私、先輩のこと……!
「――――2年、藤代一雪くん、本年度ミスターコンテストグランプリ、おめでとう!」
おお……何度聞いても自分の名前だ……。
グランプリを目指して出場したけど、まさか本当に取れるとは。
観客席の方を見ると、五百里・音琴の二人と目が合った。
お前らのおかげだよ……さんきゅーな……!
「一雪ー! あんたのおごりで食べ放題じゃない焼肉だからねー!!」
……聞こえてるぞ音琴……デカい声出しやがって。
まったく、一昨日、人の金で散々食ったくせにまだ食うつもりかよ!
まぁいいさ! ああ、お前にも五百里にも、食わせてやるよ!
そして、続けて表彰されるミスコングランプリは……。
「――――1年、天音二菜さん、本年度ミスコンテストグランプリ、おめでとう!」
『うおおおおおおおおお!!!!』
『天音さんおめでとうーーー!!』
『好きだーー!! 結婚してくれーーー!!』
おい、俺のときに全然なかった歓声がすげー聞こえるんだけど。
どうなってるんだお前ら……俺に投票してくれた人たちはどこ行ったの!?
「ミスター・ミス、おめでとうございます! それではまず、皆さん興味のある天音さんからインタビューを……」
「おい」
「いやだって、まずは女の子の話聞きたいですよねー!?」
『『『聞きたいですー!!』』』
こ、こいつら……!
いやまぁ、俺は別に話したいことなんてないからいいんだけどさ!
「それでは改めて、天音さんおめでとうございます!」
「へへへ、ありがとうございます! でもこれから忙しくなりそうで辛いです、帰ってもいいですか?」
「いやいやいや、帰らないでくださいよ! みんな聞きたいこといっぱいありますって!」
「いやー、もう話すこと、さっき全部話しましたよー?」
「さっきの話って好きな男の子がいるんですよーしか聞いてませんよ!? この子の頭の中、ピンク色すぎるんですけど!」
「えへへ、照れるぜ!」
司会のお姉さんがこいつ何言ってんだって顔してるけどわかる、わかるよ。
俺もこいつが何考えてるのか、今でもたまによくわからないし。
「えー、見事ミスを獲得されましたが、今のお気持ちは?」
「散々好きな人がいるって言ってるのに、みんな私に投票してもよかったんですかー?」
「ですよねー! やっぱりそう思いますよねー! 私もそう思います」
俺もそう思う。
つーか司会のお姉さんよ、笑顔が消えてるぞ笑顔が!
真顔で突っ込みいれんな怖いよ!
「えー、それでは、藤代さんにもお話を聞いてみましょう! 今のお気持ちは!」
「あ、そうっすね、やっぱ嬉しいです、ははは」
「はい、ありがとうございました!」
「終わりかよ! もっとなんか聞けよ!?」
「え、私と付き合ってくれるんですか?」
「結局それかよ!」
もうやだなんなのこの人……。
だめだ、この人のペースに付き合ってたら何も出来ない!
無理矢理にでも自分のペースに持ち込まないと……!
「すいません、ちょっと、一言言いたい事があるんですけど、いいですか?」
「はぁ、いいですよ?」
そういいながら、司会のお姉さんが俺を手招きして……なんだ?
「(……このステージ、映像記録として残りますからね?)」
「!! ま、マジですか?」
「ふふっ、頑張ってくださいね?」
ぐっ、っとサムズアップし、少し距離を取るお姉さんは、もしかして俺が何をしようとしているのか、知っているのだろうか?
……いや、知っていたとして、だからどうだっていうんだ、今から俺がやることは変わらない。
よし!
「まず最初に……俺に投票してくれた人たちみんな、ありがとうございます! それと、この場を私的なことに使うことを、許してください!」
五百里と音琴が、真剣な目で俺を見ている。
お前ら二人で、俺のことヘタレへたれって散々言ってくれたけど……もうヘタレなんていわせないからな!
「天音……いや、二菜!」
「へっ!? わ、私ですか!?」
「そう、お前にどうしても、言っておきたい事があるんだ」
「えぇ……な、なんでしょうか……?」
それまで自分には関係ないだろう、と一歩引いていた二菜が、驚いた声を上げる。
まさか、自分がここで話題に上がるとは思っていなかったのだろう、完全に油断した顔をしてたからな。
だからって、目線をうろうろさせてキョドるのはどうなんだ、何をビビってんだよ、お前。
あまりに挙動不審な二菜の態度に、思わず笑ってしまう。
「いや、怒るとか、そういう変な事じゃないから」
「は、はぁ……じゃあ、なんでしょう?」
まぁでも、そりゃそうか。
こんな時、こんな所で声かけられたら、なんだってなるよな?
