先輩の浮気者ー!!
二菜と付き合いだして3日。
晴れて恋人同士となった俺たちだったが、それまでと特に何かが変わったわけではなかった。
いつものように朝学校へ行き、二菜の作った弁当を食べ、一緒に帰る。
家に帰ってからは二人で宿題をしたりなんやかんやとゆったりと過ごし、晩御飯を食べ、二菜が部屋に帰る、まさにいつも通りだ。
強いていうなら、以前より夜、二菜が自分の部屋に帰りたがらなくなったくらいだろうか?
夜中、こっそりと忍び込もうとした二菜を簀巻きにしたのも、記憶に新しい。
というか昨晩のことなんだけどな!
……こういうのって、普通逆じゃないの? あれ、俺なんかおかしいこと言ってる?
「最近、先輩が冷たい気がします」
「なんだよ急に」
「だってー、最近先輩、私に甘えてくれないんですもんっ!」
「だって……女の子に甘えるとか、恥ずかしいし……」
「ついこの前まで散々べったりだったくせに! もー! 急になんでですかー!!」
と、言われてもねぇ……。
あんまりべたべたするのって、鬱陶しくならないんだろうか?
「二菜重い、背中に乗るの辞めろ」
「くふふ! いやでーす! ここは私の特等席ですから!」
「背中に胸ががっつり当たって幸せなんでやめてください」
「せんぱいのえっちー!」
「どっちが」
はぁ、と溜息を一つ零す。
まぁいいけど……。
「ところで先輩に聞きたい事があるんですけど」
「おう、なんだ?」
「鈴七ちゃんって誰ですか」
「……なんでお前、鈴七のこと知ってるんだ?」
俺、鈴七のことこいつに話したことあったっけ?
覚えがないんだけど……うーん。
「昨日今日と、先輩が鈴七ちゃんって子と密かに連絡とってるのは知ってるんですからねっ!」
「お前……人のスマホ見たな!?」
「ちがいますぅー、たまたま見えただけですぅー! ていうかなんですか浮気ですか!」
先輩の浮気者ー! と俺のベッドに飛び込む二菜……小学生かお前は。
勢いよく飛び込むから、スカートが捲れて白い下着が見えてるじゃねぇか!
よし、とりあえずそっとスカートを戻しておこう……。
「で、誰なんですか鈴七ちゃんってやっぱり浮気ですか」
「なんでそうなるんだよ……鈴七はあれだ、従姉妹だよ」
「えー……ほんとにござるかぁー……?」
「ほんとにござるよ。つーか嘘だと思うなら母さんに聞けよ」
なぜこんなに疑われるのか。
俺、今までに疑われることなんかやったか?
「最近の先輩はよく女の子から声かけられるのが悪いんです! 先輩のおばか!」
「それをお前に言われたくねーぞ! お前あれからもまだ告白件数減ってねーじゃねぇか!」
「私は先輩しか見えてないからいいんですぅー!」
「俺だってお前しか見てねぇよ!」
「「…………」」
「ま、まぁ、そんなわけで、鈴七は母さんの姉の娘……従姉妹だから」
「くふふ……お前しか見てない……お前しか見てない……」
「おい、聴いてんのか?」
「はっ! 軽くトリップしてました……えーと、従姉妹でしたっけ?」
「そうそう、従姉妹」
蓮見 鈴七。
母さんの姉……千華さんの娘さんだ。
年は一つ下で、二菜と同い年なんだけど……もう1年以上会ってないからなぁ。
最近、久しぶりに連絡があってやり取りをしているわけだけど、相変わらずのようだ。
「写真とかないんですか?」
「写真……写真なぁ……あいつの写真は流石に持ってない……くれって言ってみるか」
ええと、『お前の写真、一枚くれ』っと。
ぺこん。
「お、返信早いな」
『私の写真をなんに使うつもりなの! 夜のおかずにするつもりねこの変態!!』
「つかわねぇよ!!」
「せ、先輩!? どうしたんですか!!?」
「いや、なんでもない……ちょっと待ってろ」
「はぁ……」
『アホか、お前のことそんな目で見たことねぇわ』
『どうだかー、年齢=彼女いない暦な一雪は信用できませんー』
『バカにすんな彼女くらいいるわ!』
『イマジナリー彼女とかやめてください……従姉妹として恥ずかしいです……』
ああ、物凄いイライラする!
そうだよ、最近あんまり話してなかったけど鈴七はこういう奴だったよ!
昔からちょっとひねてるというか、曲がってるというか!
「二菜、ちょいと顔こっち寄せろ」
「えっ、ちゅーしてくれるんですか!? くふふ……!」
「違うわバカ、ちょっと一枚……よし、これでいいだろ」
見て驚け鈴七!
俺には二菜っていう可愛い彼女が出来たんだ! 3日前にな!
くくく、知ってるんだぞ……お前だって年齢=彼氏いない暦なのは!
俺には彼女がいる、お前にはいない、この差は大きいだろう!
『はっ、俺には彼女がいるんだよ、見ろこの写真を!』
『可愛い子ですねなんてお店の子ですか?』
「違うわ!!」
「先輩!? 大丈夫ですか先輩!!?」
「あ、ああ……大丈夫……大丈夫だから……」
なんであいつはこんなにひねくれてるのかなぁ……!
こいつに出来る、将来の彼氏が今から可哀想になってくる。
きっと、苦労するに違いない……今からその未来が見えて、悲しくなってくるね。
『はっ、自分が彼氏いないからってひがみはやめて現実を見ろ』
「ところで先輩、鈴七ちゃんの写真は……」
「諦めろ」
「え、なんでですか!?」
これ以上、あいつと話をすると精神が辛い。
まぁ、そのうち二菜も鈴七と会う機会があるだろう、この先も長い付き合いになるだろうしな。
その時……その時、鈴七と仲良くできるかなぁ……どうだろうなぁ……。
あ、お兄さんちょっと心配になってきたぞ?
ぺこん
「ん、鈴七からだ……なんだ?」
『私にも彼氏くらいいますー』
『証拠に写真を一枚、送ります』
『コラとか作って、私を彼女って事にして友達に紹介とかしないでくださいね?』
「しねぇよ!」
「あわわ……先輩が……珍しく先輩が本気で怒ってる……!」
「はぁ~……なんか、どうもあいつと話してるとな……っと、ほら二菜、これが鈴七の……」
――――表示した写真には、鈴七が写っていた。
ただし、物凄い嫌そうな顔をして、無理矢理撮られました! な空気が物凄く出ている、男子と一緒に……。
「へぇ、可愛い子ですね? この隣の男子は……彼氏さんでしょうか?」
「その割りに、ものすっごい嫌そうな顔してんぞ……彼氏なのかこれ?」
「さぁ、聞いてみればいいのでは?」
「いや、やめておこう……これはなんとなく、聞いちゃいけない気がする」
ただ、彼の顔を見て思った。
あ、こいつ、鈴七に振り回されて、大変そうだな、と。
恐らく俺の勘は間違っていないだろう。
「俺には、彼を応援することしか出来ない……頑張れ……」
遠い空の下から、君の事を応援しているよ……。
「先輩、それはそうと私も構ってほしいんですけどー!!」
「あっバカ、やめろ! やめてください……っ!」
「くふふ……よいではないかよいではないか……!」
「いやー! 汚されるー!!」