えっ、これもらってもいいんですか!?
というわけで。
今日は天音を先に帰らせ、天音へのプレゼントを回収に来ていた。
なにをプレゼントするかについては
「一雪にしては悪くはない」
とのお言葉を頂いたので、安心して購入することが出来た。
音琴の女の子目線のアドバイスも頂けたので、おそらくこれで問題はないはずだ。
そういえば、あの時何か気になることを言ってたような……。
『それにしても文房具ねぇ』
『これなら、授業でも家でも使えて邪魔にもならないしいいだろ?』
『常に自分の存在を身近に感じてほしい、って独占欲の現れってやつね』
『ははは、一雪もなかなかやるじゃないか』
『そんな事1ミリも考えてなかったわ』
なんだこの恋愛脳。
ただ文房具もらえたら嬉しいよねってだけがどうしてこうなる。
俺にはよくわからない思考回路してやがる……。
『ただ、一つ心配があるのよね……』
『なんだよ、不安になるその言動』
もしかして、値段か? 値段が足りなかったのか!?
だがこれ以上のお値段は、一介の高校生には辛いものがある。
申し訳ないが、これで我慢してほしい!
『いえね、あの子一雪に貰ったもの、使えるのかなって』
『……使うだろ?』
『これまでの言動を見てると、神棚にでも飾りそうな気がして……』
『はは、流石にそれはないだろ!』
ないよね?
***
その日の夜。
いつも通りの夕食後。
いっそ違和感を感じるほど、いつも通りの夕食だった。
メニューは鰤の照り焼き、ほうれん草の御浸し、しめじのお味噌汁と
誕生日ってなんだっけ? と思わざるを得ない地味なメニューだった。
家庭的なメニュー、いいよね。
しかしケーキの一つもないのはどうかと思うよ?
こんなことなら買ってくればよかったな……。
それにしても、天音は自分の誕生日とか忘れてるのか?
自分からも言い出さないし……俺の知ってる天音なら、自分から言い出してもおかしくないのになぁ。
洗い物を終え、天音へのプレゼントを持ち部屋に帰ると、ぼーっとテレビを見ている天音がいた。
何が面白いのか、ねこがただ歩いているのを解説するだけの番組だ。
「面白いのか?」
「うーん……面白いのか、と聞かれると……可愛いですね」
「お前、猫好きなの?」
「はい、好きですね。流石に飼うのは無理なんで、諦めてますけど……」
そうか、天音は猫が好きだったのか。
俺って、ほんとこいつの事なんも知らないんだなぁ。
これからは、ちょっとずつでいいから、天音の事を知ったほうがいいのかもしれない。
「先輩、どうしました?」
「いや、なんでもない。……ん、これ」
そう、膝の上に載せてやると、天音はなんのことかわからない、と
目を瞬かせ、不思議そうな顔をした。
あ、これなんのことかほんとに分かってない顔だな……。
「なんですか、これ?」
「今日、お前誕生日なんだろ?」
「……先輩、私の誕生日……知ってたんですか?」
「五百里と音琴から聞いてな、て言うかお前も言えよ」
「いやー……はは、自分から言うと、催促してるみたいに聞こえるかなって」
「まったく、変なところで気を使うやつだな……ケーキくらい用意しとけよ」
そういうと、天音が表情を綻ばせる。
う、可愛い……。
「ありがとうございます……大事にします! あけてもいいですか?」
「もちろん、お前にやったものだからな」
頷いてやると、天音が丁寧にラッピングを解いていく。
一応、五百里と琴音にも確認は取ったし、大丈夫だとは思うけど、緊張するな……。
「わぁ……」
中から出てきたのは、化粧箱に納められた、ピンクゴールドのちょっとオシャレなボールペンだ。
事前に注文することで、名入れ対応もしてくれるというので、天音の名前を刻印してもらっている。
これならば、プレゼントとしても重すぎず軽すぎずでちょうどいいだろう。
「可愛いデザインですね……」
「それなら、普段からでも使えるだろ?」
「ありがとうございます、嬉しいです! 家に飾っておきます!!」
「いや使ってね?」
「えぇ……先輩からの初めてのプレゼントですよ!? 神棚に飾らないと……!」
「そういう風に使うもんじゃないから、それ!」
「えー……もったいなくて使えませんよぉ……」
「普段使いして欲しくて贈ったものだから……!」
音琴が心配してたのと、全く同じ事言ってるんだけど!
え、これは音琴が凄いの? それとも、天音の行動が読みやすいの? どっち!?
