ずっと一緒にいましょうね!
「はー、疲れたなー」
「疲れましたねー……」
あれから。
あちこちからかけられる祝い、呪い、その他もろもろの声を避け、校内を走り回り。
ようやく俺たち二人が落ち着けたのは、やはりというか屋上だった。
そして、今は二人並んで壁際に並んで座りながら、学園祭の終わりを遠くに聞いていた。
今日も屋上に誰もいないって、ほんと偶然って怖い。
偶然だよな?
「よく、あんなことして怒られませんでしたね?」
「うん? どれのことだ?」
「さっきの……その、こ、告白、です!」
「ああ、そのことな」
俺も五百里から聞くまでは知らなかったんだが、どうもあのように告白する生徒は、毎年一人か二人はいるんだとか。
もはや今となっては名物の一つでもあるので、学園側も見逃している、という話だ。
「くふふ!じゃあ先輩も名物の一つとして、今後記録されるんですね!」
「頭が痛い……なんとか始末できないものか……」
将来どこかで見せられたら悶絶する自信がある。
出来ればこのまま、封印されてほしいものだが……。
「それにしても……ビックリしました、まさかあんな所で好きって言われるなんて」
「あれくらい大勢の前で告白しないと、これからもお前に言い寄る男多そうだからさ……」
「……くふふー! なんですかそれなんですかそれ! 独占欲ですか先輩!」
「そ、そうだよ……悪いかよ!」
そうだ、これは俺のみっともない独占欲だ。
正直、二菜が俺以外の男と話してる、ってのも時々イラッとするくらいだ。
ほんと、自分でもどうかと思うよ、全く。
「そ、そうですか……へへへ! 私も、先輩が他の女の子と話してるとイラってするんです!」
「……お互い、独占欲の強い面倒くさいのに引っかかったもんだなぁ」
「まぁ、私は積極的に引っ掛けにいった側ですが」
「見事な一本釣りだな」
「くふふー! もう逃がしませんよ!」
「ああ、俺も逃がさない」
「えっ……ふえっ!?」
言うが早いか、隣の二菜の肩を抱き、自分へと引き寄せた。
腕の中で一瞬、二菜の体が強張り……ふっと、すぐに力が抜けたのがわかる。
俺を見上げる二菜との距離は、もうほとんどない。
「先輩は……」
「ん?」
「先輩は、私のどこを好きになってくれたんですか?」
「なんだその今更な質問」
「や、だって、冷静に考えたら私、結構ヤバい女じゃないかなーって……」
えっ、今更お前それ言うの!?
春の時点でなんかおかしいって気付こうよ、マジで!
「それに、昨日私はたくさん好きな所を言ったんです、私も聞いてもよくないですか?」
「そうだなぁ……」
そう言われると、たしかに。
ふむ、二菜の好きな所、か。
「正直、前も言ったと思うけど最初はお前のこと、胡散臭いやつだなぁと思った」
「怪しい詐欺の販売員扱いって、酷いと思いません?」
「だってお前、知り合って数日で人の家に押しかけるんだぞ、ヤバいと思うだろ? ……待てよ、お前うちのマンションに引っ越してきたのももしかして……」
「ち、違います! それは本当に偶然ですって! ……実は香月先輩に聞く前から、家は知ってましたケド」
じとーっと二菜の目を見てやると、ついっと目線を逸らされた。
なるほど、この件は後日、詳しく話し合う必要があるようだな……。
まぁ、それは置いておいて。
「どこが好きになったか、だけど……うーん……どこなんだろうなぁ」
「えぇ……」
「気がついたらもうお前が隣にいるのが当たり前でさ、二菜が料理をしてる後ろ姿がなんか凄く気になって……バイトが終わって帰ったら、おかえりなさいって出迎えてくれるのが嬉しくてさ」
そうだな。
俺は、二菜といる時間、二菜の雰囲気、空気、二菜の全部が好きになったんだと思う。
もう、二菜を手放す気はさらさらない。
「あ、でも身長はあと5センチ伸ばしてくれ」
「も、もー! せっかくいい感じの話してたのに、なんでですかー!」
「こう、俺の身長との釣り合いが……」
「むーっ! むーーーっ!!」
腕の中でぽすぽすと胸を叩かれるが、痛くもかゆくもない。
はっはっはっ、むしろ気持ちいいくらいだぞ、天音二菜!!
でも、いつまでも暴れて入られては困る。
「二菜」
ぴたりと、二菜の動きが止まった。
「二菜、好きだ、どうしようもないほど……お前を離したくない、そう思うくらいに」
「わ、私も……」
二菜が、俺の胸元に顔を埋める。
いま、どんな表情をしているんだろう?
「私も、先輩が好きです……ずっと……一年以上前から……」
「うん」
「もう、離れたくないです……ずっと一緒に、いたいです……!」
そう言いながら、二菜の肩が軽く震えているのがわかった。
泣いているんだろうか……?
腕の中で震える愛しい人を抱きしめようと、手の力を強めようとしたとき……
「……くふ!」
「ん」
「くふふふふふふ!!」
「な、なんだ!?」
こ、これは泣いてるんじゃない……笑いを我慢していたのか!?
な、なんだ、何を考えているんだ天音 二菜!?
「くふふふふ!! 先輩に好きって! 好きって言われました! これでもう我慢しなくてもいいんですよね!?」
「ええと……あ、天音さん……?」
「先輩! 私、先輩にずっとお願いしたいことがあったんです!」
「お、おお……なんだ? あっ! か、金ならないからな!?」
まさかここで豹変するとは!
はっ! もしかしてずっと機会を伺っていたのか!?
俺にイルカの絵を売りつけるために……地道に好感度を稼いで……!
くそっ、俺としたことがおのれ天音二菜……っ!
もう、ここから先、俺はこいつを拒めないかもしれない……!
「も、もう私と先輩は恋人になったんですから、ちゅーしてもいいんですよね!?」
「……はい?」
何言ってんだこいつ。
「えへへへへへへ私あの夏休みからずっと我慢してたんですえへへへへへへへへ」
「お、落ち着け二菜! もうちょっと雰囲気とか! そういうのがさ!」
「いいえもう我慢できません! さぁ先輩大丈夫です、星の数を数えてる間に終わりますから……!」
「ま、待て待て待て待て逆! それ逆だから……いやぁぁぁぁぁぁ!!」
……俺が間違っていた。
やはり……天音二菜は怖い!
俺はもう絶対に……絶対に!
これ以上こいつに絆されないからな……!!!