これは没収! 没収です!!
「なんとなく、これやらされるんじゃないかって気はしてたんだよ……」
「くふふー! さすが先輩、よく私の事わかってますね! なんですか愛ですか私のことそんなに愛してるんですか!」
「愛がなくてもお前の行動は予測できるんだよ!」
「くふふー! 愛してる男性に理解してもらえる、この喜び……!」
「だめだこいつはやくなんとかしないと」
会話が成り立っていない……!
まぁそりゃね、天音がプリントシール撮りたい、って言わないの不思議だなとは思ったんだよ。
こいつなら、真っ先に撮りたい! って言うよなぁ、なんで言わないんだろうって。
……まぁ撮りたいって言われても、じゃあ一人で撮れよって返したと思うけどさ。
まさか、こんな断れない状況に追い込まれるとは思わなかったけど……。
「私、一回でいいからこれやってみたかったんですよねー!」
「なんか、お前がそれ言うと不思議だな」
「なんでです?」
「いや、こういうのって好きだろ? 女の子って」
「うーん、最近はそうでもないみたいですよ? 以前ほど、手帳にべったり! なんて見かけませんし」
そういいながら、硬貨を投入口に入れ、操作を進めていく。
ふむふむ、と説明を聞きながらの天音は、今にも鼻歌でも歌いだしそうなほどに上機嫌だ。
「その割にはえらく楽しそうじゃないか」
「くふふー! そりゃそうですよ! 好きな男の子とこれを撮るのは、一つの憧れでしたからねー!」
「……さよか」
そんなに嬉しそうに好きな男の子とか言われると、流石に照れると言うものだ。
思わず、ついに鼻歌を歌い出した天音から目を背けてしまう。
そしてそうこう言っているうちに、準備が整ってしまい……。
「さぁ先輩、撮りますよ!」
「はいよ」
「って、何突っ立ってるんですか! さぁさぁこっちに! もっと私のほうに来てください!」
「……えー……どうしても行かなきゃダメか?」
「もー! もっとくっつかないとフレームに入らないじゃないですかー! ……ってもう! ほんと先輩、ちょっとおっきすぎ!」
「お前がちっこすぎるんだよ」
いやそれにしても、これはちょっとくっつきすぎじゃないか?
いくらフレームの中に二人入れるためとはいえ、顔がめっちゃ近いんだけど!
いくら俺でも、流石にこいつの顔が目と鼻の先の位置にあると緊張するわけで!
ちょっと横向いたら、天音の顔に鼻先が当たっちゃうぞこれ。
「な、なぁ、もうちょっと離れないか? 流石に近すぎるだろこれ」
「え、なんでですか? フレームに入りきらないじゃないですか」
「うーん……例えばお前が前で、俺が後ろに立てば、そこまでくっつかなくても入れるんじゃ?」
「なるほど! つまり後ろから先輩が私をハグしてくれるってことですか! くふふ~、先輩大胆です!」
「ちがうそうじゃない」
余計ヤバい体勢を取ろうとさせるな!
真横に天音の顔があるよりよっぽどヤバいわ!!
なんかこう……もっとないのか、顔をここまでくっつけなくてもいいような……。
「ほらほら、先輩そろそろ撮りますから、ちゃんとカメラ見てくださいね!」
「あーもう! わかったよ、これで撮ればいいんだろ、撮れば!」
うひぃ、天音の頬が顔の真横に……!
さ、さっさと撮ってくれ!
「はーい、5,4,3,2,1……ぱしゃり! はい、もう一枚撮れますから、そのままですよー先輩!」
「おお……もう早くしてくれ……」
いっそ殺してくれ……!
辛い……この体勢、本当に辛い!
学園の連中には、絶対に見せられんな、このシール……。
「はーい、5,4,3,2,1…………んっ!」
「へっ?」
――――その時、頬に何か、柔らかなものが押し当てられた。
その感触に驚き、ばっと天音から離れると、ほんのりと頬を染めつつも、悪戯が成功したような笑みを浮かべる笑顔が目に入り……。
「お、おま……お前、今、なにやった!?」
「……くふふ! さーて、何やったでしょうかっ」
「何やったでしょうか、じゃないだろ……!」
「えーっと、今の2枚目はー♪」
ぽちぽちと画面を操作し、今撮られた写真を表示していくと……あった。
画面にでかでかと写しだされる、俺の頬に口付ける天音の写真が!
こいつ、ほんとにやってやがった!
もしかしたら、指を手に当てるとか、その程度の可能性もあるかと期待したのに……!
「いやー、いい感じに撮れてますねぇ、先輩♪」
「いやいやいやこれはダメだろ天音、消せ! 処分しろ!」
「くふふ! いやでーす! えーっと、日付とー、制服デート記念♡ っと……」
「おい!」
「はい印刷っと! ……くふふ! スマホに貼って毎日眺めよーっと!」
スマホに貼る?
この写真を?
……学園で、他の人間に見られるような可能性があるのに?
その時、背筋を冷たいものが伝うのがわかった。
普通の写真程度ならともかく、この写真はまずいなんてものじゃない!
「ダメです、これは没収です!」
「あーっ! 先輩返して! 返してください~!!」
「絶対返さない、絶対にだ!」
そういいつつ手を上に上げてやればもう天音の手は絶対に届かない。
恨めしそうな涙目で、その場でぴょんぴょんと飛び跳ねる天音がちょっと可愛らしいな……なんて思ってしまったのは、ここだけの秘密にして欲しい。
「うー! ずっこい! 先輩おっきくて、ほんとずっこいんですけど!」
「はっ、悔しかったらさっさと身長伸ばすんだな! これは俺が預からせてもらう!」
「酷いです! なんでもお願い聞いてくれるって話しだったのに!」
「それは写真を撮るところまでで、その後までは保障しておりません、ご了承くださいますよう、お願いいたします」
「もー! なんでですかー!!」
そうして、問題の写真は俺の部屋の奥底に封印されることになったわけだが……。
いつか、こいつが大問題を起こしそうな気がするのは、俺の気のせいだろうか?
なんとなく捨てよう、という気にはならなかった。
願わくば、この忌まわしい記憶が二度と表に出ないことを願うばかりである……。
「うう~、絶対先輩がいないあいだに、回収するんだから……っ!」
「なんか言ったか天音?」
「いーえ! なんにも言ってません!!」
「そうか」
……願うばかりである。