「くふふ……でも、ありがとうございます、凄く嬉しいです!」
「喜んでもらえて何よりだ」
「これで、授業中でも先輩が身近に感じられますね♡」
「あれっ、やっぱりそう考えるものなの!?」
もしかして、俺の考え方が枯れ果てすぎているんだろうか?
わからん、今時の高校生の考え方が、俺にはもはやさっぱりわからない!
「はー、嬉しいなぁ……先輩から貰った、って自慢しちゃお!」
「おいおい、誰に自慢するんだよ」
「え、クラスの女子で作ってるLINEグループとかインスタとか?」
「お前、そんなことしてたのか……」
なんか、時々写真とってるのは知ってたけど、まさかそんな事をしているとは。
てっきり、どこかへの報告用で写真を撮っているとばっかり。
だって、何か食べてるときに写真撮るのが多かったからさぁ!
「くふふ、今年の誕生日は、今までで一番嬉しいです!」
「あー……その、うん。誕生日……とは別なんだけど」
「? はい」
「こっちは、おまけだ」
もう一つ、紙袋を天音に手渡す。
これは夕方、別に購入したものだ。
これを一目見たときから、どうしても天音が頭にチラついて、渡したくなり
追加で購入したものだった。
これはあいつらにも相談していないので、どう思われるかが心配だ。
「えっと……これも開けてもいいんですか?」
「ああ、いいぞ」
そう言って、ふいっと顔を背ける。
天音は天音で、訳が分からなそうに「おまけ?」と呟き、首をかしげている。
流石にこれを開けて、天音がどんな顔をするのかを想像するだけで怖い。
こちらもまた、丁寧にラッピングを解き、中身を大事そうに取り出し……
「これは、キーケースですか?」
「そうだな、キーケースだな」
それは、ふと街中で見かけたものだった。
空から落ちてくる音符をうさぎが見上げている、という絵が刻印されたシンプルなデザインで、
それを見たときに、ふと天音の顔が浮かび、どうしてもプレゼントしたくなったのだ。
「わぁ、可愛い……ふふ、うさぎさんだ」
「ま、そんな高いもんでもないから、気にしないで使ってくれ」
「えへへ……嬉しいなぁ……ありがとうございます……って、あれ? 中に何か……」
う、気付かれてしまったか。
出来れば、家に帰るまで気付かないで欲しかったんだが……。
そう、このキーケースには、先に一つ、あるものをつけて天音に渡していた。
これが今回、一番緊張した理由でもある。
「あの……先輩、この鍵……」
「あー、うん、それうちの合鍵。ほら、俺がバイトで夜遅いときとか、時間が合わないときとか、いつも待たせてるだろ? ずっと悪いなって思ってたんだ。だから、合鍵渡しておけば、そういう無駄な時間がなくなるかなって、そういう理由だから。使わないなら使わないで、別にいいし」
ここまで一息で、早口でまくし立てる。
うわ、この人焦ると早口になるの、気持ち悪いな……とか思われてたらどうしよう。
「いいんですか?」
「まぁ……もう2ヶ月近くお前を見てるけど、特に悪いこともしないし」
「朝早くに勝手に入って、朝ごはんの支度とかしてるかもしれませんよ?」
「朝飯ちゃんと食えるのは、結構助かるから全然悪いことじゃないな」
「先輩のシャツとか下着とか、勝手に持って帰っちゃうかもしれませんよ?」
「え? それはさすがにドン引きするからやめてくれる?」
くすくすと笑う天音を、憮然とした表情で見つめる。
こいつは時々、よく分からないことを言うが、多分悪い奴ではない。
今でも何を考えて俺と一緒にいるのかは分からないが、そんなに酷いことはしないだろう、という一定の信頼感を、天音に対して抱いていた。
「なんだか最近の先輩、最初の頃にあった警戒感が薄れて来てますよ?」
「……俺にも自覚はある」
「もう! そういうところ、私以外の女の子には見せないでくださいね!」
「俺の周りに来る女の子なんて、お前くらいだよ」
実際、俺の周りにいるのは音琴と宮藤さんくらいしかいない。
天音以外に見せることなんて、まずないよ……。
「くふふ、でもこの分だと、先輩が私を好きになってくれるのも、そう遠くないですね♡」
「天音様のご期待に添えず誠に残念ではございますが、お断り申しあげます」
「なんでですかー!!」
いつも通りの反応の天音に、思わず笑ってしまった。
天音と二人のこんな時間は、悪くないと思いながら。





