16 幼なじみと幼なじみ
倉瀬先輩と幼なじみ。
溜息が出ちゃう。真紗さんが羨ましい。
幼なじみ。
私にもいるけれど、先輩と、交換できたらいいのに。
2階の自室へ向かうと、兄の部屋から笑い声が聞こえてきた。
我が幼なじみは兄ととても仲がいい。まるで本当の兄弟のようだ。
兄には敬意を払っているのか、大人しいのだけれど、私には非常に残念な態度を取る。
階段を上がり終える前に、兄の部屋の扉が開いた。
新だ。
お手洗いにでも行くつもりなのか、非常に嫌なタイミングで鉢合わせをしてしまった。
つい、憮然とした表情で新を見てしまう。
「なんだ、みちるか。今日もむくれた顔してんな」
馬鹿にしたような顔で相変わらず私に酷い事を言う。いつもこの調子だ。
こいつに褒められたことって、全くない。
これでも、結構もてるんですけど。美少女とかよく、言われるんですけど。
ムカムカして余計に、ぶすっとした顔になってしまう。
「あんたに言われたくない」
思いきり顔を背けて、部屋の扉を勢いよく閉める。
ああほんと、私の幼なじみは、がさつだし、口は悪いし、乱暴だし、先輩の足元にも及ばない。
真紗さん…この幼なじみとあなたの幼なじみを、どうか交換してください…
「はああ~…上手くいかないものね………」
部屋に飾ってある先輩の写真を見て、私は今日も溜息をつくのだった。
◆ ◇ ◇ ◇
「新、お前相変わらずだね」
華岡諒が甘い微笑みを浮かべている。
新が拗ねたような表情で諒を見上げる。
「みちるの事、可愛いって思っているなら、可愛いって言えばいいのに」
「…言えるかよ。俺は諒兄とは違うんだよ。てか、なんで照れずにそんな事言いまくれるんだよ、信じらんねえ」
「思っている事を言ってるだけなんだけどね」
諒がくすくすと笑い出す。
「しっかし、諒兄ってほんと、すげーよな。あんまし会った事のない女の子を、さらりとデートに連れて行けるんだから」
「デートだと思って貰ってはいないけどね」
「それでもだよ。普通無理だよ」
「新の為に頑張ってるんだよ、これでも」
「嘘だ、大半は諒兄の趣味だ」
「ばれてる?」
「当然だ!」
ふと真剣な表情になる新。
「…なあ、俺もこの前、ホームで見たけどさ」
「うん?」
「センパイとやらに相手がいるって言ってもさ、あの女の子よりみちるの方がずっと可愛いし、やっぱり、やばいかな……」
盛大に吹き出す諒。笑いが止まらなくなってきている様子だ。
「だからそれ、可愛いって本人の前で言えばいいのに!」
「そこどーでもいいんだってば!!」
一通り笑い転げた後、諒がやっと新に向きなおった。
「はは、大丈夫じゃない?可哀想だけどみちる、全く相手にされてない様子だし」
「そうかなあ、みちるに迫られたら、やばいんじゃないかなあ」
「最近、結構積極的みたいだけどね」
「ほらやっぱり!!」
「それよりも、新だって頑張りなよ。その態度じゃライバルが居なくても、いつまでたっても無理だよ」
むう、と膨れる新。
「新…お前も可愛いね、本当に」
「男にまで言ってんじゃねーよ!」
「あはは!」
こうして、諒と新は今日も、他愛もない話をして仲良く盛り上がるのだった。
◇ ◆ ◇ ◇
コンコンコン。
部屋の窓がノックされる。
真紗だ、反射的にそう思い、瑞希は窓を開ける。
「こんばんは」
「あれ?」
真琴だ。瑞希は驚いて声をあげてしまった。
「失礼な反応ね。真紗だと思ったんでしょ。真紗はもう寝たわよ、お疲れのようで」
真琴がキリリとした目元でじっと瑞希を見据える。
「何?珍しいね。真琴がオレに用があるなんて」
「今夜は、何してたのかしら」
「ちょっとね」
「外出していたでしょ。お風呂上りに部屋に戻ったら、どこにもいないんだもの、真紗」
「まあね」
「遊園地に行った日、なにかあったでしょ」
「……」
瑞希は返事をしない。ばつの悪そうな顔をして目線を逸らす。
「はっきりしなさいよ。でないとハナオカさん達みたいなのが次々来るんだから」
「…はっきりしたよ」
「真紗は自分と無関係だって、周りにはっきり言ったの?」
「は?」
「それとも…自分の彼女だってはっきり宣言したの?」
「…っ」
「やっぱり中途半端」
「オレははっきりしたよ。はっきりしないのは真紗の方だ」
「ふうん…本当にはっきりしてくれたのなら、いいけど」
長い髪を翻し、真琴はまた、自室へと戻るのだった。
◇ ◇ ◆ ◇
今朝も朝早くに目が覚めた。
買ったばかりのアイロンで髪を綺麗にセットする。
華岡さんに貰ったバームを塗ってみる。
家を出ると今日も瑞希の姿は見当たらない。
足取り軽く駅へと向かう。
今日はきっと素敵な一日。
素敵な一日だと思っていたのだけれど。
昨日の星空を思い浮かべて上の空でいたら、数学の授業で当てられて何も答えられなくて、課題出されるし。
駅に着くと丁度電車が去った後で、しばらく待ちぼうけ。
家に帰ろうとすると何もないのに躓いてこけるし。
あれ、素敵な一日だと思っていたのに。
部屋に帰って机の上にカバン置いて荷物取り出して。
渡された課題みたら気分急降下。
ぼんやりと窓を眺める。
ふと部屋の隅にある座布団が目に留まる。
洗濯してすっかり綺麗になったのに、返していなかったことに気づく。
課題をカバンに詰めなおして、座布団も抱えて。
私は窓から身を乗り出すことにした。
今日をまた素敵な一日に戻そうとして。




