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20 不機嫌なみちる


 今日も兄の部屋には誰かがいる。

 (あらた)真紗(ますず)さんのようだ。

 全く意味が分からない。どうして、この2人?

 真紗さんだけなら、まだわかる。兄が真紗さんを誘惑している最中なんだろうと思えるから。

 なんで、新まで一緒なの?


 新といえば、この前映画館で会った時は、なんだかいつもと様子が違った。なぜか優しかったし、なぜか意地悪言わなかったし、なぜか…


『可愛いんだから』


 あんな事言い出すし…


 びっくりして心臓止まるかと思っちゃったじゃない。何か変なものでも食べたのかしら。


 兄の部屋の扉が開く。私は思わず陰に隠れる。

 新と真紗さんが廊下に出る。


 なにあの2人。

 なんだか楽しそうにお喋りしてる。

 新が照れ笑いしながら、優しげに真紗さんを見つめてる。


 なにあの笑顔。

 私、あんな顔の新とか、見たこと無いんですけど。

 私と一緒の時に、あんなに楽しそうにしてくれた事無いんですけど。


 …どうして、私が隠れないといけないのかしら‥。




     ◆ ◇ ◇ ◇




「で、この間の映画はどうだった? 新」

 華岡さんのお部屋で。


「別に、映画見てそのまま帰ってきただけだよ」

 新くんと。


「みちるさんにイジワル言わなかった? 優しくできた?」

 私の3人で。


「さあ。余計な事言わないように、なるべく黙ってたから大丈夫なんじゃねーの?」

 今日もなぜか、紅茶をお供に、仲良くお話をしていた。



 華岡さんは紅茶を淹れるのも上手い。

 本日のメニューはセパレートティー。綺麗な2層に分かれている。


「一歩、前進って感じだね! いやー良かった」

 華岡さんの顔はにっこにこだ。


「そうか? ちっとも変った気しねーけどな」

「可愛いって言えただけ、ものすごい進歩だと思うよ」

 

 うん、勇気出したなって、私も思ったな。


「…あんなこと言って、バカにされるかと思ったけど、意外と何も言わなかったな、みちる」

 ぽつりとそう呟いて、新くんは少し照れた。


「そういえば、みちる達の学園で、今度、体育祭があるんだけどね」

「うん?」

「2人とも、一緒に行かないかい?」

「え? 部外者が行ってもいいの?」

「あそこの体育祭は、お祭りみたいなものだからね。外部用の観覧スペースもあるし問題ないよ」

「体育祭なんて行ってどーすんだよ」

「そんなこと言わずに、みちるの応援しに行ってあげなよ。みちる、今年も選抜リレーの選手だよ」


 選抜リレーか…。多分、瑞希も選ばれているんだろうなあ…。


「頑張ってる所…見てみたくないかい?」


 中学の頃の体育祭を思い出す。瑞希の走る姿、見とれてしまう位カッコいいんだよねえ…。

 まあ、突っ立ってるだけでカッコ良いんだけどさっ。


「真紗はどうする?」


 新くんがこちらをちらりと見た。

 これは…少し心が揺れてるって事?


「一緒に行こうよ、新くん!」


 よーし、後押ししちゃう!

 新くんは、もっと、みちるさんとの距離を詰めないと…!


「知らない間に、瑞希とみちるさんがいい雰囲気を作っていても、いいの?」

「ぐっ……」


 唇を噛み締め、恨めしそうに私を見る。

 イベントって、普段は起こらない何かが起こったりするからね、侮れない。


 それに私も…まだ自分の気持ちが伝えられていない。


 同じ思いを抱えた新くんが一緒だと、心強いかな?

 瑞希の走る姿を見れば、勇気、出てくるかな…?


 パワーを貰いたいの。

 後少しだけ。


「私、行きたいけど、1人だと心細いし…。お願い、ついて来てよっ!」

「…えー、…しょーがねえなぁ…」


 新くんは、頭をぽりぽり掻いて、照れくさそうに了承してくれた。


 やった、押し切った…!


