その教科書、大丈夫?
「それで、最近、天音さんとはどうなのかな?」
「どうなの、とは?」
「相変わらず仲良くしてるみたいだけど……そろそろ付き合いだしたりした?」
「はっ、ありえねー」
天音と知り合って……だいたい1ヶ月半ってところか?
なんやかんやと色々とあった気もするが、別に天音と何かあった、という事実は存在しなかった。
まぁ、毎日人の家にきてメシを食って帰るようになったのはどうなの? と思わなくはないが、誰にも言う気はないので、特に問題はないだろう。
……うちの母さんと連絡を取り合うようになったのも……まぁ、問題はない……と思う。
「ほら、デートに行った、とかそういう……」
「ないない、そもそも俺がそんな風に出かける奴にみえるか?」
「見えないけど、相手があれだけ積極的な天音さんだからねぇ……」
「はっ、俺を連れ出せるもんなら連れ出してみろっていうんだ」
ちなみに、GWのアレは母さんのせいなのでノーカンだ、あれはデートではない。
デートってもっとこう……ほら、あれじゃない?
お互いがお互いを想いあってる男女が、デートだ! って思って出かけないとダメじゃない?
つまり俺と天音はデートなどしていない! 完全な証明だ……。
「え、でもこの間、天音さんと一緒に歩いてる藤代くんに会いましたよ?」
「宮藤さん!?」
「あれは、どこからどう見てもデートだった気がするなぁ」
「……へぇ、それはまた……仲良くしてるんだね、一雪」
しまった、まさか宮藤さんが後ろから撃ってくるなんて思わなかった……!
信じていたのに! 宮藤さんは、俺の味方だと思っていたのに!
「ち、違う、あれはデートじゃない! 宮藤さんにもそう言ったよね!?」
「でも、あんな仲よさげに歩いてたら、デートに見えるんじゃないかなぁ……」
「俺から仲よさげにした覚えはありません!」
おれじゃない
あまねがやった
しらない
すんだこと
である。
ただ気持ちよく散歩をしていただけなのに、とんだ風評被害だよまったく。
「女の子と男の子とじゃ考え方は違うのかもしれないけど、女の子からみたらやっぱりデートに見えるんじゃないかな?」
「マジか」
「想いあってる二人じゃなくても、どちらか一人が相手を想ってるなら、それもう立派なデートだなって」
「なるほど、じゃあやっぱりデートじゃないな!」
「えぇ……」
いやいや、だってあいつが俺を好きとかないでしょ?
そうやって油断したところに、飲める洗剤を持ち込むつもりなんだからな。
あ、消火器だったか? まぁ、いいや。
「あはは、なんやかんやいいつつ、天音さんと仲良くしてるみたいで安心したよ一雪」
「五百里……お前は俺の父親かなんかか」
「ふふっ、藤代くんはなんとなく、心配になっちゃうんですよね、わかります!」
「そして宮藤さんは俺の母さんかよ! それより恋人になってください!」
「うーん、天音さんと二股かけようとするような人はパスかな?」
「宮藤さん!?」
なんてことだ……っていうか、誰が二股だ!
おのれ天音め……今度からは強めにばしっと言ってやらないと!
そんな風に三人で談笑していると、音琴が教室へと飛び込んできた。
「ごめん五百里! 今日こっちのクラスって数Ⅱあったっけ?」
「いや、うちは今日はないなぁ……どうしたの? 教科書忘れた?」
「一式全部忘れちゃって……はー、他の教室行ってみるかぁ」
ほう、音琴が教科書を忘れるなんて珍しいな……。
こいつ、ちゃらんぽらんそうに見えるけど、意外と真面目なんだよなぁ。
何気に俺より成績がいいってのが、本当に信じられん。
どこから見てもちゃらんぽらんなのに……!
ま、それはそれとして教科書、教科書ねぇ。
「ちょっと待て音琴、俺持ってるぞ、数Ⅱ」
「……なんで数Ⅱの授業ないのに、持ってんのよ」
「一雪は全部、置き勉してるからね」
「こんな重いもんを毎日持ち運んでるお前らが、俺は信じられないよ」
「持って帰らないで、どうやって予習するのよ……」
「なんだ、貸してやらないぞ?」
「貸してくださいお願いします!」
ぱんっ! と手を合わせ拝まれる気分は悪くない、仕方ない貸してやろう。
そう思いつつ、カバンの中から教科書を取り出した。
昨日は課題のために一旦持ち帰っていたが、そのまままた置いておくために持ってきたんだよな。
みんなもやろう、置き勉!
ただしテスト期間には持ち帰らないといけないから、そこは注意だぞ!
「一雪さんきゅ! 今度珈琲おごるから!」
「おー、いつものやつな」
「いつものね! 五百里もまたお昼にね!」
「うん、また後でね」
この時の俺は気付いていなかった。
昨日持ち帰った教科書に、アレが挟まれていた、ということに……。





