プロローグ:戦争の原因
小国タファロン共和国は、侵略の危機にさらされていた。タファロンだけではない。南方の小島を有する国々では、次々に大国の占領下におかれ、奴隷のように働かされて重い税と人種差別に苦しみ、嘆いていた。
ちょうど2年前の夏、タファロンにも国際的な圧力が水面下でかけられ始めた。ついで行われた外交交渉では、まるで人種的に背の低いタファロン人を馬鹿にするかのように、背の高く体格のいい外交官ばかりが送り込まれ、世界中にその様子が書面で伝えられた。
しかし、タファロンは占領下におかれることに対して、全く首を縦には振らなかった。どれだけの譲歩を得られようとも属国となることは、すなわち今後すべてのタファロン人が下に見られることを意味したからだった。
かつて凧と馬鹿にされた魔獣は空高く飛び、海では陸よりずっと速く海獣が駆ける世界である。小国には世界と対等に渡り合えるだけの地位を築くことが絶対だった。海獣を一頭買い入れるために3万カンの金がせしめられ、海獣が食べる魔鉱石には通常の4倍もの値段をかけられていたのだった。それをさらに上げるというのだ。
それでもタファロンは首を縦には振らなかった。
ついで魔鉱石の輸入が禁止され、一切の獣類の持ち込みが禁止された。それは事実上の世界取引権のはく奪を意味していた。
タファロン人は我慢強かった。その我慢している間に大国は気が付くべきだったのだ。
誰を怒らせているのかを。
戦いの火ぶたはタファロン人が先に切った。ガリン共和国の主要な軍港に停泊していた海獣を一日で9頭も沈めた。一方的な奇襲となった。大食らいの海獣のために積み上げた魔石を根こそぎ強奪し、自国に戻るまでどんちゃん騒ぎをやってのけ、電報で知らせを受けたタファロンでは七日八晩お祭りがおこなわれた。
さらにタファロンは自国よりさらに南方諸国に呼びかけ、魔獣の鎧となる鉄鉱石と、魔獣の食料たる魔石の供給先を求めた。しかし、たかが小国に海軍の一端を担う海獣を虐殺された共和国はそれを黙って見てはいなかった。
これは、タファロンより南南西に250海里。緑あふれる無人島における飛行場をめぐる戦いの記録である。
タファロン周辺地域地図