ほんと私が好きですね!
「えへへへへへへ……」
「おい天音、お前顔がゆるみまくってんぞ」
「えっ!? わ、私、また男子に見せられない顔になってましたか!?」
「なんだそりゃ」
ゆるゆるの顔ではあったが、そんなに変な顔ではなかったと思うけど……。
いつもの二菜だなぁ、程度にしか思わない顔だ。
というか、あの顔にちょっと危機感を持っていたことに驚きを感じる。
そんな俺たちは、二人で学園祭を回っていた。
二菜の友達は他に行く事がある、ということで別れている。
まさか、学園祭を女の子と二人で回ることになるとはなぁ……。
「いつもうちにいるときにしてるような顔だったな」
「それは十分ヤバいんですよぉ~!」
両頬に手を当て、ぐっと顔を押さえだすが、逆に変な顔になっていることに気がついているだろうか?
「くっ……ははは!」
「な、なんですか先輩!」
「お前、さっきより変な顔になってんぞ! 可愛い顔が台無しだわ!」
「可愛いって言われるのは嬉しいですけど、複雑な気分です……!」
まあ、俺からすればそんな顔も可愛く見えるんだから、色んな表情が見れてお得な気分ではあるんだけどな。
「さて、どこから回る? って言っても、俺全然チェックしてないんだけど……」
「ふっふっふっ、だろうなと思ったので持って来ました、ガイドブック!」
「おお、準備いいなお前!」
「くふふー! もっと褒めてくれてもいいんですよ?」
「あ、これ以上褒めると調子乗るからここまでな」
「もー! なんでですかー!!」
ガイドブックに一通り目を通してみるが、流石に学内のみの初日だと、軽音部のライブなどのイベント系はほぼタイムスケジュール確認程度しかしておらず、ほぼ模擬店のみが動いている事がわかった。
となると、グラウンドの方には今のところ、出る必要はなさそうだ。
「まずは……とりあえず、小腹がすいたな……」
「なら、こっちの運動部系がやってる、出店系のコーナーからですね!」
「縁日コーナーって……縁日もう関係なくないか?」
「まぁまぁ、焼きソバにフランクフルトが待ってますよー!」
てなことを、夏の終わりにも聞いた気がする。
こいつ、見た目こんなんなのに、意外と食い意地はってるよな。
「さっきケーキ食ったとこなのに、まだ食うのかよお前」
「くふふー! それはそれ、これはこれ、ですからねー!」
「どうしてそれだけ食って、身長が伸びないんだ……」
「の、伸びてるもん……大きくなってるもん!」
「確かに、胸はまた育った気がするな……」
「ど、どこ見てるんですか!? もー! 先輩のえっち!!」
七菜可さんへの道はまだまだ遠いといわざるを得ないな、と頭を撫でてやると、一瞬嬉しそうな顔をし……。
「先輩、私が頭を撫でればすぐ機嫌がよくなると思わないことですねっ!」
「そうか、じゃあもう撫でるのはやめておくか」
「いいえ! もっと愛をこめて! 愛をこめて撫でてください!」
「はいよ」
後に、その光景を見ていた学生は語る。
『あれで付き合ってないって言われたら、世の中のカップルみんな付き合ってませんよ』
と――――。
* * *
その後、縁日コーナーである程度腹を満たした俺たちは、運動部の運営するミニゲームコーナーで遊びまわった。
意外だったのが、どのミニゲームでも二菜が結構動けたことだ。
いや、結構どころではなかったかもしれない。
フリースローをさせれば5本中5本決めるし、テニスの的当ても百発百中。
ほんとこいつは……苦手なこととかないのかね?
「お前、バスケもテニスもなんでもできんのな」
「ふふーん、私は意外と運動神経いいんですよ!」
「なんで部活やらなかったんだよ、勿体無い」
「そんなことしたら、放課後の先輩との時間が取れなくなるじゃないですか」
「……さよか」
くそ、可愛いこというよなぁ……。
「くふふ、先輩、ちょっと顔赤いですよ?」
「うるさい、赤くないし、ちょっと動いたから暑くなっただけだよ」
「そうですかー……じゃあ、ちょっと涼みに、外出ませんか?」
そう言ってやってきたのは、グラウンドの中央ステージ。
明日、ミスター・ミスコン本選が行われる舞台だ。
去年は全く興味なかったので見ていなかったが、意外と大きなステージだ。
色々と準備をしてきたとは言え、明日、俺はここに立てるだろうか?
「先輩、明日のことで相談があるんですけど……」
「なんだ?」
「今年のミスコン、私エントリーしてるんですけどね」
「ああ、知ってる」
話題になってたからな、あの天音がエントリーしてる! って。
ちなみに俺もエントリーしているが、誰も話題にしてくれなかった。
一部のクラスメイトはしっていたみたいだけど……恐らく、二菜も知らないと思う。
「多分1位なんてなれないと思うんで大丈夫だと思うんですけど……その……」
「1位になっちゃったら、往面と二人で広告塔することになるのが嫌ってか?」
「はい……いえ、ほんと私が1位になるなんて思わないですけどね?」
あの先輩だって、1位になるかわかんないですし、と二菜はいうがどうだろう。
何もしなければ、あいつが1位を取るんじゃないだろうか?
そして。
「俺はお前がミスを獲ると思ってるぞ」
「先輩?」
「俺は、お前がこの学園で一番可愛いし、綺麗だと思ってる」
「……っきゅ、急になんですか! も、もうっ!」
そう言うと、顔を伏せ気味に、二菜がやや顔を赤らめた。
「せ、先輩がそういうなら! 1位になっちゃうかもしれませんねっ!」
「ああ、だから、俺も参加することにした」
「……なんですって?」
「ミスターコン、俺も参加するから」
ちょいちょい、とエントリー一覧の中の、俺の名前を指してやる。
それを見て目を見開いているが……あー、やっぱり気付いてなかったか。
「え、先輩がこんなイベント出るなんて……どうしたんですか?」
「……お前とあいつが広告塔として常に一緒にいるのが嫌だな、って思っただけだ」
「あ、それで今日、そんなにイメチェンして……くふふ! 先輩って、ほんと私が好きですね!」
「うるせー」
「そんな先輩が私、大好きです! 結婚してください!!」
大好き、か。
そうだな、聞くなら今しかないか。
「なぁ、天音」
「なん……はい?」
「お前、俺の何がそんなに好きなの?」





