ついこの前なのに懐かしいですね!
「私が先輩のどこが好きか、ですか?」
「ああ、ずっと気になってたんだ」
「そんなに気にするようなところでしょうか……」
「そりゃ気にするだろうよ」
はっきり言って、俺と二菜では住んでる世界が違う。
それは俺が一番よくわかっているし、未だに「なぜ俺?」という疑問が尽きない。
今までなんとなくはぐらかしてきたが、避けては通れないだろう。
「……そうですね、ここじゃなんですから、移動しましょうか」
「どこに? 今日はどこもいっぱいだぞ、多分」
「うーん……出来れば屋上とか……ダメでしょうか?」
「流石に今日は人多そうだけど、それでもいいか?」
「いたらいた時ですよ、行きましょ?」
そう言いつつも移動した屋上には、本当に珍しく、誰もいなかった。
今日みたいな日は、絶対に誰かがいると思ったんだが……。
まるで、俺たちのために人がいなくなったと思うのは、都合がよすぎるだろうか?
「……くふふ、懐かしいですね、先輩!」
「ん?」
「私あの時、ここで凄くドキドキしながら、先輩を待ってたんです」
「ああ、春の話か……確かに懐かしいなぁ」
「ね、なんだか随分前みたいな感じがします」
そうだ、俺はここで、二菜に告白されたんだった。
ただ、あの時はこいつを全く信用してなくて……。
「勇気を振り絞って告白したら、イルカの絵も壺も買わないですよ、酷いと思いませんか!?」
「……仕方ないだろ、絶対裏があるって思ったんだから」
「あれには傷つきました……しかも屋上に放置されましたし」
「だから悪かったって!」
当時は、こんな可愛い子が俺なんかに近づくのは、絶対に何かあると思ったんだ。
というか俺じゃなくたって普通警戒する。
警戒するよな?
「ただ、翌日のあれはいただけない……あれから大変だったんだからな!?」
「だって、先輩はあれくらいしないと私に興味持ちそうになかったし……」
「まぁ、それはまぁ……うん、そうだな」
多分、翌朝の待ち伏せがなければ、こいつの事もすぐ忘れていただろう。
そうなると、今のような関係はなかったかもしれない。
「先輩って、なんやかんや言って結構チョロいところがあるから、私心配です……」
「おいおいおい、猜疑心の塊のような俺のどこがチョロいっていうんだ?」
「急に訪ねてきた後輩をその日のうちに家に入れちゃうのは、チョロいと思いますよ?」
「ドアチャイムを散々連打しといてよく言う……!」
あんなことされたら、普通あけるだろうよ。
決して俺がチョロいわけではないと思う。
「……先輩は、私と初めて会った時のこと、覚えてますか?」
「ん? 今年の春のことだろ? 今話してたじゃないか」
「はー……やっぱり覚えてなかった……」
「ん?」
今年の春、それより前にあったことがある?
ダメだ、全然覚えてない……。
だいたい、二菜みたいな子、一度見たらそうそう忘れないと思うんだけどなぁ。
わからない、という表情をすると、二菜がわかりやすく溜息をついた。
「先輩がどれだけ私に興味なかったか、よーくわかりました……」
「いや待て、興味がないってわけじゃないぞ!?」
「いいですー、先輩はー、そう言う人でしょうしー」
ほっぺたをぷくーっと膨らませて怒る二菜を、なんとか宥め賺す。
機嫌を直してもらわないと、話が進まないじゃないか……!
「はぁ……まぁ、いいですけど……今はそうでもないみたいですし?」
その言い方だと、まるで俺がお前の事を好きみたいな言い方になるぞ。
いや、まぁ、その……好きだけど……!
「で、俺とお前、いつ会ってたんだ?」
「言っておきますけど、そんなドラマチックな話ってわけじゃないですからね?」
「俺が関わってるんだから、そりゃそうだろ」
「もう……そんなに面白い話でもないですからね?」
そう前置きをして、二菜がぽつぽつと話し出した。
「これは、私が中学三年生の夏休み……ちょっと擦れた子供だった私が、とある男の子に出会った話です」





