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(WEB版)凄くモテる後輩が絡んでくるが、俺は絶対絆されない!  作者: yuki
第二章 : 俺は絶対に絆されない!
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特になんてことのない二人の夕方

 

「せんぱーい、そろそろごはん出来ますから、お皿出してもらえますかー?」

「大皿? それとも普通の皿2枚?」

「大皿と小皿でお願いします、真ん中にでーんと置きますので、二人で食べましょう!」

「了解」


 天音が来るようになってからはや一ヶ月……と少し。

 気がつけば、俺の部屋も大きく変わってしまった。

 台所には調味料が並び、調理器具がそろい。

 以前は数枚しかなかった皿も、今や大皿小皿にどんぶり鉢とより取り見取りだ。


「はーい先輩できました! 今日は二菜ちゃん特製の酢豚ですよー!」

「パイナップルは」

「抜きです!」

「よし、それじゃあいただきます」

「はーい、私もいただきます!」


 それにだ。

 以前は一人、まぁあっても五百里がたまに来るくらいで、この食卓に人が並ぶことなんてなかった。

 それが今やどうだ。


「せんぱーい、どうですか? 美味しいですか?」

「たまねぎ美味しい」

「くふふ! 先輩は本当にたまねぎ好きですねぇ!」


 そういえば……こいつに初めて作ってもらったときも、たまねぎ入れてくれって言ってた気がするな。

 あの時食べた生姜焼きも……旨かったなぁ。


「正直たまねぎがあれば生きていける気すらする」

「さすがにそれは好きすぎると思いますよ……?」

「いやいや、たまねぎはマジですごいから、神の食べ物だから」

「そこまでですか!?」

「まったく、たまねぎは最高だぜ!」

「私は時々、先輩がわからなくなります……」



 食卓には暖かい料理が並び、俺の目の前では、常に騒がしい後輩が目の前でにこにこと夕飯を食べている。

 騒がしすぎて、ちょっとはゆっくり食べることは出来ないのかお前は……と思わなくもないが、実はこんな時間が、俺は嫌いではなかった。

 ……今まで考えたこともなかったが、一人で摂る食事は、思いのほかつまらなかったようだ。


 それにしても、本当に天音は料理が上手い。

 最初に比べて、ちょっとずつ俺の口に合うように味が変化してきているのも侮れない。

 このたまねぎなんてほんと絶品で……くそっ、こいつめ……俺の好みの味を把握して、どうしようっていうんだ……!



「………くふふっ」

「なんだよ」

「いえいえー、やっぱり先輩が美味しそうに食べてくれるの、嬉しいなって」

「なんだそりゃ……変な奴だな」

「ええ、私は変な奴なんです! ですから先輩! 私とお付き合いして、毎日私のお味噌汁を飲んでください!」

「せっかくのご提案を頂いておきながら誠に遺憾でございますが、現時点では不要であるとの判断が下されました為、今回はお見送りいたします」

「もー! なんでですかー!!」

「だいたい毎日味噌汁云々ってそれ、男側のプロポーズのテンプレじゃねーか」

「まぁまぁ、女の子側から言っちゃだめ、なんてルールありませんしー?」


 それを言われたらまぁ……その通りなんだが。

 ほんと、こいつはどこまでが本気なのか、よくわからん。


「はぁ、卵の入った中華スープは旨いなぁ……」

「おかわりありますから、たくさん食べてくださいねー!」

「いつも悪いねぇ手間をかけさせて」

「いやですよあなた、それは言わない約束ですよ?」

「誰が『あなた』だ」

「くふふー! 将来の予行練習、みたいな?」

「それだと、まるで俺がお前に養われるヒモみたいだな……」


 将来、天音に養われる自分を想像し、ぶるっと身を震わせた。

 いやまぁ、一生こいつと一緒にいる、なんてことはないと思うんだけど。


「いつでも私に頼ってくださいね!」


 絶対に頼らねぇ。



 * * *


 そして食後、洗い物を終えたらゆっくりと珈琲を飲んで過ごすのもいつもの日課だ。

 それを終えたら、しばらくして天音を上の部屋まで送っていき、一日が終わる。

 いやまぁ、送る必要なんてないと思うんだけど、一応、一応ね?


「先輩、そろそろ私、帰るのが面倒なんで先輩の部屋で寝泊りを」

「なぜそれが許されると思うのか、理解に苦しむ」

「これもまた将来の予行練習、みたいな?」

「そのような予定はありません」

「もー! なんでですかー!!」


 そもそも真上の部屋に帰るだけで何が面倒くさいというのか。

 いやまぁ、家賃がもったいなく感じるのはその通りなんだけど。

 それくらい、最近のこいつは俺の部屋に入り浸っているわけで……なぜこうなってしまったのか、本当にわからない……。


「それじゃあ先輩、また明日の朝!」

「おう、たまには一人で学校行ってもいいんだぞ?」

「くふふー! いやでーす!」

「さよか……」

「先輩! んっ!」


 そう言って、天音が目を閉じて……なんだ?


「先輩! おやすみのちゅー! おやすみのちゅー忘れてます!」

「したことないだろう……がっ!」

「あいたーっ!? なんでちゅーじゃなくてデコピンなんですか!?」

「アホなこといってないでさっさと部屋に入れ、近所迷惑だろ」

「もーっ……ほんと先輩、そういうところです!」

「どういうところだよ……じゃあな、お休み」

「はい、おやすみなさい先輩♡」


 はぁ、あいつの相手は、本当に疲れる。

 ……嫌な疲れじゃないのが、なんとなくしゃくだけどな。

 これから先、いつまでこんな生活が続くんだろうな?


 見上げた空に、星は全く見えなかった。


なお、天音宅前で「おやすみのちゅー」などと騒いでいたのは周辺住民に丸聞こえである。

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