「そうと決まれば、早速準備をしに行こう!」

「はあ? 準備?」

「応援に行く日の為の、お洋服見に行こう!」

「えー?」

「折角この前、診断して貰ったんだしさ、気合いれようよー!」

「なんだよそのやる気…」

「いいじゃない、新くんも、カッコよくなってみちるさんの前に現れたいでしょ?」


 新くんに笑いかけた。私の笑顔に、仏頂面の新くんもゆるい表情になる。


「2人ともやる気のようだね、頑張っておいで」

 華岡さんが満足そうに微笑んでくれた。


 部屋を出て階段を降りる。


「ところでさ、別に一緒に買いに行く必要、ねーんじゃね?」

「何言ってんのよ、似合ってるかどうか、お互い確認しあわないと!」

「おっま、変なとこ積極的だな~」

「私は、新くんに可愛いと言わせたら合格。新くんは、私にカッコいいと言わせたら合格だよ」

「それ、ハードル高くね?」

「がんばろー♪」


 戦友と書いて「とも」と呼ぶ。

 いつの間にか、私はすっかり、新くんと仲良くなってしまっていた。




     ◇ ◆ ◇ ◇




 コンコンコン

 みちるが諒の部屋をノックする。


「なんだい、みちる」


 諒がくすりと笑い、みちるの方へと向かう。


「最近、へんな組み合わせで居ることが多いのね。新と真紗さんが一緒に出て行ったけれど」

「気になる?」

「別にっ」

「あの2人、これから、一緒にお出掛けするらしいよ、仲良いよね」

「ふーん」

「僕、頑張ってみたけれど、新に負けちゃったかなあ」

「お兄ちゃんの方が、ずっと素敵だから、負けることはないと思うわ」

「まあ新でもいいんだけどね、真紗ちゃんを瑞希君から離す役目は。そうだろ、みちる」

「新じゃ無理じゃない…?」

「無理って事はないと思うよ。2人とも年近いしね、一緒に居るの、楽しそうだよ」

「……そうね、さっきちらりと見えたけど、新、なんだか楽しそうにしてたわね」


 ぷぅーとみちるが頬を膨らませる。


「みちる、これから僕らも一緒にお出掛けしないかい?」

「え?」

「みちるの服を、久し振りに見繕ってあげたくなったな」

「――え?」

「瑞希君に見せたくなるような可愛い服、欲しい?」

「…欲しい…」

「それじゃ決まりだね、行こうか」


 2人もまた、真紗たちに続けて屋敷を出た。




     ◇ ◇ ◆ ◇




「ねえ、お兄ちゃん?」

「何だい?」

「ねえ、気のせい?」

「気のせいじゃないかな?」

「いいえ、気のせいじゃないわ、あそこにいるの、新達よ!?」


 私は兄と買い物に出かけている。

 兄はセンスがいいので、大抵、私に似合う素敵なものを選んでくれる。

 それはまあ、いいのだけれど、問題は…


 …新と真紗さんがいるし…


 なぜか私は、こそこそ隠れながら洋服を見ている。2人は私に気が付いていないようだ。

 どうして、私がこそこそしないといけないのよ。


 ちらりと2人を見ると、本当に楽しそうだ。


 なに、真紗さん。先輩はどーなってんのよ。

 先輩の方がずっと素敵じゃない。どーして新なんかと一緒に出掛けてんのよ。

 そして新、なにさっきから真紗さんが試着した服、真剣に見てるのよ。

 私が今までお兄ちゃんに見繕って貰った、どんな素敵なお洋服だって、まともに見てくれなかったじゃない。馬子にも衣裳としか言った事なかったじゃない。

 どーして、、、


「お、それかわいーじゃん」

「ほんと、合格?」

「合格、合格!」


 可愛いなんて言っちゃってんのよ………。


 あんた、そんなこと言うキャラだっけ?

 そう言えばこないだ私にも言ってたわね。


『可愛いんだから』


 そうよ、私は可愛いもの。

 でもどうして…


「真紗さんにまで言ってんのよ……」


 お兄ちゃんは、こんな私を楽しそうに眺めている。

 どーしてそんなに楽しそうなのよ。



 頬を膨らませた私は、どのお洋服を合わせても、全く可愛く見えることはなかった。





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