閑話:外から見た二人の距離感
「ねぇ、六花……さすがにこれは、一雪に悪いような……」
「ふっふっふっ、今更何言ってんのよ! こんな面白……いやいや、一雪の今後に関わる問題、見守らなくてどうするのよ!」
「面白……本音が漏れてるよ六花……」
はぁーっ、と五百里に深い溜息をつかれたけど、これはもう仕方ない。
だいたい、五百里だって気になるでしょうが、あの二人が今、どんな感じなのかを!
というわけで。
私……音琴六花と香月五百里は、放課後、一雪の後ろをこっそりとつけております!
なんのためにあんなほかに使いようがいくらでもある、面白爆弾を使ってまであの二人にデートに行くよう誘導したかって、全てはこのためですよ!
これからあの二人が今、どのような感じになっているのかを、実況させていただきます!
さて、現在ですがどう見ますか五百里さん!
「どうって言われても……哀しくなるくらい、一雪がいつも通りだとしか……」
「隣に並ぶ二菜ちゃんは……おっと、一雪の手をちらちらと見てますね!」
「あれは手を繋ぎたいなぁ、とアピールしてるんだね、うん」
「そしてそのアピールにも全く気付かない一雪! 何やってんのよあんた!」
もう後ろから蹴りでも入れてやりたくなるんだけど!
あんな分かりやすい態度なのに、なんで気がつかないのかしらね!
二菜ちゃんもほんと、あれのどこがいいのやら!
「うーん、一雪も気がついてないわけじゃないと思うんだけど」
「それはそれで問題だと思うわ」
「! おっと、天音さんが我慢できなかったみたいだね、自分から手をつなぎにいったよ?」
「よし! それでいいのよ二菜ちゃん! そいつはもう自分からやるしかないわ!」
ふふふっ、一雪のあの顔!
あらあらうふふ、二菜ちゃんも顔真っ赤にしちゃって……初々しいわねぇ。
あ、無理矢理恋人つなぎにまで持っていくとか、積極的ね二菜ちゃん。
それにしても、こうやって離れてみてると、意外とお似合いのカップルに見えるんだけど……。
「あの二人、本当に付き合ってないのかしらね?」
「どうだろうね? 一雪はそんなんじゃない、って言い張ってるけど」
その割には、二人の距離が近いように感じる。
物理的なというか……精神的な距離感? とでも言うべきか。
いや、近づいてるのは二菜ちゃんのほうで、一雪は一定距離を保とうとしている? うーん。
正直。
一雪はあれで結構偏屈な所もあるし、目つきも悪いし口も結構悪い。 ほんと目つき悪い、あの目つきのせいでかなり損してるんじゃないかしら……?
ん? こういうと、一雪のいい所がないような……?
いやまぁ、一雪本人は話してみると結構いい奴だと思うし? あれで案外優しいところもあるんで、そういうところに気がつくいい子がそのうち出てくるでしょ、とは思ってたんだけど……。
「二菜ちゃんって、ほんとに一雪と知り合って1ヶ月程度なの?」
「どういうこと? 一雪は知らないって言ってたよ? 多分、嘘はついてないと思う」
「その割りに……あの子、一雪に心を許しすぎな気がするのよねぇ……」
「まぁ、それは確かに」
どう見ても一ヶ月程度の距離感ではないのよね……覚えてないだけで、本当はどこかで知り合ってた、って言われても信じちゃうわよ。
で、当の一雪は……ガンガン二菜ちゃんに踏み込まれて、今は戸惑い中ってところかしらね?
今も、積極的に話しかけているのは二菜ちゃんに見えるし。
あんな可愛い子にあそこまで迫られて、どうしてあんな塩っぽい対応できるのかしらね?
ほんと、偏屈な男!