俺だってなる。
「二菜、俺はお前のこと……一人の女の子として、大事だと思ってる」
「えっ」
「最初は、なんだこいつって思ってた、やたらと馴れ馴れしい奴だなって……正直、何が目的だってずっと思ってた」
「……………」
たった半年ほど前の話だ。
あれだけ疑ってたのに、今やこんな舞台でこんなことしてるんだから、信じられないよ!
「あれから半年、ずっと一緒にいて、色んな事して……気がついたら、二菜が隣にいないと、落ち着かなくなった」
何時頃からだろう?
二菜のいない時間が、なんとなく物足りなくなったのは。
「お前の事をもっと知りたいと思ったし、気がついたら……大事にしたい、って思いだしてた」
二菜は、じっと俺の話を聞いていた。
何も言わないが、今何を考えているんだろう?
彼女の澄んだ青い目からは、今はまだ、困惑以外の感情は見えてこない。
「夏祭りのあの時……はっきりとわかったんだ、お前を、誰にも渡したくないって」
往面に連れて行かれそうになった二菜を見た時。
あの時にはっきりと悟った。
俺は、二菜の事を……。
「二菜、俺はお前が好きだ!」
「二菜、好きだ、一人の女の子として、好きだ! 俺とずっと一緒にいてくれ!」
ステージの下がざわついているのが遠くに聞こえる。
はは、心臓がバクバク言って、足が震えてるよ……。
二菜は俺の告白を聞いてから俯いてしまい、こちらからは顔が見えない。
今、俺が言える事は言った。
後は二菜がどう答えるかだけ……。
「先輩……私……」
「ああ」
「私、先輩の事……!」
「弟みたいだなって、ずっと思ってたんです!!」
「えっ」
「「「えっ」」」
今、俺と観客のみなさんの心が、間違いなくひとつになった。
えっ、弟……えっ、俺、えぇ……?
「えっ、ど、どういう……へ?」
あれ、俺もしかして今……二菜にフラれた?
え、なんで? だ、だって昨日もあんなに……!
あー、ダメだ、考えがまとまらない、頭がグラグラして地面が揺れる……。
「くっ……ふふふふ……っ!」
「二菜……?」
「くふふふふ! 先輩! お祭りのときの私の気持ち、わかりましたか?」
「えっ……あっ!」
こいつ、もしかして!
「くふふ! 私、絶対一度は仕返ししてやる、って思ってたんです!」
「二菜……お前ぇ……!」
くそっ、やられた!
こいつ、いつからこれ考えてたんだ?
絶対今、とっさに思いついて言ったことじゃないだろ……。
「お前……ほんとお前、そういうところだぞ……! 心臓止まるかと思ったわ!」
「くふふ! 先輩! 先ほどのお返事ですけど……」
まるで弾丸のように、俺の胸元に飛び込んできた二菜を受け止めてやる。
後ろに押し倒されなかった俺を、褒めてくれてもいいと思う……。
「私も先輩の事好きです、大好きです! 愛してます! 結婚してください!!」
「お前は……こんな状況でも、ほんとブレないね……」
「はー……幸せです……」
抱きしめながら二菜の髪をなでてやると、嬉しそうにこちらを見上げてくる。
大好きな二菜のその笑顔を見ていると、俺も幸せな気持ちになってきて。
そのまま、二人の顔が近づき……。
「あのー、お二人さん」
「「!?」」
「二人の世界作るのはいいんですけど、やるなら人のいないところでやってもらえますか?」
「えっ……あっ!」
そ、そうだった!
ここ、まだステージの上じゃねーか!
しかも、大勢の人の前で……。
その瞬間、ばっ!と二人の距離が離れる。
俺も二菜も、見なくても分かる、顔が真っ赤だ。
あー、やらかした……いくら盛り上がったからって!
というか、司会の人に指摘されるまで気付かない俺も俺だが、ここまで放置するのもどうなんだ……。
「それと、司会の私から一言、みなさんを代弁して言いたい事があります」
「な、なんでしょうか……?」
『お前ら、まだ付き合ってなかったのかよ!!』
「えっ」
その瞬間、わぁっ! と観客席から歓声が上がる。
「このヘタレー!」「さっさと別れろ!」「今まで付き合ってなかったのかよ!?」
って待て、今やっと付き合いだしたのに別れろってなんだよ!?
「うるせー! ヘタレで悪かったな!」
お呪いしてやるー! は言いたい気分は分かる、俺もよく思った。
それは許そう。
ちらりと隣を見ると、顔を真っ赤にしながらも、幸せそうな二菜と目が合った。
どちらからともなくお互いの手が触れ合い、しっかりとつながれる。
「先輩、好きです」
「俺も好きだよ」
「くふふ! やっと、好きって言ってもらえました」
相変わらずステージの下からはお祝い、お呪い、野次がたくさん飛んでくる。
それでも、嬉しそうに微笑む二菜をみているだけで、満たされた気持ちになり……。
「ちなみにこの公開告白、学園のライブラリに一生残りますからね」
「け、消してください……!」
その一言で、真っ青になったのだった……。