土砂降りの日は外に出てはいけません!
週明けの月曜日と朝から憂鬱な上、今朝は朝から生憎の大雨。
雨の日の通学って嫌だよね、裾がずぶ濡れになっちゃうから。
それだけでやる気大激減なのに、外を見ると土砂降りなんてものじゃない状況で。
もう休みにしちゃえよ、こんな雨なんだから。
そう思いながら、マンションのエントランスから、天音と二人、空を見上げた。
「いやー、朝からほんと、雨やっばいですねこれ」
「なー、今から学校まで行く、こっちの身にもなってほしいよなぁ」
「友達が何人か自転車で来てるんですけど、大丈夫なのかなぁ」
「えっ、天音って友達いるの……!?」
「い、いますよ!? 失礼ですね先輩は!!」
藤原さんとかー三浦さんとかー、と何人かの名前を挙げていくが、どれも聞いたことのない名前ばかりだ。
……まぁ、一年生の名前なんてほとんど知らないわけだけど。
ていうか友達がいるなら、友達も大事にしろよ、マジで。
放課後に一緒に遊びに行こうとか誘われないもんなんだろうか?
「だ、だいたい、先輩だって友達いないじゃないですか! 香月先輩と音琴先輩以外と話してるところ、見たことありませんよ!?」
「お、俺にだっているわ! ……宮藤さんとか……」
宮藤さんとか……あとはえーっと……
イケメンくん?
ないわ、ないない。
「とかの後、続いてないじゃないですか! むしろ私より酷いじゃないですかー!」
「はっ、友達なんかいなくたっていいんだよ、俺にはスマホの中に、たくさんの同僚がいるからな……俺と同じ、アイドルプロデューサーが……!」
「ゲームじゃないですか! しかも会ったことないような!」
「ふっ、俺たちは固い絆で結ばれている……同じアイドルのPとしてのな……!」
「だめだこの先輩、早く何とかしないと……!」
などと言っていると、さらに雨脚は強くなっていき……。
「……なんか、こう土砂降りになると言い争ってるのがアホらしくなるな」
「ですね……はぁ、でも学校は行かないといけませんし、仕方ありませんよね……」
「よし、頑張って登校してくれ、天音」
「え?」
俺はもう無理だ、こんな雨の中、学校なんて行きたくない。
これ絶対川とか氾濫するレベルの雨だろ、無理無理。
そうなれば話は早い、今日はお休みということにしてしまおう、そうしよう。
期せずして一日が休みになってしまった、さて何をしようか。
アイドルとしゃんしゃんするゲームはちょうどイベントが終わった所で現在谷間の期間、やることはほとんどないわけで。
まぁ、とりあえず昼まで寝て考えよう、そうしよう。
「はいちょっと待ってください、先輩!」
そう思っていたのに、思いっきり腕をつかまれた。
誰が掴んだって? 天音以外いるわけないじゃないか。
「なんだよ、学校なら俺は行かないぞ?」
「いやいや、何一人で帰ろうとしてるんですか、私を忘れてませんか、私を!」
忘れてないし。
忘れてないからこそ、声をかけてから帰ろうとしたんじゃないか!
「優等生の天音さんをサボらせるわけにはいかないじゃないですか、みんなビックリしますよ?」
「じゃあ優等生としては、目の前で学校をサボろうとしてる人を止めざるをえないじゃないですか! 学校行きますよ、学校!」
「やだよ雨降ってる日とか行きたくねぇよ雨が降ったら休んで風が吹いたら遅刻する! これね!」
「どこのカメハメハ大王ですか先輩は……!」
ぐいぐいと俺をひっぱろうとする天音と、帰ろうとする俺で拮抗する。
ぐぎぎ……早く帰らせろ……!
そんな風にぎゃーぎゃーと騒いでいると……。
「つかさくんつかさくん! あそこ見て! カップルが痴話喧嘩してるよー!」
「あー、うん……あの人たち、いっつもああなんだ……お母さんがよく「ふうふげんかはいぬもたべない?」とか言ってるんだよね」
「えー! カップルじゃなくて夫婦なのー!?」
「高校生だけど、似たようなもんでしょだって」
「じゃ、じゃあつかさくんとあたしも、高校生になったらあんな風になるのかな!?」
「えー……僕はあんな高校生になりたくないよ……」
「そっかー、残念だなー!」
「「…………」」
通りすがりの小学生に、思いっきり可哀想なものを見る目で見られてしまった。
しかも、あんな高校生になりたくないとまで言われれば、もうぐうの音も出ない。
おもわず天音と二人、目を合わせてしまい……。
「……学校、行くか」
「そうですね、行きましょうか」
二人並んで傘をさし、歩き出した。
「先輩、さっきの小学生の話、聞いてました?」
「ああ、聞いてた……あんな高校生になりたくないって……!」
辛い、辛すぎる……ていうか、近所の人にまさか噂されてるとは思わなかった。
それに何よりも……。
「くふ! くふふー! 夫婦! 夫婦ですって先輩! まさかご近所さんから、そんな風に見られてるなんて!」
「他人から見たらそう見えるのかと思うだけで、心がずーんと沈むよね……」
「これはもう、結婚を前提にしたお付き合いに発展させるしか!」
「こちらにも事情がありまして、今回の件はお断りさせていただきます」
「もー! なんでですかー!!」
どんよりした雨空に、天音の叫びが溶けていく。
予想通り、雨に濡れた裾を苦々しく思いながら、これなら天音を連れてさっさとサボろうと部屋に帰ればよかったなぁ……と、後悔するのだった……。





