表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/24

18 決意


 今朝もすんなり目が覚めた。


 朝練へ向かう真琴と顔を合わせた朝は、これが初めてかもしれない。

 今朝も鏡に向かい、丁寧に身支度をする。

 普段よりもずっと早く家を出て、今日は、隣の家から瑞希が出てくるのを待つ。


 自分の気持ちに向き合いたくて。


 昨日の事を思い出すと、なんだか気まずいのだけれど、でも私は、今朝は瑞希の隣で歩いてみようと思った。

 

「おはよう、瑞希」


 柔らかい笑顔で挨拶をしてみる。

 こんな朝は一体、何年ぶりだろうか。


「…おはよう、真紗(ますず)


 ぽかんとした顔で瑞希が私に挨拶をする。

 すぐにいつもの、ふわりとした笑顔を見せてくれる。


 私の、大好きな笑顔。


「あのさ、私、明日から毎日、1本早い電車に乗るね」

「……」

「瑞希には、ちょっと早すぎるかもね、時間」

「いつも部屋でゆっくりしてから家出てるし、1本早くても余裕だよ」

「それじゃあ瑞希も、同じ時間に家、出る?」


 私達は駅へと向かう。

 大通りを抜ける。私は地面を見ずに、瑞希の顔を見てお喋りをする。

 こそこそとした声が聞こえてきた。じろじろとした目線も感じる。

 私は頑張って前を見て歩く。


 正直まだ自信なんてないのだけれど。

 昨日込み上げてきた可笑しい気持ちが、私をなんだか強くさせてくれるような気がした。


 スマホを取り出してラインを送る。

 私はもっと強くなりたい。



“華岡さん、私と会って貰えませんか?”


 翌日、私のスマホはピカピカと光り輝いた。




     ◆ ◇ ◇ ◇




 目に前には重々しい空気の豪邸が(そび)え立っている。

「真紗ちゃん、こっちだよ」

 私が正面の門だと思っていたものは、どうやら裏口のようだった。


 なにこれどうなってんの………


 華岡さんに案内されて連れられた玄関は、さっき私が見たものより数段、豪華な作りをしていた。

 異世界へと迷い込んだような気分で足を運ぶ。


 数日前、会いたいというと、さっくりとOKしてくれた。

 お話したい事がある、というと、自宅(うち)へおいで、とお誘いを受けた。


 これ、瑞希が知ったら、また怒るかな?

 危ないよって言うかな?


 でもきっと大丈夫。

 この人は私の味方なんじゃないかな、って、不思議な安心感がある。

 まあ、カンだけど。


 この前の星空の時の態度もそうだけれど、私は最初から、華岡さんが悪い人ではないと、私の味方なんだとなぜか思えていた。

 まあ、これもカンだけど。


 大丈夫、女のカンはきっと当たるんだ………!!


 なぜか謎の自信を持って、私は華岡さんの部屋へと案内されていった。



「で、話ってなんだい?」

 テーブルの上に湯気の立った紅茶が置かれている。

 何やら香ばしい香りがするけれど、私には勿論、名前は分からない。


 でも大丈夫。分からなくても大丈夫。


 それよりもですね。

 ちらりと斜め前を見る。


「この方は………どなたで?」


 華岡さんの部屋の中には、私たち2人の他にもう1人、中学生位の男の子が座っていた。




     ◇ ◆ ◇ ◇




「ああ、紹介が遅れたね。こいつは(あらた)。中条新、真紗ちゃんより一つ年下の高校1年生だよ」

「新、この子が真紗ちゃん。瑞希君の彼女予定の子だよ」


 戸惑いを隠しきれない私を他所に、華岡さんは相変わらずの笑顔を浮かべ、紅茶に口を付ける。


 新くんは、スポーツでもしているのか、短髪で日に焼けた肌をしている。

 軽く膨らませた頬といい、拗ねたような目線といい、全体的に表情が幼く年よりずっと下に見える。華岡さんと並ぶと余計に子どもっぽく見えた。


 私はふと思い出した。


「初めまして、あの、もしかして…この前、駅のホームでみちるさんを見ていませんでしたか…?」


 学校帰りに華岡さんに連れられ、喫茶店と雑貨屋を巡ったあの日、ホームでみちるさんをチラチラ見つめていた一人の男の子の姿と、目の前の新くんの姿が、なんだか重なって見えた。


