入り口でイチャつかないで!
「だ、誰ですか……?」
「ちょ、ちょっと待ってよ宮藤さん、俺、俺だよ俺!」
「み、見え透いたおれおれ詐欺の手口……っ!」
なんでそうなるのかな!?
この反応、本当に俺が藤代だって気付いてないんですか!?
詐欺師扱いするって、地味に酷くない!?
「オレ、フジシロ、ミヤフジ、トナリ、トモダチ、トモダチ」
「なにやってんの一雪……」
「いや、宮藤さんが俺のこと、誰とか悲しいこというから……」
「ふふふ、それだけ一雪が変わったってことさ」
そんな会話をする俺と五百里を、宮藤さんがぱちりと目を瞬かせ……
「え、もしかして……藤代くん……?」
「ほんとに気がついてなかったんだ……」
もう半年以上、隣の席にいたのに、髪を切った程度で気付かれなくなるなんて……。
俺と宮藤さんの絆は、そんなもんだったのか!?
「宮藤さん……俺とあんなに、愛を確かめ合ったのに……」
「しっ、してないっ、してないです! あとこっち見ないでください……」
「おい五百里、キモいからこっち見るなって言われたぞどうしてくれる」
「大丈夫だよ一雪、あれはそういうんじゃないから」
「ほんとかよ」
明日が勝負の一日になるんだ……頼むぞほんと……。
「うわぁ……ダメですって目を出したら……ヤバイですよこれは……!」
* * *
ここまで色々とあったが、とうとうやってきた学園祭の今日。
日程的には今日が校内のみのイベントで、明日一日が一般公開日となる。
なので今日は一日、全員で仕事内容を確認する程度の意味合いになるのだが……。
「うちのクラスはカフェだから、一雪には余裕だね」
「まぁ、いつもしてる仕事だからな」
カフェとはいえ、珈琲と簡単なケーキ程度しかメニューのない、簡素なものだ。
色んな珈琲の種類にデザートまであるバイト先と比べればそれは余裕だろう。
ただ、同じ学校の生徒をもてなす、というのが気恥ずかしいだけで……。
「まぁまぁ、今日は一日頑張ってもらわないと困るんだよ?」
「おお、そうだな……全ては明日のために……」
明日のミスター・ミスコン。
エントリーはしているが、まだ出場が決まったわけではなかった。
仕組みとしては、1日目の今日、校内のみでの予選投票が行われ、そこから上位10名のみが明日、2日目の本選へ進み、生徒と外部の客を含めた決選投票となるのだ。
さすが学園主導、無駄に手が込んでいるといわざるを得ない。
「だから今日は一日、気合いいれて働いてもらうよ?」
「と言いつつ、単純に俺をコキ使いたいだけじゃないだろうな」
「ははは」
「お前ぇ……」
だが、明日に進めなければ、なんの意味もない。
今日は甘んじて、労働を請け負おう。
それにしても。
「なぁ、やっぱなんか変なんじゃないか、俺」
「どうしてそう思うのかな?」
「視線が痛い」
「ああ、それは気にしなくてもいいよ、痛くない痛くない」
「本当かよ……」
今日は朝からこればかり言っている気がするが、仕方ない。
本当に大丈夫なのかよ……。
と、言ってられるのも、朝のうちだけだった。
実際イベントが始まると、忙しいのなんの……!
「お待たせいたしました、ケーキセットになります……ごゆっくりどうぞ」
こんなよくあるカフェの模擬店なんて、そうそう人が来るとは思わなかったんだが……。
やはり、五百里とイケメンくん効果は凄いといわざるを得ない。
はぁ、休憩が遠い……!
「藤代くん、3番テーブルに珈琲二つ持っていってー!」
「あ、藤代くん、5番もお願いね!」
「待って、さっきから俺ばっかり行かされてるんだけど!?」
他に暇してる奴がいるのに、どうして俺ばかりが行くことになるのか、解せぬ。
「まーまー、明日のミスターコンの為だと思って!」
「くっ……はいはい、働きますよって……申し訳ありません、お待たせいたしました」
くそぉ、店ならこれだけ働けば、お時給という形で返ってくるのに……!
という苛立ちを胸にしまいこみ、ニコリと笑顔。
接客業は笑顔が大事、笑顔が大事と繰り返す。
あー、癒しが足りない……。
「藤代くーん、次のお客様お願いしてもいいですかー?」
「はーい、わかりました! いらっしゃいませー……って、に……天音じゃないか」
「えっ……あれっ、先輩……?」
「来てくれたんだな」
「な、なんか先輩が……すごいすっきり……あれっ?」
「ああ、昨日音琴に連れて行かれてな……変じゃないか?」
癒しが欲しいと思っていた時に、タイミングよく癒しが目の前に現れたおかげで、テンションが上がる。
……おお、これがこの前言ってた、二菜のクラスの茶衣着か!
うん、想像していた通り、やっぱり可愛い。
「可愛いなそのかっこ、天音によく似合ってる」
「ふぇっ!? あ、ありがとうございます……先輩も……今日かっこいいですよ……?」
「そうか? いつものバイトと同じような格好なんだけど」
「いえっ! 知らないうちに髪もさっぱりして……ほんとに、かっこいいです……」
「そ、そりゃどうも……」
あ、ヤバイ、今顔赤くなってるかもしれん。
二菜も耳まで赤く……ってだから恥ずかしいなら言うなよな、お前も……。
「あのー藤代くん、入り口で彼女とイチャつくのやめて、席に案内してくれない……?」
「「!?」」
周りを見渡すと、ニヤニヤとこちらを見ているクラスメイトの皆さんにお客さん。
天音が連れてきた友人に、憎憎しげにこちらを見ているイケメンくんが……。
「か、彼女じゃないんだけど!」
「か、彼女です!」
「「…………」」
沈黙。
「お、ま、え、は、な、に、をー!」
頭を掴み、ギリギリと握りこんでやる。
こういうとき、こいつの小さい顔は握りやすくてとてもよい……。
「痛いです先輩! なんですかもう彼女って事にしておきましょうよここは!」
「せめて時と場所を考えろ……!」
「もう! なんでですかー! これ以上のシチュエーションなんて……」
「藤代くん、イチャつくなら、せめて席に案内してからにして~!!」
しまった、教室内どころか、今は外にも待ってる人が……!
あ、だめだこれ、めっちゃ注目されてる……。
「し、失礼しました、こちらへどうぞ」
「お願いします……」
ああ、顔が熱い……!
あとで覚えとけよ、二菜……!!





