(なんでもとは)言ってないです
前回のあらすじ
テトリミノの対戦ルールも何も知らない天音をぎゃふんと言わせるための戦いが、今、始まる!!
今フラグとかいった奴、あとで体育館裏な。
さて、まずは最初に落ちてくるテトリミノを確認……その先も……よし、おおよそ理想的……早々にLとJ型ブロックが降りてくるおかげで、一番綺麗な形で組めそうだ。
これ、LとJが後半に回されるのが一番辛いんだよね……基本的に土台になるのがこいつらだから。
さぁ天音よ! これが、テトリミノ序盤のテンプレだ! 驚くとい……い?
――――その時、俺は何が起こったのか、一瞬理解できなかった。
まだ開始30秒と経っていないにも関わらず、天音から送られてくるお邪魔ブロック。
そうしてごごんとお邪魔ブロックでせり上がる、俺のテトリミノ。
もう開幕テンプレが云々などと言っていられるような状況ではないのは明白で……。
「おいおいおい、ちょっと待てよ!」
「くふふー! 待ちません!」
「な、なんで序盤からこんなにお邪魔ブロックがってまた来た!?」
「こうして、こうして、こうして、こうして、消して消して消して消して……」
やばいやばいやばい、早く消さないと!
消さないと……ああ、もうだめだ、消すのが間に合わない……スペースが! 回転させるスペースが!
「勝ちましたっ! ぶいっ!!」
「ま、負けた……だと……!?」
「ふふーん、どうです先輩! 私もそこそこやれるみたいですよっ!」
「そこそこどころじゃねー!」
なんださっきの!
あんな速さでお邪魔ブロック送り込めるとか、どう考えても尋常じゃないぞ!?
なんだこいつ、テトリミノの申し子かなんかかよ……。
「あ、天音……悪いんだけど、ちょっとソロで一回プレイしてみてくれ」
「はい? 別にいいですけど、普通にやってるだけですよ?」
「まぁそりゃそうなんだろうけど、ちょっとな」
見せてみろ天音……お前がさっき、何をしていたかを!
そう思いながら天音を見つめていると、天音の白い肌がほんのり桜色に染まっていくのがわかった。
なんだこいつ、風邪でもひいてんのか?
「え、えへへ……そんなじーっと見つめられたら……照れちゃいますね……」
「ああ、俺の事は気にしないで、さっきと同じようにプレイしてくれ」
「えーっ、む、無理ですよぉ……先輩に見られてたら、緊張しちゃいます!」
「大丈夫大丈夫、さっきと同じようにやるだけでいいから」
「先輩にそんな風に見られてたら、できるものもできません~!」
そういいながら、天音の耳までほんのり色づいていく……が、そんなことはどうでもいい。
俺は天音のプレイが見たいのだ!
開始前はぎゃーぎゃーとあれこれ言ってはいたが、テトリミノが降ってくる頃には集中し始め、天音の目がどんどんぼー……っとし……ち、違う! これはぼーっとしてるんじゃない……!
画面の全体を視界に納めてるんだ……!
いちいち目線を動かさないでいいから体力消費も最小限!
しかも、落す場所を決めるのが異常に速い!
ミノが画面に現れたとほぼ同時にハードドロップで一気に落すから、消すまでも速い! この判断力が、天音の最大の強みだろう。
そして一番何が違うって……ブロックの組み型が違う!
「こいつ……ソロ専だって言ってたくせに、中開けのRENを……!」
中開け。
それはテトリミノで対戦する時、もっとも火力を出しやすいと言われている組み方の一つだ。
上級者ともなると、この中開けで火力の押し付け合いになるのもよくある話だが、当然この組み方は難易度が高い。
しっかりブロックの先読みをし、隙間を開けずきっちり両端3列を組み上げるセンスを必要とされる、難しい組み方なのだ。
しかし……天音はそれを、平然とやってのけている!
これを見て、俺は確信した! こいつは生粋の対戦プレイヤーだ、間違いない!
ソロ専がこんなミノの組み方するわけない! 普通の人は、端一列を開けるようにして組むんだ! 対戦を意識しないと、中を開ける組み方なんて絶対しない!
その後もどんどん積み上げては連続で消していく天音。
速度がどれだけ上がっても、その積み上げる精度は変わらず……。
「とまぁ、こんな感じなんですけど……」
「お前……めちゃくちゃ上手いっていうか、めちゃくちゃ強いじゃねーか!」
「え、そうなんですか? 私、凄いんですか? えへん!」
どやさどやさ、と物凄いドヤ顔して胸を張ってるのがイラっとする!
「ていうかお前、テトリミノの対戦初めてじゃなかったんだな」
「え? 初めてですよ?」
きょとん、とした顔をする天音……え、本当に初めてなの?
う、うそだぁ……!
「初めてなのに、なんであんな組み方してたんだ? 普通、端っこ開けないか?」
「あー、それ、お父さんにも言われたことあります! なんで端っこ開けないの、って」
「普通はそうやって、縦ブロック突っ込んで4列消し狙う人多いんだけどなぁ」
「お父さんもそうしてましたし、それが普通なんでしょうけど……」
俺もそう思う。
それがテトリミノの基本の動き方だと思うし、RENを組むにしても、端っこ3~4列開けるほうが、簡単に組めるはずだ。
「でも、端っこ1列より真ん中開けたほうが、列整理の選択肢の幅は広いですよね!」
「ふむ」
「だって端っこ一つだと、もしもって時に縦棒以外が来たときの逃げ道がないじゃないですか」
「それにちゃんと気付けるお前は、ほんとさすがだよ……」
「えへへっ、そう褒められると照れちゃいます!」
そうだったんだよ、忘れてたけどこいつ、頭いいんだった!
普段アホなことしか言わないからすぐ忘れるんだけど……全然頭よさそうに見えないんだけど!
ばか! 一番ばかだったの俺じゃないか! いい加減学習しろよ、俺!
「ま、それはそれとして……くふふっ、私の勝ちは勝ちですよね?」
「おー、そうだな……お前の勝ちだわ」
「ふっふっふっ! さーて、先輩には何してもらっちゃおっかなー?」
「な、なんでもはダメだからな! なんでもは!?」
「えっ、でもなんでもって」
「なんでもとは言ってないです」
言ってないったら言ってない!
そもそも、なんでも~って言い出したのお前だろ、天音!
はっ!? ま、まさか結果的に自分が間違いなく勝てる、と思っていたからこそ、あんな賭けの条件を出してきたのか!?
おのれ天音二菜……汚いなさすが天音二菜きたない。
「じゃー……先輩! 私、先輩とアレ、したいです!」
「えっ、アレ?」
「くふふ……はい、アレです♡」
そんな天音が俺としたいと言ったアレ……。
女子高生ならみんな大好き、プリントシールの筐体が、目の前に現れた……。





