッチに蹴り入れる。


「行くぞ!」

「おーう! 任しとけ!」


 俺が蹴ったボールは、巴弁慶(ともえべんけい)へと飛んで行った。彼は柔道部に所属する、無差別級のホープなのだ。その安定した足腰と無尽蔵のスタミナを買われ、球技大会でのポジションはリベロを任されている。その期待に違わず、彼は数名の相手チームのプレイヤーをなぎ倒す勢いでドリブルで上がって行くと、雄叫びを上げて中段にパスを上げた。


「うおおおおお! 颯斗ォ~!!」


 パスを受け取ったのはアメフト部の司令塔、クォーターバックの人颯斗(じんはやと)である。こいつは足の速さと視界の広さ、そして戦術眼の鋭さから攻撃的ミッドフィールダーを務めていた。


「人! アメフトと間違えて、手で受けるなよ!!」

「フッ、俺がそんな事するかよ」


 弁慶の冗談めかした軽口に、颯斗はクールな笑みを浮かべて応じると、胸でワントラップしてボールを落とし、鮮やかなドリブルでピッチを駆けて、相手クラスのディフェンダーを引き付けた。


「行くぞ! 涼馬(りょうま)!!」


 颯斗がパスを出した先には、マークが外れてフリーになった野球部所属の永礼涼馬(ながれりょうま)がいた。こいつは入学当初からエースで四番を務めるスラッガーで、抜群の勝負強さを買われてセンターフォワードを任されている。


「ナイスパス!」


 涼馬はパスされたボールを、ノールックでボレーシュートを放つ。すると相手クラスのキーパーは一歩も動けず、ボールは鋭くゴールを揺らした。


「うぉおおおお! やったぜ! 涼馬!!」


 弁慶が喜びの咆哮を上げて涼馬に駆け寄り、肩車に担ぎ上げてゴールを称える。


「いや、颯斗のパスのおかげさ」

「フッ、よせやい、照れるじゃねえか」


 弁慶に肩の上から下ろされた涼馬が、爽やかな笑顔でそう言って右手を差し出す、すると颯斗はニヒルな笑みを浮かべ、涼馬の右手を握った。


 握手をする涼馬と颯斗、そして二人の肩に手を添える弁慶、なんて爽やかな光景だろう。青春だなぁ、俺が求めていた学園生活がそこに有る。


「でもよ、この涼馬のゴールの殊勲者は、もう一人居るのを忘れちゃいねえか?」

「ああ、あのファインセーブが無かったら」

「このゴールは無かったな」


 弁慶の言葉に、涼馬と颯斗が頷き、三人が俺にサムズアップを送ってきた。


 思い起こせば、この三人が俺の最初の決闘の相手である。原因はあの四人娘に振り回されている事を知らず、邪険に扱っている様に見えた俺に対する義憤からくる物だった。決闘前の四人娘パフォーマンスに、全てを理解してくれたこの三人は、決闘後に無理解を謝罪してくれて、今では善きクラスメート、善き友人である。


 三人の爽やかな笑顔の口元から覗く白い歯が、キラリと眩しく輝いている。これだよ、これこそが、俺の求めて止まない学園生活、青春の一ページなんだ。決して暴走四人娘に振り回される事ではない!


 そう、俺が心の中で感涙に咽び泣いているちょうどその頃、肩を怒らせ、生徒会室に向かってズンズンと歩いていく女の子がいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