表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/24

9 A GO GO!


心地よい青空が広がる今日は、絶好のお出かけ日和となったせいか、想像していたよりもずっと人が多かった。

構内も、電車の中も、沢山の人で溢れている。

それでも、通学時の満員電車に比べると人は少ない。

瑞希も私も、押し潰されるような事はなく、余裕をもって自分のスペースが確保できた。


「晴れて良かったね、今日」

「うん、いい天気」

瑞希も半袖のシャツを着ている。今日は暑くなりそうだ。


「そういえば、私瑞希の携帯番号知らないな。人多そうだし、はぐれた時の為に、番号交換しといた方が良さそうじゃない?」


今気づいたのだが、私は瑞希の電話番号を知らない。

避けてたというのもあるし、隣に住んでいるから、直接話した方が早かったというのもある。


「んー」

瑞希が微妙な表情をして斜め上に目線をやる。

「オレ、持ってないんだよね、スマホ」

「え?」

「いや買ってもらったんだよ、高校入学の時にお祝いで」

「使ってないの?」

「使ってみたんだけどさ…ライン始めてみたら、みんなにアドレス交換お願いされて、軽い気持ちで教えまくってたんだ。そしたら……ピコピコピコピコピコピコピコピコ、四六時中、いろんな子からメッセ届きまくって怖くなって解約した」


ぶっ。

思わず吹き出してしまった。


「人気者は大変だね~」

「笑うけどなぁ、ほんとーーに怖かったんだぞ、あれ。返事を打つより鳴る回数の方がずっと多いし、返事をしたらしたで、そっこー返事返ってくるし、ノイローゼになるかと思った…」


電車の天井を見上げる瑞希の疲れたような表情を見て、笑いが止まらなくなってしまった。


「む、笑いすぎ」

瑞希の手が私の口にぎゅっと覆いかぶさる。

手の温もりにどきりとして、笑い声が一瞬でどこかへ消えた。

「着いたよ」

手が離れ、口元に籠もっていた熱気が解放される。ほっとしたのも束の間、今度は私の手を掴んだ。

「こうしてたらはぐれないだろ」

人混みに紛れて、私はゆらゆら、手を引かれて目的地へと向かうのだった。




     ◆ ◇ ◇ ◇




「うわーすっごい人!」


入場ゲートの隣にあるチケット販売所には、既に行列が出来ていた。

開園まであと15分。

私達も並んでチケットを買う。


沢山の人を見て…なんだかふつふつと燃えてくる私。


「瑞希、絶叫系とか平気?」

「え?こういうとこ初めてだからよく分からないよ」

「そう…ふふふ」

不気味に笑う私に(おのの)いたのか、瑞希の手が緩む。

今度は、私の方から瑞希の手を鷲掴みにした。

「行くよ、着いてきて!」


入場と同時に、弾かれるように、パーク内随一の絶叫系マシンの元へ、瑞希を引き連れて行くのだった。



遊園地は、朝一番が一日のうちで一番、空いている。

故に、一番乗りたいものの中で一番混みそうなやつを、一番最初に行く必要がある。

絶叫系は遊園地の目玉アトラクションだ。

中でも一番、強烈なやつほど、列は後半、伸びに伸びまくる。


急いでお目当てのアトラクションに着くと、列はまだ短かった。

パンフを見て、真っ先に目を付けたこのアトラクションは、傾斜角度が直角に近く、右へ左へ回転しながらパワフルに突き進む、とっても楽しそうなやつだ。


「これ乗るの?」

瑞希が不安そうにこちらを見る

「乗るの♪」

私たちは3巡目に席へと案内された。

迷わず最前列を目指す。

スタッフが、安全バーの確認をする。

「…これ、動くの?」

「動くの♪」


カタカタと機体が動き出す。

「……なんか段々、空に向かって上がっていくんだけど?」

「あとでちゃんと落ちるから、大丈夫だよ♪」

「え?え?えーーーーー?」


驚く瑞希と興奮する私を乗せて、コースターは一気に落ちて行き、そのまま回転し駆け抜けていった。


「…なんかまだ目が回ってるんだけど…」

「え、まだまだ始まったばかりだよ、次は、アレ!」


さっきのコースターとは違い、今度のアトラクションは回転がメインとなって楽しめるやつだ。

「ええと…ブランコみたいに高いところでゆらゆら揺れるのかな?」

瑞希がビクビクしながら聞いてくる。

「うん、ゆらゆら揺れて…そのまま座席がグルグル回転とかするかなっ」

ブランコも一回転、座席も一回転、ダブルで一回転するとっても楽しいやつです!


