留年しませんか?
「せーんぱいっ、お昼いきましょー!」
いつものように弁当を手に提げて二菜が教室にやってきて、俺に声をかけて。
それを見たイケメンくんが性懲りもなく二菜に声をかけてすげなく無視されて。
その後、二菜を連れて中庭まで出る、いつもの昼休み。
中庭でレジャーシートを広げて昼を食べていると、ちょっとしたピクニック気分だ。
天気は良好、暑すぎず寒すぎずなんとも言えない気候がたまらなく気持ちいい。
春、万歳。
「ふわぁ……ほんと、今日はいい天気だなぁ……」
「ですねぇ、ぽかぽかしてて気持ちいいです」
「こんな気持ちのいい日に、なぜ学校へ来なければいけないのか、これがわからない」
「学生だから、ですかね?」
「早く卒業したいよなぁ……」
卒業したら、今度は大学生活が待ってるんだけどさ。
そしてそのあとはようこそ社畜生活へ、だ……辛い!
「先輩、一年留年する気ありません?」
「やだよ!?」
「ちぇー、可愛い彼女ともう一年、楽しいアオハルしたいなーとか思わないんですかー?」
「せっかくのご提案をいただき、大変恐縮ではございますが、この度はご提案をお受けいたしかねます」
「もーっ! なんでですかっ!!」
なんでですかも何も、どこの世界に自分の彼氏を留年させようとする奴がいるんだよ。
絶対やだよ、同学年に先輩とか言われて、腫れ物を扱うような扱いされるなんて!
その後もぶーぶーと言い続ける二菜を無視して食べ終わった弁当箱を片付けると、ごろんと横になった。
食べた後に寝ると牛になるとよく言われるが、食べ終わったあとのこの心地よい眠気に勝てる人間などいるだろうかいやいない。
目を閉じると、このまますぐに眠れそうだ……。
「先輩、寝ちゃうんですか? 今寝たら絶対5時間目出れませんよ?」
「寝ない寝ない、ただ目ぇ閉じてるだけだから」
「といいつつ、なんかもう完全に寝る体勢に入ってるんですけど?」
「大丈夫だって、ちょーっと目ぇ閉じるだけ……だから……」
「あっ! 膝枕します? それとも添い寝!?」
「……どっちもいらん……」
「もうっ、なんでですか! ……って、本当に寝ちゃいました?」
*
そよそよと心地よい風が吹く中、寝ない、寝ないと言いつつ先輩はあっさりと夢の世界へと旅立ってしまいました。
もうっ、授業中は一緒じゃないから、お昼くらいはのんびり先輩と過ごしたいのに!
……まぁ、家に帰ればずっと一緒なんですけどね、えへへ。
「それにしても、先輩また髪伸びたなぁ……」
顔にかかる前髪を横によけると、いつも眉間に皺を寄せた先輩のあどけない寝顔が目に入りました。
寝てる時は眉間に皺よらないんですよねー、ふふふ、可愛いなぁ可愛いなぁ。
髪を切った先輩もよかったですけど、やっぱり先輩はこっちの方がいいですよね、うん。
なんか、変な女の子も寄ってきますし!
変な女の子、で頭をよぎるのは昨日の牧野さん。
言ってることはエキセントリックで結構アレな感じでしたが、あれはいただけません。
目が本気でした、あの子は要注意です!
「絶対、負けませんからね……!」
キョロキョロとあたりを見回し、誰もこちらを見ていないのを確認すると、先輩に顔を寄せて……。
「んー……」
ふぅっ……よし!
これで午後も頑張れます!
その後は先輩の寝顔を堪能しつつ、休み時間をギリギリまで過ごしたのでした……。
ここまで読んでいただいて、ありがとうございます。
誤字報告、いつもありがとうございます!
報告・連絡です。
GA文庫様より2020年7月に2巻が発売予定です。
何卒、よろしくお願いいたします。