「あ、お店に入るみたいだね、どうする? 流石に僕らも入ったらバレると思うけど」
「かといって外で待ってるわけにはいかないでしょ、5分くらいしたら入りましょうか」
「了解」
そうして待つこと5分。
店内へと入ると、流石の混みよう……でも、上手いこと一雪たちと離れた席になったわね。
あとはバレないようにこっそり伺うだけ……。
にしても、おしゃれな喫茶店ねここ。
青いランプに照らされた店内が……ふむ、いい所を教えてもらったわ。
この明るさなら、一雪たちにも多分バレないでしょ。
「先輩先輩、見てください! ここのオススメはこれ、ゼリーポンチなんです! ふふっ、綺麗ですよねぇ……」
「昔から思ってたんだけど、フルーツポンチとかのポンチってなんなんだ?」
「え? えーっとなんでしたっけ、もとは『パンチ』っていうお酒にフルーツを入れた飲み物……からポンチに変化したんだったかな?」
「ふーん……なんかもうちょっとなかったんかね、おしゃれな言い方」
「もうっ! ほんと先輩、そういうところですよっ!」
ほんとそういうところよ、あんた。
綺麗ですよねーって女の子が喜んでるんだから、あんたもそうだね、でも二菜のほうが綺麗だよ、くらいいいなさいよ!
「六花はどうする? 僕はコーヒーでいいかなぁ」
「……じゃあ、私は二菜ちゃんオススメのゼリーにしようかな?」
「六花もなんだかんだ言って、そういうの好きだよね」
「……別にいいでしょ」
「ふふっ、もちろん」
「ふんっ」
つい照れくさくなって、ぷいっと横を向いてしまう。
すると、相変わらず楽しそうに話す二菜ちゃんと、ふっと眉間のしわが取れて、優しそうな顔をする一雪が目に入った。
……へえ、一雪があんな顔するなんてねぇ。
案外、一雪が落ちるのもそう遠くないかもしれないわね。
「あーあ、それにしても、ついに一雪も彼女持ちかぁ」
「寂しい?」
「どうかしらねー、やっとかーって気もするし……」
「最初、一雪と六花が仲良くなって、あとから僕が入ったんだよね」
「あれは仲良くっていうのかしらねぇ……」
気がつけば、あいつとももう4年近い付き合いだ。
あいつとは……あいつとはなんだろ? 喧嘩友達? みたいな感じだったのかな?
なんだかんだと言って、仲がよかったのはよかった、とは思う。
一雪が私をどう思っていたのかは……まぁ、うん、なんとも言わないケド。
「はー! もうあの二人、さっさと付き合っちゃえばいいのに!」
「遅かれ早かれ、だと思うよあの二人は。 というか、多分天音さんが一雪を逃がさない」
「ほうほう、その心は?」
「天音さんの狡猾なところは、一雪本人の知らないところで、外堀をどんどん埋めてるところだね」
曰く、すでに五百里のクラス内では一部を除き、「あの二人は付き合っている」という空気が出来上がりつつあるとか。
それを少しずつ少しずつ教室内、校内へと浸透させていき、気がつけば逃げられない! という状態になるんじゃないか、と。
「そしてその頃には一雪もなんやかんやと天音さんに絆され、結果逃げられないようになりました、と」
「一雪じゃないけど、二菜ちゃんの愛が重くて怖いわ……」
「ふふっ、ほんと、愛されてるねぇ一雪」
そこまでするってことは、絶対二菜ちゃんは一雪のことを以前から知っているはず。
でなければ、出会って早々、無愛想で愛想の欠片もない、偏屈男の一雪にそこまで拘る理由がないのだ。
一体、二菜ちゃんの過去に何があって、そこまで一雪に拘るのか知らないけど……。
いつかあの二人の馴れ初め、聞かせてもらいたいわね。
その後。
やってきたゼリーポンチは、さすが二菜ちゃんのオススメ! と思うほどに綺麗で。
気がついたら、一雪と二菜ちゃんの姿は消えていた。
「やらかしたぁ……!」
「これもう、僕たちも普通のデートしてるようなもんだね」
「ま、見たいものも見たし……いっか」
「じゃ、僕らもそろそろ行こうか」
「そうね」
……今度はゆっくり、来たいわね、一雪関係なしに……。
いいお店を教えてもらった、と空に向かって、私は二菜ちゃんにお礼を言うのだった……。





