ずっと、この子と一緒にいたい
学園祭二日目。
時刻は16:00。
普段であれば運動部の掛け声があちこちから聞こえ、下校する生徒もちらほらと見られる時間だが、今日は違う。
グラウンドに作られたステージの周囲は今、最高に盛り上がっていた。
そんな中、俺はと言うと……。
「やばい、緊張してきた……」
「そんな凶悪そうな顔して何が緊張よ」
「誰が殺人犯みたいな顔だ……いたた、胃が、胃が痛い……!」
「そこまでは言ってないわよ!? ……はいはい、手のひらに人書いて飲みましょうねー」
「俺は小学生かっ!!」
どんどん上がっていくステージの熱気。
盛り上がる観客。
近づいてくる出番。
「おまえらー! 美少女は好きかーーーーーー!!」
「「「うおおおおおおおお!!!」」」
「イケメンは好きかーーーーーー!!」
「「「キャーーーーーーー!!」」」
「これより、ミス&ミスターコンテスト! 開始するぞお前らーーー!!」
えっ、なんか凄い盛り上がってるんだけど。
あの司会、放送部の人なの!? いっつもお行儀のいい放送してるのに何があったの!
つーか、明らかにステージ上のテンションおかしいんだけど!
「なんか、思ってたより凄い大規模なんだけど大丈夫かこれ……」
「大丈夫だよ一雪、去年もこんなもんだったから」
「マジかよ」
去年は全く興味なくて見てなかったから知らなかったけど、想像よりも大きなイベントのようだ……。
ちらりと周囲を見渡すと、俺をのぞいた9人の男子たちがそれぞれ、思い思いの服装で出番を待っていた。
さすが、この場に残るだけあって、どいつもこいつも美男・美少年だらけである。
男子の部予選参加人数36名から選ばれた10人のうち、9人は伊達じゃない。
ちなみに、女子の方は二菜が1位だったので、やはり俺の見立ては間違っていなかった。
この調子だと、ミスはほぼほぼ二菜で決まりだろう。
「自分で言うのもなんだけど、よくこの中に残れたな俺……」
「一雪は自分に自信がなさ過ぎるんだよ」
「大体、私と五百里で整えてやったんだから、残れて当然でしょ!」
「ああ、お前らには感謝してるよマジで」
男子の部予選・3位。
これが今の俺の立ち位置だ。
一人で挑んでいれば、絶対に予選で落ちていたと断言できる。
「ま、1位がやっぱりアイツだったんで、余裕はないんだけどな」
目を向けると、余裕の笑顔のアイツ……イケメンくんが女の子と話していた。
あれはミス側で参加している女の子か……頑張ってだのなんだの言われているんだろうか?
……あ、こっち見て笑いやがった。
くっそ、絶対負けねぇ……!
お前が二菜の横に並ぶなんて、絶対阻止してみせる……!
「あ、せ、先輩いたー!」
そんな中、今一番聞きたかった声が、俺の耳に飛び込んできた。
まだ少しだけ幼さと甘さの残る、涼やかな声。
俺の一番好きな女の子、天音 二菜である。
ああ、やっぱり二菜の声は落ち着く……。
「どどど、どうしましょう先輩、なんかヤバイんですけど!」
全く落ち着かなかった。
「落ち着け、お前は余裕だろ」
「全然余裕なんてありませんよぉ、なんで私が1位なんですかー!」
「なんでって……昨日も言っただろ、お前が一番可愛いって」
「んぐっ……ん……うう……」
事実、やはり今回の参加者を見渡しても、二菜がダントツに可愛いと思う。
おろおろとしていた二菜が一転、かーっと顔を赤く染めて、逆に挙動不審になっていく。
そういう小動物的なところも、二菜の魅力だよなぁ……。
七菜可さんには多分、なれないなこいつは。
「わ、私は、先輩にだけ可愛い、って言ってもらえればそれだけでいいんですけど……」
「そっか、でも俺は自分の隣にいる女の子って可愛いだろ! って言いたいぞ?」
「ふぐぅ……!!」
「むしろヤバイの俺だよ……見ろよこのイケメンだらけの空間、場違いに感じるわ」
「わ、私は! ……私は、先輩が一番かっこいいと思います……」
「えっ……あ、お、おう、ありがと……」
あ、ダメだやばい、今俺の顔も赤くなってるのがわかる。
出番も近いのに、このままだと緊張してる上顔に血が集まった状態で舞台に……。
「……あんたら、いつまでイチャついてんの?」
「どうしてこれで、まだ付き合ってないんだろうねぇ本当に……」
「「!?」」
気がつくと、周囲の視線が俺たちに集まっていた。
どれも生暖かいものを見る目で……あ、一つだけ、明らかに怨嗟の篭った視線があったけど!
だがこちらも負けてはいられない、キっ、と睨み返してやる。
……こいつにだけは絶対負けない!
「先輩どうしたんですか? ただでさえ目つき悪いのに、人殺しそうな目になってますよ?」
「天音ぇ……お前、俺のことなんだと思ってんの……」
「え、初めて起きてる先輩見た時から、物凄い目つき悪い人だと思ってましたけど?」
まさか、そんな風に思われていたとは思わなかった。
昨日、目つきについては何も言わなかったじゃないか!
「くふふー! でも、そんな目つきの悪い先輩がふにゃっと笑顔になるの、私すっごい好きなんです!」
「……さよか……」
「あの笑顔があれば、今日も余裕の勝利ですよ! ……本当は、私以外に見せてほしくないですケド……」
「俺も、天音が照れてもじもじしてる可愛い顔を他の男に見せて欲しくなかったから、おあいこだな」
「……っ!!! も、もー! なんで今、そういうこと言うんですかー!!」
……でも、俺が二菜が一番可愛いと思うのは、なんでですかー! ってこうやってぷりぷり怒ってる顔かもしれない。
いや、怒ってる顔……なんだろうか? うーん。
ついつい、なんでですかーって言わせたい魅力があるんだよな、あの表情。
やれやれ、と髪を撫でてやると、二菜がふにゃりと表情を崩した。
ああ、俺はずっと、この子と一緒にいたい……。
「一雪はすぐ二人だけの世界を作るの、気をつけた方がいいね」
「見てるだけで胸焼けするわ……」
その二人の言葉に、周囲が頷いたのに、俺は気が付かなかった。
* * *
「――それではそろそろ、男子側から開始します! 参加者はこちらへ来てくださーい!」
……時間だ。
いよいよ、コンテストが始まる。
ここまできたらもう、やれることをやるだけだ!
「天音……いや、二菜」
「えっ、は、はい?」
「見ててくれ、俺、絶対ミスター獲って来るから」
「……! くふふー! はいっ! 先輩なら余裕ですよ! もうこうなったら、二人でミスター・ミス獲っちゃいましょう!」
こいつが言うと、なんとなくほんとに獲れそうな気がしてくる。
いや、絶対に獲る!
そして……。
「じゃあ、行って来る」
「はい、行ってらっしゃい!」





