主砲より
戦艦イベリス 第一主砲塔内
「初弾、夾叉!!」
おおおお!!っと配員が沸き立つ。イベリスは完璧な初戦を迎えた。直ぐに別の伝令が紙を持ってきて固い鋼の上でつっころぶ。
「次弾『榴弾』3発!」
「なにいってんだ!?」
狙っていたのは駆逐級敵軍艦。海獣を仕留めるには榴弾では心もとない。
「伝令以上!」
伝令が帰るのと入れ替わりに真っ白な蒸気が床から吹き上がる。
「仕方ねぇ。入れるぞ」
砲手が手元の操作盤をぐるぐると回して、悲鳴をあげながら砲弾が背にした壁からせりあがり、目の前にドンと置かれる。抱えるほどに大きなその鉄の固まりは、異様なほど正確に整形されている。訓練通りに信管を回転させ漢数字を合わせる。
「数字!」
「5!」
「ご!?」
「はい!」
地上から5メートルで信管は破裂する。これは恐ろしい。
「艦長は敵鑑を火の海に変えるつもりだぞ」
皆が息を飲んだ。榴弾は通常陸上目標への攻撃が主な用途だった。それを船に使おうと言うのだ。
「装薬3!」
「おらー詰めろ!!」
身長6尺にもおよぶ大男が真っ黒な布袋を持ち上げて、砲弾の尻にくくりつける。子供が一人入ってしまえるような大きな袋だった。それを3つ。
「たまーこめ!!」
「「「だらぁ!!!」」」
筋肉が躍動する。皆で素手で砲弾を砲尾に押し込んで、黒鉄色に鈍く輝くケツのネジを閉めて上に伝える。
これで仕事は終わる。本当は、次の装填の準備をしなくてはいけない。しかし、弾が当たるのかどうか気になる。砲列は始めに目標にされる。そのため、分厚い装甲で囲われ、前が見えぬ。
であるから、緊急用の双眼鏡にとりついて、その瞬間を今か今かとまった。
ダーーン!!
言い様のない轟音と共に、視界のなか一本見えていた砲口から黒煙が吹き、火柱が上がって船が一瞬止まる。海獣の泳ぐ力は15万馬力。それが一瞬止まるのほどの威力だ。
暗い空の下。米粒のような敵戦艦にポツポツと火の手が上がった。
「命中……」
「は?」
「命中二発!!!」
榴弾にはどの艦が撃ったか分かるように色がついている。上がった色は赤。イベリスの色である。