ドラマも何もないただの午後の一幕
「温泉行くか」
「また急ですね先輩……」
9月の3連休。
今年はどうしようか……と考えている時に、そういえばとふと思い出したのが、「広い風呂で思う存分足を伸ばしてゆっくりしたい……」だった俺は、温泉旅行を提案していた。
本来であれば泊まりで行きたいところだが……。
「前々から考えてはいたんだけどな……ま、とはいえ日帰りなわけだが」
「くふふ、お泊りで行きたかったですねー! ……あ、混浴とか、しちゃいましょうか♡」
「いいなー混浴……一緒に入るか、二菜!」
「うええっ……! あ、あの……ほ、本気です?」
しどろもどろになりつつ、チラチラとこちらを見てくる。
そんな耳まで赤くして恥ずかしがるなら、言わなきゃいいのに。
「冗談だよ、冗談。 さすがにそこまではしないわ」
「あ、そ、そうですか! はー、残念だなー!」
「それに、妹と一緒に入る趣味はないし」
「もー! また妹ー!」
いやまぁ本音では入りたいですけどね?
流石に混浴とか、俺の理性が心配になるので勘弁して欲しい。
「じゃあ、次の連休は温泉行くってことで」
「了解しました! ……でも、天気大丈夫ですかねー……」
「そうだなぁ……最近雨、多いしな」
ふと窓の外を見ると、今日も雨。
むしろ、大雨と言ってもいいほどの量だ。
数日前から降り出した雨は、時折小雨になるもののやむことはなく、今も降り続けていた。
「さすがにここまで雨が多いと、洗濯が困りますよねぇ」
「乾燥機があるからまだうちはいい方だけどな」
「部屋干ししなくてよくなるので、先輩のおうちには感謝です!」
そういいながら、自分の洗濯物を畳む二菜。
さすがに下着類は持ち込んでいないとはいえ……。
「なんつーか、お前もうほぼこの家住んでるみたいになってきたな」
「最近、自分の部屋が寝に帰るだけになってるのを感じます……」
「家賃、もったいねぇ!」
「くふふ! やっぱり先輩と私で、部屋借りて同棲しちゃいましょうか♡」
「お誘いを頂き至極光栄に存じますが、辞退させて頂きます」
「もー! なんでですかー!!」
なんでですかーってだから俺の理性の問題がですね!?
一緒の部屋で四六時中……って、今もあんまり変わらないか。
あれ、そう考えると、別に俺にそんなにデメリットない気がするな?
「……まぁ、この先もこんな感じなら、いつか検討してもいいかもしれないなぁ……」
「先輩もようやくその気になってくれて、私嬉しいです!」
「かといって、別に一緒に住むとは一言も言っていないわけで」
将来的にそうなれたらいいなぁとは思うけど。
高校生のうちから同棲ってどうなんだ? なぁ、母さんや……。
そう考えると、あの人の行動力はヤバイ。
……怖くなかったんだろうか?
急に父さんの部屋に押しかけて、そのまま一緒に住もう、なんて。
拒絶されたらどうしよう、なんて考えなかったのかな?
「今度、母さんに聞いてみるか……」
「え、お義母様ですか? 今LINEしてますけど」
「君ら、ほんと仲良くなったね!?」
下手したら二菜のほうが仲いいまであるんじゃないか!?
たった2回しか会ってないのに……。
「お義母様は私に色々とアドバイスを授けてくださる、神様のような存在ですからね!」
「そのアドバイスの内容、色々と問い詰めたい気もするけど……」
ろくでもないwikipediaとか、攻略サイトみたいになってそうで怖い。
大丈夫? 母さんの情報だよ??
「よし……洗濯物終わりました! あとで片付けておいてくださいね?」
「了解、いつも悪いなぁ」
「それは言いっこなしってやつですよぉ先輩」
くすくす、と笑いながら俺の隣に腰を下ろした二菜のひざに、頭を乗せる。
ここ最近では、いつもこうして膝を借りているんだけど……うむ、気持ちいい。
「一雪お兄ちゃんは本当、最近遠慮がなくなりましたねぇ」
「お兄ちゃんをどんどんダメにしようとする妹がいるからな」
「くふふ……そのままどんどんダメになっちゃうと、そのうち私がいないと生活できなくなりますよ?」
「正直、今もかなりヤバイとは思ってる」
料理に洗濯と、頼りっきりすぎて本当にヤバイ。
これで二菜にフラれでもしたら……おお、考えるだけで恐ろしい。
もう春以前の生活に戻れる気がしないぞ……!
「それにしても……雨、やみませんね」
「だなぁ……」
「連休中、雨が降ったらどうします? 温泉」
「その時はしかたない、雨天休止だ」
「じゃあその時は……冬にまた、お泊りで温泉行きましょうね!」
「ま、考えとく」
「くふふ……はいっ!」
こうして、特に何事もなく、俺と二菜の一日は過ぎていく。
結局、連休中も雨がやむことはなく、俺たちは温泉へはいけなかった。
そして、時間は回り、秋。
とうとう、学園祭の時期がやってきた……。





