名もなき飛行場
カルダル島。
ジャングルに囲われた南の蚤のように小さなこの島で、タファロン軍はガリン軍と初めて本格的な戦闘を交えた。戦いは8か月にも及ぶ激戦となり、この間、タファロン軍は3度もの突撃を繰り返した。既に騎士が馬に乗って声高らかに戦場を疾走する時代は終わりを迎えようとしていた時代に。
ガリン軍は合計40000人もの将兵をその一島に送り込んだ。内35000人余りが戦と恐怖のうちに亡くなった。タファロンはとんでもなく強かった。
この物語は、その島の取り合いとなる原因となった名もなき飛行場から始まる。
仰ぎ見ると頭上にはギラギラと白銀に輝く太陽があり、その下にはどこまでも澄み渡るような青空があった。雲一つない空には、すがすがしいとはとても言えないような熱風が吹いて、ビュ―ット地面へ強かに吹きつける。その風をもってしても梅雨を煮詰めたようなじめじめとしたこの暑さにはたまらない物があって、騎士も兵隊も皆上半身裸で作業帽という出たちだった。額には汗が垂れ落ちないようにとねじり鉢巻きを巻いた姿で、肩まで浅黒く日焼けをしている物だから女子にはもてない。だが心配するな、この島に女子はもうすぐいなくなる。
海軍からの電報で、南方海域に大船団が向かっているというのだった。我々陸軍はその船団が来るまでにこの島に飛行場を作るのが任務だった。すでに海の上で行われる海戦はどちらか先に見つけたほうが先手を打てるという状態で、なかでも長距離を飛行し、的の小さく、目の良い飛獣は両軍にとってなくてはならない物となっていた。しかし、飛獣は腹を空かせるし、風切り羽や鋭いくちばしの整備を必ず必要とする。そのために陸軍はカルダル島に飛行場を作っていた。
緑の森の中に一直線。ただ一本の滑走路には砕かれたサンゴがまかれ、あとは飛獣隊のための魔石集積地と万が一に備えた掩体壕の建設を進めるだけという状況だった。本日の夕方には海軍さんの海獣が来て、魔石やら食料やらを浜辺に乗り上げながら荷下ろしをする手はずとなった。白い砂浜に腹から乗り上げ荷物を下ろし、身をよじるようにして海へと帰っていく海獣の様は実に勇ましい物であるから、いくら犬猿の仲だという海軍さんでも、みんなで見に行くつもりだった。海軍さんにはわざわざ島にまでついてきて手伝ってくれた近隣諸国の国民を送り届けてもらわなくてはいけない。おそらく、飛行場ができれば制空権を取り返そうとガリン空軍も黙っていないだろうから、今日が最終便となる。そういうわけで女子がいなくなるのである。
バーンと一発二発と西の空で雷鳴の様に大きな音が木霊した。
「海軍さん張り切っとるなぁ。まだ昼だというのに」
ついで、ヒュルルルと不気味な音が頭の上からして戦友の顔がみるみる青ざめるのを見た。背中にはこの暑いというのに冷や汗をダラダラかいて寒いくらいだった。
「全員退避ー!!森に逃げろー!!!!」
せっかく耕した畑が、せっかく踏み固めた飛行場が、バケツに溜めた砂を一気にひっくり返すような勢いで吹きあがった。
敵の艦砲射撃である。
ジャングルの中の飛行場。滑走路に撒かれたサンゴの白さが際立つ