天音二菜はゲーセンに行きたい
天音をつれた放課後。
いつものように買い物をし、いつものように帰宅する。
そんなルートをたどっていた時だった。
「あ、先輩先輩、私、一回ゲームセンターに行ってみたいんですけど」
「え、お前行ったことないの?」
「えへへ、お恥ずかしながら……」
まさかこの時代に、一度もゲーセンへ行った事がない人間がいるとは……。
小学生の頃からよく遊びに行っていた俺にとって、そのような人間がいるとは信じられないことだ。
ていうか、女子高生ってゲーセン行くんじゃないの? プリントシールの奴やったりするんじゃないの?
なんとなく、女子高生とはそういう生物だと思っていただけに、天音の行った事がない、は想定外だった。
あれ、そういえば天音が友達と遊んでる、とかそういうの見たことない気がするなぁ。
あっ。
「そうか……天音、お前には一緒にゲーセン行ってくれる友達がいないんだな……可哀想に……」
「ち、違いますよ! 中学生の頃は行っちゃダメって言われてましたし、高校入ったらずっと先輩と一緒だからですよ!?」
……それはそれで問題じゃなかろうか?
こいつ、俺が卒業したあと、1年あるのわかってんのか?
大事だぞー友達は、俺が言えたことじゃないけど。
「まぁまぁ、俺のせいにしなくてもいいから、わかってる、わかってるからな天音」
「むぅ、なんか優しげな先輩の眼差しが、今日はちょっとイラっとします……!」
そんな可哀想な天音は、俺がしっかりゲーセンへ連れてってやらねばなるまい。
というわけで。
帰り道を少し外れ、バイト先の近くにある、ボーリング場に併設された、大型のゲームセンターへと天音を連れてきてやった。
ここは1Fがキャッチャーやプリント等のカップル・女性向けとなっており、上へと上がるほどにメダルやビデオゲームと内容が濃くなっていくのだ。
とは言え、天音が遊ぶならば1F程度で十分だろう。
上へ行く必要はない。
大人しくキャッチャーで無駄に金を使って、しょんぼりと帰るといい。
あ、俺に期待するなよ? 俺は苦手だからな、キャッチャー!
「へぇ、ゲームセンターってこんな感じなんですね! 結構綺麗でビックリしました!」
「どんなとこだと思ってたんだよ」
「うーん、はんばーぐみたいな頭した不良さんが、タバコ吸いながら遊んでるところ?」
「何年前の知識だそれ……昭和か!」
しかもなんだハンバーグって。
誰の頭がサザエさんみてーだって? ってキレる不良でもいんのか、そのゲーセン。
逆に今だからこそ見てみたいわ。
「今は見ての通り、女の子同士からカップルまでが楽しめる、健全な遊び場だよゲーセンは」
「なるほど、カップル、カップルですか……」
「なんだよチラチラ見て」
「くふふー! 私と先輩も、カップルに見えてるのかなって♡」
「まぁ、いいとこ兄と妹ってとこだな」
「もー! なんでですかー!!」
いやまぁ、実際は知らないけどさ。
ただカップル……うーんカップルねぇ。
「何度も言うように、あと5センチ伸ばしてから出直してくれ」
「ふーんだ、それくらい、すぐ伸びますよーだ!」
「おう、期待してるからな」
「まったく……牛乳飲む量、増やさなきゃ……!」
ぼそっと呟いた天音の言葉が聞こえてしまった……あまりにも涙ぐましい努力である。
まぁ、そんなことよりも。
「で、天音はどれをしてみたいんだ? ここならだいたいのものはあるぞ」
「そうですねぇ……先輩はいつも、どんなゲームをしてるんですか?」
「俺か? 俺はこのフロアにはないようなのをやってるから……もっと上だな」
「じゃあ、上に行きましょう! 先輩がどんなのやってるか、見てみたいです!」
おっと、これは予想外な展開だな。
天音のことだから、プリントシール系のをやりたがると思ったんだが。
「先輩と撮りたいんです!」とか、絶対言うもんだと思ったんだが。
「いいけど、お前がやって面白いもんがあるとは思えないんだけどいいのか?」
「大丈夫です、行きましょう!」
「あっ、おい待て! 手を! 手を握るな!」
「くふふ! よいではないかよいではないか~♪」
よくねぇよ!
こうして無理矢理天音に手を引かれ、俺たちは上階へと足を踏み入れたのだった……。





