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好きな男の子の枕の匂いをかいで何が悪い

 すりおろしりんごを持ち帰った俺を待っていたのは……。

どこからどう見ても変態な後輩の姿だった……!


「お、お、お前、何やってんの!?」

「先輩!? ち、違うんです!」

「何が違うの!?」


どう見ても俺の枕の匂いかいでましたよね?

この変態! 変態!! 変態!!!

俺にイルカの絵を売りつける極悪人だと信じてたのに、まさかタダの変態だったなんてっ!

やだ、貞操の危機を感じる……っ!!


「考えてくださいよ、先輩だって好きな女の子のお布団に入ったら匂いかぎますよね?」


こいつは何を言っているんだ。


「そして私は先輩が好き! なら枕に顔を埋めて深呼吸するのは間違っていません!」

「いややっぱりおかしいし間違ってるわ! お前もう家帰れ!」

「すいません大人しく寝てますからここにいさせてくださ……けほっけほっ!!」


全く、コイツ本当に体調悪いのか?

なんか怪しくなってきたぞ……。

はっ、ま、まさか風邪だといって俺を油断させて、印鑑を探すつもりか!?

くそっ、天音め……そこまでして俺に羽毛布団を買わせたいのか……っ!


「ほら、りんごすって来てやったからこれ食って、薬飲んで寝てろ」

「はーい……ありがとうございます……食べさせてくれたりは……」

「しません」

「ちぇー、先輩のけち……」


うーん、口調は軽いけど、結構しんどそうだな。

起き上がるのもダルそうだ変態的行為をする余裕はあるようなのが微妙にあれだけど……仕方ない、ほんと仕方ない!

嫌だけど! ほんと嫌だけどこれは人助けだから!


「……ほら、口開けろよ」

「へ……」

「しんどいんだろ? 食べさせてやるって言ってんの」

「………………」

「なんだよ」

「せ……」

「せ?」

「先輩がついにデレたーーーーけほっけほっけほっ!!」

「ああほら、しんどいんだったら大声出すなバカ!」


なんでこいつ学習しないの……?

あれ、こいつ今年の新入生代表だって五百里言ってたよな?

……もしかして五百里が勘違いしただけで、別人かな?


「くふふ……先輩、あーんですあーん♡」

「はいはい、あーん」

「くふ、くふふふふふふふふふふ♡」

「気持ち悪い……」


こいつが気持ち悪いと思ったのは今日が始めてかもしれない。

風邪の熱で変なテンションになってないか?


「なんか餌付けしてる気分になってきた」

「はい、二菜餌付けされちゃいました! 先輩大好きです!」

「はいはいじゃあ次はお薬飲もうね」

「私、粉薬嫌いなんです……」

「わがまま!」


今日の天音はほんとわがままだな!

オブラート使えオブラート!

天音に薬を飲ませ、額にひえひえパッドをぺしっと貼ってやる。


「あうっ!」

「ほら寝ろ寝ろ、俺はちょっと電話しに出てくるからな」

「わかりましたー……」

「いいな! ちゃんと寝てろよ!!」

「はぁい……」


 * * *



「というわけで、悪い五百里、音琴に頼んで、天音が休むってこと、学校に伝えておいてくれ」

『わかった、それくらいならお安い御用さ。天音さんは大丈夫なのかい?』

「んー、どうだろ、さっき寝てろって言ったから、多分寝てると思うけど……」


……寝てるよな!?

さっきの様子だと、俺の下着とかあさっててもおかしくないぞ……。

いや、流石に天音のような美少女がそんな事をするわけがないな、うん。


『それにしても、ずいぶんと仲良くなったんだね、天音さんと』

「仲良くなってねぇよ、どこが仲良く見えるんだ?」

『わざわざ学校休んで、看病しようとしてるのに? 嘘が下手だねぇ』

「見張ってないと、印鑑でも持ち出されたら大変なことになるからな」

『なるほど、今は一雪の部屋にいるんだね、天音さん』

「…………いねぇよ」

『……うん、うん、そういうことにしておこうか。 GWは4人で遊びに行こうね』

「行かねー……じゃあ、音琴にもよろしくな」

『また明日、学校でね』


そして自分が休む連絡を、学校へ入れる。

あ”ー、ずい”ま”ぜん、風邪を”引い”だみ”だい”でーごほごほっ。

よし、完璧だ。

少し体を前にかがめて、発声しにくくなる体勢になるのが肝心なのだ。

将来、どうしても仕事を休みたいときでも俺の演技力ならば、簡単に休みが通るだろう。


さて、ついでにコンビニまで行って、スポーツ飲料でも仕入れてきますかね?

……どうして俺は、こんなに甲斐甲斐しく天音の世話をしているんだろう?


ふむ。

……なんでだ?


 * * *


 スポーツドリンクやらプリンやら、病人でも食べれそうなものを一式購入し、部屋に帰ってきてみると、天音はぐっすり寝ていた。

しかし汗をかき、多少苦しそうではあるが、俺にはなんとも出来ない。


それよりもいつの間に脱いだのか、ベッドの横にスカートが畳んで置かれているのがとても気になる。

え、今俺の布団の中、そういうことになってるの?

やだ、いくら俺が鋼の精神を持っているとはいえ、緊張しちゃう!


「けほっ、けほっ!!」

「ほら、そんなこと言ってる場合じゃないだろ……」


さっき貼って行ったひえひえシートも一度取り替えてやるか、新しいのも買ってきたし。


「……ちょっと失礼、ひえひえシート張り替えるからなー」


ぺりっとフィルムを剥がし、貼ろう……としたところで、ふと手が止まる。


……ふむ、こうやって静かに寝ていると、天音は本当に可愛らしい少女だ。

今でもよく下駄箱にお手紙を入れられたり、告白されたりしているというのも頷ける。

……それを補って余りある、あの残念ささえなければ、もっと可愛らしくなるだろうに。

なんだよ、人の枕の匂いかぐっておかしいだろ、そしてそれをおかしく思わないこいつはもっとおかしいだろ!


 そういえば、学校で俺といない時の天音って、俺あんまり見たことないんだよな。

まさか一人のときも、ちょっとねじが外れたような言動をしているのだろうか?

流石に、そんな頭痛いことはないと思いたいが……。


 天音の顔を覗き込みながら、そんな事を考えていたのがいけなかったのだろう。

ふと、天音の目が覚め、俺と見詰め合う形になってしまう。

ぱっちりとした大きな瞳に、吸い込まれそうな気がして…………。


「先輩、寝込み襲うのはいいですけど、出きれば風邪じゃないときに……」

「襲わないよ!?」


ああ、やっぱいつもの天音だわ。


「くふふ……ここまでくれば、既成事実ができるのももう少しですね……」

「作らないし、そんなことやらないから……それより喉渇いてるだろ?」

「あー……はい、そうですね……すいませんほんと……」

「いいって、ちょっと飲んだらもう一回寝ろ」

「はい……あの、先輩、お願いがあるんですけど……」


天音が、真剣な目で俺にお願いをしてくる。

これは、ちゃんと聞いてやらないといけないやつだな。

俺も天音を真正面から見て、お願いとやらを聞く態勢になる。


「なんだ、できる事なら聞いてやる」

「ありがとうございます……それじゃあ早速、添い寝を」

「お休み天音」


そういい捨て、部屋の扉を閉めてやる。

全く、ほんとこいつは! ほんともうこいつは!!


「はぁ……そういう塩対応の先輩も……私大好き……♡」



俺は多分、こいつを理解することはないだろう。

そう、確信を持った一日だった。

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