「真紗ちゃんに気付かれてるよ、新。みちるは気づいていないようだけどね」

「うっさいな………!!」


 なんだか可愛い男の子だな。

 顔を真っ赤にして華岡さんに噛みつく姿を見て、思わずくすくすと笑ってしまった。ごめんなさい。


「やっぱり、真紗ちゃんの話の前に、こちらが先に話すことにするよ」


 私と同様、くすくすと笑いながら華岡さんが続ける。


「こいつね、みちるが好きなんだよ」

「いきなりそれ言うかっ」

「ところが最近、みちるに好きな人が出来てしまってね。瑞希君」


 再び華岡さんが紅茶に口を付ける。


「振られておしまいと思っていたら、遊園地で出会ったあの日、想いが再燃してしまったらしくって」


 新くんが目を伏せている。


「そこで、真紗ちゃんに頑張って貰おうと思ったんだ」


 え?


「真紗ちゃんが瑞希君とくっついてくれたら、新的にはめでたしめでたしだからね」

「あのそれ………妹のみちるさんの味方はしないんでしょーか………」

「してるよ? みちるには新の方が向いてるんじゃないかなって思ってるよ?」


 ええと……てことは………


「私に、その……可愛いって言ってくれたのは………」

「そりゃ思ったまんまだよ?」

「応援を口実にしてるだけだよな、諒兄は」


 ふんっという顔をして新くんが突っ込んだ。


「真紗ちゃんにもっと可愛くなって貰って、瑞希君と付き合うようになってくれたら、めでたしめでたし…と思っていたんだけど、余計な事する必要なさそうだったね。君達2人、何もしなくても両思いなんだから」


 私の笑いが止まった。 


「次………私のお話良いですか………」

「ああごめん、どうぞ」


 私はざっくりと、今までの経緯をお話した。




     ◇ ◇ ◆ ◇




「はあっ? なにそれおまっ、もう告っちゃえばおしまいの状況じゃねーかよ、何悩むことあるんだよ、馬鹿だろ」


 新くんに思い切り罵倒されてしまった。

 ううう、その通りと言えばその通りなんだけど…


「あのでもですね、これ、私も好きとか言うと、付き合うとかそういう話になっちゃいますよね」

「普通はそうだろうね。てか、そうなりたいから言うんだよね」

「ですよねえ………」


 やっと、朝、駅まで一緒に歩く勇気が出たばかりなんです。

 相変わらず周りの目線は痛くて、顔を上げるだけで精一杯なんです……。


「彼女とか、そんなものまだ無理だ…そこまでの自信ないよ…」

「なっさけねー事言ってんじゃねーよ、腹括れよ」


 新くんの言葉が心に刺さる。ヘタレですみません…。


「とっとと言ったらおしまいだろ、さっさと言えよ」

「新も人の事全く言えないんだよ、みちるに可愛いって言えたのかい?」

「………っ」


「それにですね、中途半端な返事をしてしまった事だし、もう呆れて私を諦めて、他の子を見始めていてもおかしくない訳で……」


 そうだ。


 私は非常に半端な返事をしてしまっている。

 自分の気持ちが分からない。

 そんなの、言われた瑞希だって分からないよね…。

 もう、気持ちがみちるさんに向かい始めているかも知れない。


「でも、どうにかしたいんだよね」

華岡さんが優しげに微笑んだ。

「だから、僕に会いたがってくれたんだよね」

私は縋るように華岡さんを見つめた。


「こうなったら、徹底的に頑張るしかないよね、真紗ちゃん。新もだよ」


 華岡さんが手を差し出した。私と新くんの2人が恐る恐るその手を取ると、温かく大きな手はしっかりと握り返してくれた。


「明後日、また会おうか。連れて行きたい所があるんだ」



 甘い眼差しは、この上なく優しく私達を包み込んでくれた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