今度のアトラクションは、さっきよりも列が長い。

それでも少しずつ前へ進んでいく。

「ねえ、段々近づいてくるね…」

「当たり前じゃない、だんだん離れていく列なんて誰も並ばないよー」

あははっ。変なこと言う瑞希だなっ。


この後、テンションの上がった私は、瑞希がビギナーであるという事をすっかり忘れ、引きずり回してしまうのであった。




     ◇ ◆ ◇ ◇




真紗(ますず)、ちょっと、休憩、休憩しよ!」

瑞希がベンチに腰掛ける。私も隣に腰を下ろす。

時計を見るともう13時になっていた。いつの間に。

「ごめん、ちょっとはしゃぎすぎちゃったね」

「ううん、真紗が楽しそうにしてたから、いいよ」

ふわりとした笑顔で瑞希が言うので、なんだか申し訳なくなってしまった。

「遊園地初めてって言ってたのに、最初っから飛ばしてしまって…」

「あはは、あれはいきなりでビックリしたけど、慣れると浮遊感があって楽しいね。ただ…意外と終わった後に疲れが…」

「私全然疲れてないよ、なんでだろー」

思わず私も笑みが零れる。瑞希の方がタフそうなのに、意外で可笑しくなってくる。


周囲をざっと見まわした。


レストランは人が沢山いて、すぐには入れなさそうだ。軽食があちこちで売られているから、ここで食べる方が早い。


「瑞希はそこで待ってて、私なにかお昼買ってくるから!」

立ちあがって売店を目指そうとしたら、瑞希も慌てて一緒に立ちあがる。

「大丈夫、一緒に行くよ」

疲れている筈なのに、なぜか瑞希は、私と一緒に売店の列に並びだした。




     ◇ ◇ ◆ ◇




お昼の後は比較的穏やかな乗り物を乗った。

メリーゴーランドやコーヒーカップ、レーザーショット系や、ファンタジーの世界を眺めるやつとか、不思議ハウス系とか、色々。

正直、遊園地デビューなら、先にこういったものを回った方が良かったような気がする。


瑞希がまた疲れたようで、ベンチに座る。

もう17時を過ぎている。

夜のパレードもあるので、閉園までまだまだ時間はあるのだが、そこまで遅くは居られない。

もうすぐこの楽しい時間も終わる。


ベンチの傍にあるアトラクションに目がいく。私が一番好きなやつだ。

瑞希はだいぶ疲れているようなので、一人で向かう事にする。幸い、列は出来ていなかった。

「待ってて、一人で乗りに行くから」

空中ブランコ、丁度一人乗りのアトラクションだ。

瑞希が微笑んだ。いってらっしゃい、と、穏やかな目が語っているように見えた。


両手でチェーンをしっかり持つ。

音楽に合わせてブランコが舞いだす。くるり、くるりと回っていく。

宙に投げ出されるような感覚。

ブランコに乗っているのだけれど、このまま、空へと飛び出して浮かべそうな浮遊感。

魔法みたい。

まるで魔法にかかったヒロインみたいな気分で。

空に放たれる開放感。

くるくる踊りだす。私は自由に空を浮く。

やがてメロディーと共に動きが止まり、シンデレラになれた私の時間は終わった。


「ひゃっ」


ブランコから戻ると、冷たいものが首筋に当たった。

「飲む?」

瑞希が笑って、私にスポーツドリンクを手渡した。

「…飲む」

ひんやりとした首筋の感覚にむっとしたものの、のどが渇いていたので一気に飲んだ。


「そろそろ…時間かな」

名残惜しそうに私が呟く。

「そうだね、そろそろ帰らないと、遅くなっちゃうね」

「最後に・・遊園地の〆でも乗って、帰ろっか」

大きな観覧車を指さした。瑞希は軽く頷いた。


今度は瑞希が、観覧車まで私の手を引いていった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